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騎士中央士官学校へ

「これは、すごいな・・・・・・!身体の内側から力が溢れ続けてくる」


 昔のことを思い出し、苦笑するアルス。アルスは興奮を自覚しながらも、自重しようとした。反面、これをマスター出来れば凄いことになるぞ。と、胸の高まりを抑えきれない。それからの日々は、魔素を身体に流し込みながら頭と身体のズレを修正していくことに夢中になっていった。一日、二日、一か月と日を追うごとに上達し、数か月も経つと感覚のズレは少なくなり、かなり上手く扱えるようになっていた。


 むしろ最も頭を悩ましたのは剣術指南役のカールとの練習だ。以前は剣術ではとても敵わなかったカールですら魔素を巡らせた状態でなら互角以上の戦いが出来るのではないかと思った。しかし、カールが相手となると魔素を使った途端にバレてしまうだろう。そこで、基礎能力の向上をしたいとアルスのほうから申し出て魔素を使わない練習に切り替えていた。これなら変な気を回さずに練習に打ち込める。


 いずれにしても身体能力を爆発的に向上させる魔素を使うということは、身体に対する負担も比例して大きくなる。こうした基礎鍛錬は、魔素量が急激に増加したアルスにとってはいくらやっても損ということにはならない、むしろありがたかった。



※※※※※



 そして季節は流れ大陸エルム歴七三一年、十三歳の春、アルスは騎士中央士官学校に進むことになる。アルスは王族としての道は断たれていたことを嫌という程理解していた。となれば、軍務について戦場で功績を挙げるほうが早いと考えたのだ。この学校は軍人を養成する基礎学校だが、貴族や王族だけでなく成績が優秀であれば平民まで門戸を開く珍しい学校だ。学校では身体能力向上こそ全ての基礎基本にあるという創設者の理念から、身体強化が禁止されているというのもひとつの特徴であった。


 身体強化と魔素については、この上の学校でさらに訓練・研究することになっているというのもひとつの理由である。


 ここで、アルスはひとりの少年と出会いを果たすことになる。アルスが初めてクラスに通された時、周りの生徒たちはざわついた。王族がクラスにいれば噂になるのも早いのだろう。一番奥の席に案内されて着席をしたアルスは、入学初日から腫物にでも触るような扱いで少々ウンザリしていた。


 そんなアルスに屈託のない笑顔で自己紹介をした少年がいた。アルスの隣に座っていた少年の名前はフランツ・クレマン・リンベルトといった。名前を聞くに平民の出なんだろう。栗色の髪と深い青色の瞳といたずらっぽい笑顔が印象的。それにつられてアルスも思わず笑顔になる。


「よろしくね!」


「ああ、こちらこそよろしく!」


 あとで僕の名前と素性を知ったときのフランツは一瞬驚いた表情を見せたが、それだけだった。何年も経った後で「いやぁ、あのときはどうしようかと思ったよ。俺の最初の友達が王族だなんて思わなかったからさ、正直とんでもない奴に声掛けちゃったんじゃないかってちょっと焦ってたんだ」と笑い話の種にされている。


 学校生活にも慣れてきたある日、アルスの隣のクラスの男子と取り巻きの数人がフランツを見かけて近づいてきた。


「おい、なんでこの学校にドブネズミがうろちょろしてるんだ?」


「おい清掃人はいないのか?」


「臭い臭い、臭すぎるんだよ平民風情が」


 彼らは嘲笑しながら唾を吐いた。その瞬間フランツの右こぶしが少年の一人の顔面にめり込む。すかさず、数人がフランツの制服の襟をつかんで押し倒そうとするが身をかがめて、掌打で手を払いのけるのと同時に一番身近にいた生徒の腹に蹴りを入れて吹き飛ばした。周りの生徒たちが怯んだ隙に距離を取る。


 フランツの尋常でない立ち回りを偶然見かけたアルスは、驚きながらも自身の身体はすでに動いていた。フランツを再度掴みかかろうとした生徒に右フックをお見舞いすると、フランツと男子生徒たちの間に入った。


「大勢で寄ってたかってやることか?」


 取り囲んでいた少年たちの中から「殿下!?」と声が上がり、驚いた表情に変わる。彼らの中でまさか王族が平民側に付くとは思っていなかったようだ。


「くそっ、行くぞ」と舌打ちしながら彼らは去った。


「ありがとう、殿下」


 フランツは服を手で払いながらアルスに声を掛ける。


「よせやい、殿下なんて。アルスでいいよ」


「ハハッ、ありがとうアルス」とフランツはいつものいたずらっぽい笑顔に戻った。


「アルス、あいつらいったいなんなんだ?」


 そう問われてアルスは先ほどの少年たちの顔に一人だけ見知っている顔がいたことに気付いた。その一人とはヨーゼフ・フォン・ブラインファルクである。レバッハ地方を治める西部領主、ブラインファルク侯爵家はローレンツ最大の貴族派閥をまとめるリーダーである。隣国レーヘとの橋渡し役として重要な役割を果たしている家であり、ローレンツ国内であれば子供でも知っていた。そのことをフランツに話して聞かせる。


「ケッ、家柄だけで自分が優秀だとか思ってる連中は最悪だな!」


 そう言ってのけるフランツにアルスは親しみを感じた。家柄のことをいうなら、アルスは王族である。そのアルスに向かって本音をぶちまけるフランツに、裏表の無い人間性が素直に嬉しかった。


 だからこそ、そういう反応をしたフランツに対して思わずアルスから笑いがこぼれた。怪訝な顔をして見ているフランツに対してアルスが説明する。


「いや、普通そんな大貴族に睨まれたら、どうしよう?とか言うんじゃないかと思ってさ」


「俺はそんなこと思わないよ。相手が誰であってもバカにしてくる奴は絶対許さない」


 アルスはそんなフランツを見て嬉しかった。立場の違いから萎縮したり敬遠したりされるよりも、本音でぶつかり合う相手を見つけることが出来たのだ。


 それ以降アルスとフランツは学校内で一緒に過ごすことが多くなった。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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