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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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最恐の執事

(ただの執事じゃない。包帯男と同じ人間?・・・それにしては、雰囲気がまるで違う。それに自分で依頼するわけがない——か。でも、この圧迫感は・・・同じ)


 マルは、姿勢を低くする。頭を下げ、重心を前に倒すと加速。一気にシャルとの距離を詰めると、近接戦闘に持ち込む。シャルはマルの斬撃を躱しつつ、フォークを投げて牽制しながら辺りを見回した。通りの角から剣を下げた商人風の男が目に入る。


「ちょっとお借りしますね」


 マルの攻撃を躱しながら、笑顔で会釈しつつ戸惑う男から剣を抜くと、そのまま打ち合う。マルのふたつの短剣は、シャルの目前で乱舞するように、沈みゆく陽の光を反射しながら高速で打ち込まれる。


 マルの異常なほど低い位置からの攻撃は、まるで地面から刃が襲い掛かって来るかのようだ。これに彼女の超加速による速度と身体強化が乗っかることで、一撃一撃の威力は指数関数的に上昇する。


 シャルは、彼女の攻撃を正面から受けることはしなかった。魔素を流すことで強化された刀身でも、アダマンティウムに比べれば歴然の差が出る。それを熟知しているシャルは、刀身に流す魔素の形質を変えた。軟質と粘質の魔素を器用に練り合わせて流すことで、マルの攻撃を全て受け流していく。


 いつの間にか、数十合の打ち合いとなっていた。短剣が火花を散らし、石畳が削れる。マルは体内の魔素を練り込み、足に集中させる。姿勢を低くし、蛇のように地面スレスレを這う。彼女の超高速移動が、シャルの視界をかすめた。


(これ以上時間をかけられない。隙を見せろ・・・!)


 シャルの剣撃を受ける瞬間、加重をずらしながら身体を捻って地面を蹴る。


 「空歩」——マルは、シャルの剣撃の力を利用して横に回転しながら空間を蹴った。空中で身を翻し、同時に体内で練り上げた魔素を一気に指先から刀身に流し込む。


「炎龍!」


 シャルが一瞬、目を見開く。至近距離から放たれた炎の龍がシャルの眼前に迫った。シャルは回避不可と判断し、瞬時に体内の膨大な魔素を衝撃波に変えて放つ。刹那、轟音と爆風が吹き荒れ、マルの放った炎龍は爆散した。


(やっぱり、これにも対応する!?けど、まだだ・・・!)


 衝撃直後、爆風と土煙が支配する空間の中で、マルは気配を消す。シャルのオーラを感知、超加速でシャルに斬撃波を叩きこむつもりだった。足に加重をかけようとしたその時、土煙の先から光が走る。マルは本能的に仰け反った。同時に、光の刃はマルの直上を通り抜ける。抜けた後には、その空間だけが切り取られたように、空気が澄む。マルの後方の建物の角が、空間ごと切り取られたように崩れ落ちる。


 一瞬の静寂。そして、現れる黒い影から二度目の斬撃波。


 マルは息を詰める。この執事・・・化け物だ!


 これ以上は危険。マルは屋根に跳び上がり、煙に紛れて撤退する。石畳を蹴る音が遠ざかり、街に静寂が戻った。


 シャルはミラの側に戻り、膝をつく。


「ミラさま、ご無事ですか?」


 ミラは冷静に頷くが、内心で考える。暗殺者・・・教皇の差し金か? それとも別の勢力か?


 シャルは、辺りを確認すると、借りていた剣を商人に返却した。


「お貸しいただきありがとうございます。助かりました」


 両手で剣を抱え、丁寧にお辞儀をして返す。シャルは、商人の顔を見て固まっているのに気付き、改めて刀身を見るとボロボロになっていた。恐らくマルの技を相殺するときだろう。刀身が衝撃に耐えられなかったのだ。


 シャルは、ヴェルナーやジュリが鬼人族の少女について語っていたことを思い出し、なるほどと心の中で思った。彼女の放った技の威力は、シャルの推測より上回っていたようだ。商人に謝罪して金銭を渡す。


「やれやれ、国内だからと言って安心は出来ないようですね」


 シャルは、マルの消え去った方角を眺めて呟いた。




 ファニキアの街外れ、森に隠れた廃屋にマルは足を踏み入れる。薄暗い部屋に、ノーラの子供たち――リエナ、ノエラ、ミリスの寝息が響く。マルは短剣を下ろし、瞳を緩めた。


「マル姉ちゃん、帰ってきた!」


  ミリスが飛び起き、笑顔で抱きつく。末っ子は、まるで子犬のようだ。


「ミリス。みんなを起こしちゃうよ」 マルは抑えた声でたしなめるが、口元が僅かに緩む。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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