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三大ギルド・レオノール大商会の思惑

「これはこれは殿下、お待ち申し上げておりました」


 アルスとマリアが入って来ると、大袈裟に胸に手を当ててお辞儀をする。アルスはその様子を見て見ぬふりをして対応した。レオノール大商会・・・・・・三大商業ギルドの一角であり、グローバルな経営を展開している。


 三大ギルドが占める経済力は大陸を支配していると言われており、その影響力は大国のそれを遥かに凌ぐほどだ。アルスの脳裏に王都で会った商人、ジェルモの警告が蘇る。


「レオノール大商会がこんなさびれた辺境の地になんの御用で?」


 アルスはいささか険のある言い方で尋ねた。


「これは、ご謙遜を。アルトゥース殿下がここに着任なされてから五か月。エルンの地の驚くべき活況ぶりは王都に居ても聞こえて参ります」

 

「・・・・・・それで?」


「名乗るのが申し遅れました。私、ヘルマーと申します。この度、こうしてアルトゥース殿下にお目通り願いましたのは、このエルンの地に我々の支部を置きたいと思ったからでございます。今このエルンの地には近隣から人がどんどん集まっていると伺っております。これも偏にアルトゥース殿下の人徳の賜物だと愚考致します。しかし、このような田舎ですとこのまま人が増えていけばやがて物入りになってくるかと思います。そこで我がレオノール大商会が仲介となり、不足した物資を皆様方にお届けするお手伝いをさせて頂ければと存じます」


 言葉は飾っているが、随分と上から見ている物言いだなとアルスは思った。そもそも、人徳で人が増えてきたわけではない。


 一定期間、税を無税にし、苦労して農産物の収穫量を上げ、地元の商人や行商人を保護することで近隣から移り住む人が増えてきたのだ。


「なるほど。確かに食糧自給率が上がってからは、近隣から人が集まってきて増えているのは確かだね。でも、レオノール大商会は無用かな」


「何故でしょうか?我々はグローバルにどんな地域にも展開しており、そこから手に入る素材や原料を始め加工から製造まで全て請け負っております。もし殿下が製造に必要な施設や街道整備などの点でお困りなのであれば、我々がインフラに投資致します。資金は無償で提供というのは出来かねますが・・・・・・。しかし、我々に手に入らない素材は無いと言っても過言ではありません。必ず殿下のお役に立てると思うのですが」


「だからこそだよ。国を超え地域を超えて商売をするのは否定はしない。でもね、はっきり言うけど、あなた方のやり方は地元の小さな商売を犠牲にしたうえで成り立っている。僕はあなた方には入って来てほしくない。ここで昔からパン屋をやっている領民がいる。鍛冶や建築、小物に衣類、地元の領民はそれで経済を回しているんだ。あなた方が入って来るということは彼らの経済を潰してしまうということになるんだ。まして、あなた方はこの国の商会ですらない。仮にあなた方がインフラ投資をするとしても、あなた方が雇うのは全てあなた方が決めた人だけ。ここの領民たちには一銭もお金が落ちない。あなた方はそれで儲かるだろうけど、僕らからしたら何の益にもならないどころか借金だけが残るというわけだ」


「お言葉ですが殿下、それは風評被害というものです。我々は合法的に商売をやっているに過ぎません。同じ商品でも品質が同じならより安いものを提供するというのは、商売人にとって自然の流れではありませんか?それに、雇うと言っても我々が使っているのは奴隷です。奴隷の存在があるからこそ、より安く提供できるというメリットが消費者にはあるわけです。また、奴隷は我々の資産であって雇用関係にすらありません」


「それなら尚更悪い。この領地で前領主が使っていた奴隷は僕が赴任した際に全て解放した。ぼくは奴隷は許容しないし、今後も許容するつもりもない。奴隷を使って実質労働力をタダで酷使したところで生産性は上がらない。働く対価として、それに見合う十分な賃金と環境が無ければ生産性は落ちていくばかりだ。それに、地元の店の前にわざと同系列の店舗を建てて、同じ商品で安いものを提供することで潰してきた手口はこちらの耳にも入っている。そんなことをすれば領民の生活は一気に立ち行かなくなる。もし、どうしても参入するというのなら相応の税金をかけさせてもらう。それでも良ければ話を聞くけど?」


 アルスが話している間、ヘルマーの目はぴくぴくと反応して口元では薄ら笑いを浮かべていたが、もう耐えられないと言った様子だった。


「なるほど、そこまでおっしゃるのでしたら返す言葉もありません。まあ、今回は引き下がると致しましょう。しかし殿下、この州はルンデルとの国境線にあります。今後、戦にでもなれば物資は不足するやもしれません。その時にはレオノール大商会のことを是非思い出して頂きたいですね。そうそう、この国の支部長を務めておりますビルギッタが殿下と一度お話をされたいと申しておりました。機会がありましたら、殿下が王都にお戻りになられた時にでもご挨拶させて頂きたいと思います」


 そう言うなりすっくと立ち上がり、通り一遍の礼をして従者を連れて出て行った。よほど、腹に据えかねたのだろう。


 アルスとマリアは執務室に戻るとアルスが王都で聞いたことや、調べたことを絡めて先ほどのレオノール大商会について話をしていた。ここにアルスが領主として赴任して以来、余りの忙しさから気になっていた三大商業ギルドの動向、特に「大陸覇権主義」という言葉をすっかり忘れていたのだ。


 それをヘルマーという男の来訪によって、無理にでも思い出させられることになった。マリアも調べるとのことだったが、そう簡単にしっぽを掴ませてくれるような連中ではないだろう。改めて、アルスは領地の経営をしながらそちらの動向も注視していく必要を感じるのだった。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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