表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/324

ガーネット教と三大ギルド

 リヒャルトの放った部下から報告が入ったのは、それから二週間近くも過ぎた頃だった。七月も半ばに入り、夏の暑さも本格的になってきた季節である。


 ノルディッヒ城内の狭い一室にはリヒャルト伯爵とその部下に加えてアチャズを交えた三人の男が集まっていた。諜報活動を担っていた男の名はダゴンといい、長年その道でリヒャルトを支えてきた諜報部隊の長である。普段はこうして彼が直接リヒャルトに会って報告することはなく、彼の部下がすることである。


 彼が行っているのはガーネット聖典教に潜入して信者を偽装し動きを探る仕事をしているからであって、直接リヒャルトに会うということはそれだけリスクに繋がるからだ。もちろん、そうした場合は城の正門から入ることなどせずに裏口からこっそりと入るのだが、その際も城門の兵士を装うなどの念の入れようだ。彼が直接リヒャルトに伝えるということは、それだけ正確に伝えたい情報が取れたということである。


「聞こう」


 リヒャルトが口を開いた。ダゴンはそれとなく周囲を確認すると声を低めて報告をする。


「ご存知のように、我が国の大半はイシス教徒です。改宗を迫り、拒否する者は虐殺、もしくは奴隷に落とすということをいつ実行するかと監視していました。この三年ほど大人しくしていたようですが、先週から遂に動き始めたようです」


「なるほど、無差別にか?」


「最初は無差別に行っているものと思われましたが、意図的に動いております」


「どんな意図だ?」


「今まで異教徒の名のもとに粛清されたのは全て現在の鍛冶ギルドの長エハルトと関係が深い者であります」


 リヒャルトはエハルトと聞いて腕を組んで黙った。エハルトはノルディッヒ州の主要産業を牽引するリーダーだ。


 もちろん、何度も会ったことがある。性格は一言で言えば実直。問題を起こすような人間ではない。ガーネット教と繋がりがあるどころか、恨みを買うと考えるほうが難しい人物だ。


「動きから察するにエハルトが標的というよりは、揺さぶりをかけているような感じです」


「エハルトはガーネットと何か因縁でもあるのか?」


 リヒャルトが尋ねるとダゴンは首を振った。


「ありません。ないどころか、彼は無宗教です。改宗を迫ったという事実もありません」


「何か別の意図があって動いているということか・・・・・・わからんな」


「恐らく、そのうちエハルト本人にガーネットが接触するかと思いますが、何らかの脅迫をするつもりかもしれません。それともうひとつ別の動きとして、商業ギルドの者が聖典教のニコデモス司祭と同室から出てくるのを確認しています」


「どこのギルドの者か?」


「グランバッハ商業協会の人間であるというところまではわかっています。それ以上はなんとも」


 グランバッハ商業協会、三大ギルドの一角だ。帝国とガーネット教、このふたつはは間違いなく繋がっている。そこは疑いの余地がない。ガーネットだけで動いているのなら、そこに帝国の意志が介在している可能性が高い。ただ、三大ギルドが絡んでいるのは何故か?


 そこまで報告すると、ダゴンは黙った。リヒャルトも何かを考えているようだったが、黙ってしまい長い沈黙が流れた。


「リヒャルトさま、先日私が会った商人の中に面白い男がいたのです」


 アチャズが、思い出したようにぽつりと話を切り出した。


「名前は確かジェルモと言いましたか、たまたまパーティーの席で隣になった男です。彼からこの地方に蔓延っているガーネット聖典教について話題を振られたのです。彼が言うには、ガーネット聖典教はいずれ反乱を起こすだろうから注意したほうがいいとのことで」


 ガーネットが反乱を起こすだろうことを知っている人物。先の神託戦争の件のことも恐らくよく知っているということだ。頭の中で何人か浮かぶが、名前が一致しない。


「ふむ、商人風情がどうしてわざわざガーネット教の忠告をするんだ?」


「そこまではよくわかりませんが、根掘り葉掘り私がしつこく聞きだしまして。どうもガーネット教と三大商業ギルドが裏で繋がっているというようなことを言っておりました」


「三大ギルドが・・・・・・?」


 そのジェルモという男の言っていることは、リヒャルトの疑問とも一致した。先ほどからずっと疑問に思っている。


 宗教と利益を追求するギルド。ガーネット教と三大ギルドがどうして繋がるのか?


「はい、それからその件についてはアルトゥース殿下と相談をすべきだとも」


「殿下に?わけがわからんな」


 リヒャルトはしばらく腕組みをして考えていたが、短いため息をつくとふたりに指示を出した。


「考えていても埒が明かんな。アチャズ、卿の会った男、ジェルモであったか。その男の言う通りであれば、先ほどのダゴンの話とも辻褄が合うことになる。私もその男に会って話をしてみたい。手配を頼めるか?」


「わかりました。この近くにまだいるか探らせてみましょう」


「頼む。それから、ダゴンは引き続きギルド長エハルトに対しての動きを探ってくれ。同時にグランバッハ商業協会の人間がまた来るようなら報告をしてもらいたい」


「部下にも命じて出来るだけ注意深く見てみます」


 その日から二日後、リヒャルトは商人ジェルモとの面会を期待していたが、既に街を離れて足取りが掴めないとの報告をアチャズから受け取った。


※※※※※


 州都アウレリアのメインストリートから裏路地に入って二十分ほど歩くと、ガーネット聖典教会の古びた建物が見えてくる。ノルディッヒに進出してから三年余りが経過しているが、建物は賃貸で借りている状態で見た目は普通の建物と変わらない。ザルツ帝国の教会は壮麗な建築物として有名だが、こちらの方には期待していたほどの資金を回してもらっていないのが現状だ。


 ノルディッヒに宣教師として赴任したニコデモス司祭は、その建物を見るたびにしかめっ面をした。ここに赴任してから本国に何度も教会の新築費用を催促しているのだが、一向に良い返事が来ない。ノルディッヒの本部ですらこの状態ではガーネット様の威光を示すことすら出来ない。金がない金がないと本国の連中はいつも同じ返事だ。挙句の果てにようやく来た返事が三大ギルドの奴らから金を出させるときたもんだ。話を聞いてみれば特定の人間を異端者として消せだと!?

 

 まったく・・・・・・。この辺境の地に住まう無知蒙昧で哀れな民にガーネット様の教えを知らしめる時間すら与えんとは・・・・・・。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ