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ニコデモス司祭とグランバッハ商業協会

 ニコデモスはこの話が彼に来たとき、タイミング的にリスクが高いという理由で一旦断った。しかし、再度本国から手紙が来た。内容は要約すると、以下のとおりである。


 これは神託である。ガーネット様の教えを知らぬ辺境の民のもとに宣教師としてあなたを派遣した。そして三年が過ぎたが信者の数が思ったより伸びていない。そして、この地の領主であるリヒャルトという者はガーネット様の教えに対して未だに理解を示さず、異端の神に仕えている始末である。


 ガーネット様の慈悲深い心を理解出来ない民を神は神敵として滅ぼすと経典に記されているのは貴殿もよく存じている通りである。しかし、神はさらに深い哀れみと忍耐を持って一部の輩にその神威を示すと仰られている。そのために、グランバッハ商業協会の者を神の使いとして貴殿に遣わすであろう。よくよく考えられたし。


 さらに末尾には、この神の意志を忠実に実行した暁には司祭長のポストを約束し、且つ本国であるザルツ帝国に戻れると記されてあった。


 こう説かれたら、ニコデモスとしてはもはや断る理由も無かった。こうしてニコデモスは神の意志に忠実なるしもべとして、グランバッハ商業協会の計画に乗ることになる。話はとんとん拍子に進んだ。会談の場でニコデモスは最も危惧していたことを商業協会のフリートと名乗る男に尋ねた。


「今回の件だが、我々としては余り目立つようなことはしたくないのだ。本部からの連絡で了承はしている。だがしかし、それでも私は時期尚早だと考えている」


「その点についてはお任せください。この地の新聞社は既に我々が押さえてあります。事が洩れようと司祭にまで追及の手が伸びることは決してありません」


「それもあるが、私は実行部隊のことを言っているのだ。ここは辺境の地であるのだ」


「|聖なる誓いの騎士団セイントオースリッターは動かないということですね?」

 

 彼の言っている|聖なる誓いの騎士団セイントオースリッターとはガーネット教お抱えの聖騎士団である。狂信的な軍団であり、異教徒には容赦ないと恐れられていた。ただし、一度動かすと歯止めが効かない。彼らは女性であれ子供であれ異教徒を殲滅することが目的であり、その過程で略奪することも厭わない。


 まかり間違えば、ただの野盗と変わらないのだが、上級騎士たちの化け物じみた戦闘力と騎士団の狂信的な士気により何度も地図が塗り替えられてきた歴史がある。


「動かない。あれほどの規模の神の軍隊を動かしてしまっては戦争になる。そもそも僻地であるここに派遣するだけで金がどれほどかかると思っておる?」


「ここの担当はどこの師団になるのでしょうか?」


「ここは第六師団が担当している」


「その第六師団から少数部隊だけ選別して派遣するというのは?」


「ない。そもそも本部からの手紙にはそのことには一言も触れてはいない。つまり、本部は派遣する気が無いということだ。そちらで手配してもらいたい」


 一瞬間をおいてフリートは返事をした。この男は一切何もする気がないということがよくわかった。それでも気を取り直して張り付けた笑顔で応対する。


「わかりました。それでは、実行部隊もこちらで手配いたしましょう」


「大丈夫かね?」


「もちろんです。我々も二重三重に間を通して傭兵連中に任せます。そちらに危害が及ぶようなことはありません。ご安心ください」


 フリートはニコっと笑った。その後も司祭と詳細について話をすると帰って行った。フリートは馬車の中に乗り込むと大きく息を吐く。一緒に乗り込んだ若い部下が「どうしました?」と尋ねた。


「司祭のニコデモスというじじい、野心ばかり大きい癖にリスクを一切取らないクソじじいだな。自分の保身ばかり気にする」


「あの手の人間は土壇場になると使えないですね」


「全くだ。こちらに全てお膳立てさせて利益だけ全て取ろうという腹づもりだ。これでは何のためにガーネット教の連中と組んでるかわかりはしない」


「何か手を打ちますか?」


 そう言われて、しばらく考えていたがフリートは首を振った。商業協会としては、この地の鍛冶ギルドを手に入れたいのだ。これだけ優れた鍛冶師が集まる街のギルドを押さえてしまえば、どれだけの利益が手に入るだろうか。そのためには鍛冶ギルド長であるエハルトが邪魔なのだ。彼の頑固さは折り紙付きだった。


 資金や利権をちらつかせ懐柔させようとしたが失敗。新聞社を使ってエハルトのスキャンダルをネタにギルド長の地位から失脚させるつもりで何度か記事を書かせてもみた。しかし、これも堅物で女の色香にも屈しないエハルトの性格から、逆に新聞社が訂正記事を出さざるを得ない羽目になってしまった。そうなればもう脅迫しか手は無い。しかし、エハルトの親族に手を出せば我々が疑われる可能性がある。だからこそ、ガーネット教を引き入れたのだ。


「なに、万が一うまくいかなかった場合は奴に全責任を取らせよう。言質は取ってある。奴が何も言ってなくても、あの会談自体が既に言質だ。我々が莫大な金をガーネットの連中に回しているのはこの時のためでもある。奴が何もしないというのであれば、せめて我々の保険としての役割くらいは演じてもらわなくてはな」


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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