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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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暗殺者

 デュラフォート州のエールシュラン城は、夜の闇にそびえる石造りの要塞だった。会議室の長テーブルで、ミラはイグナシオ・セルバンテスの部下――穏健派の密使――と対峙する。密使は緊張した面持ちで、革袋から書類を取り出した。


 ミラの傍に控える執事——シャルの目は、密使の挙動を注意深く監視する。少しでも妙な動きをすれば、排除するつもりだった。


「イグナシオ公爵からの手紙です。教皇が過激派と密約を結び、穏健派を粛清する計画を進めています」


 ミラは書類に目を通す。クロードのスパイが盗聴した密談の記録――教皇が穏健派の領地とマルムートの織物交易利権を過激派に分配し、ハイデを教団の傀儡にする計画。ミラの目は鋭さを増した。


「教皇の騎士団が暴走している今、動きを止めるのは急務だ。貴様らの提案はなんじゃ?」


  密使が書類を差し出す。


「我々は現国王であるニコラスを倒すつもりです。倒した暁には、ハイデの交易税と通行税を半分にします。交易コストを下げれば、ファニキアの利益を最大化できます」


  さらに、密使は織物市場の顧客リストと教皇の補給ルート情報を提示した。


「マルムート向けの高級織物の顧客網です。シャンテ・ドレイユの交易品目を多様化できます。また、誓いの騎士団の補給ルート――織物や武器の輸送経路――もお渡しします。加えて、ハイデの山岳地帯に伏兵を配置し、輸送ルート攻撃に協力します」


  ミラは書類を手に取り、頷く。交易税・通行税の減免は、シャンテ・ドレイユの交易網を飛躍的に拡大する。織物顧客網は新たな市場を開拓し、補給ルート情報は教皇の軍事力を削ぐ。伏兵は、アルスの防衛戦略を強化する切り札となるだろう。


「アルスの理念は、交易と自治を守ることじゃ。貴様らと手を組めば、我が国の経済圏はさらに強くなるじゃろうな」


  密使は安堵の息をつき、握手を交わす。


「イグナシオ公爵が喜びます。ハイデの未来を、アルトゥース王に託します」


 こうして、密かにファニキアとハイデの穏健派との間に密約が交わされた。



 デュラフォート州の街は、夕暮れの薄闇に沈んでいた。エールシュラン城からミラン・キャスティアーヌ宮殿へ向かう石畳の通り。その屋根の上、フードを目深に被ったマルは、鋭い瞳で通りを睨む。彼女の魔素が、静かにざわめいていた。ノーラ様の子供たちを守るため・・・。


 マルの心は冷たく、だがどこか重い。包帯男の依頼――ファニキアの宰相ミラの暗殺。教皇の動き、帝国の動き、ファニキアの交易・・・大陸の複雑な思惑は、マルには関係ない。


 ただ、依頼を果たし、子供たちを護る。それだけだった。 通りを進む馬車の窓辺に、ミラの姿が見える。マルは短剣を握り、身体を巡る魔素を静かに高める。馬車が路地に差し掛かる瞬間、彼女は動いた。



 馬車の中で、ミラは書類と地図を広げ、物思いに沈んでいた。エールシュラン城での密約――ハイデの穏健派が約束した交易税の減免、織物顧客網、教皇の補給ルート、伏兵の配置。ファニキアの未来は、アルスの描いた戦略にかかっている。


 だが、一部の誓いの騎士団の暴走が国境の村を襲い、戦争の足音が近づいている。教皇の背後に、さらなる影が潜んでいるのだろうか?



 突然、空気が裂けるような殺気。シャル――ミラの執事が瞬時に動く。


「ミラ様、失礼!」と叫び、ミラを馬車の端に押しやる。 マルの斬撃波が馬車を直撃。圧縮されたオーラが、寸前までミラが座っていた場所を突き抜けた。木と鉄が軋み、馬車が真っ二つに割れる。破片が飛び散り、馬が嘶く。 シャルはミラを庇いながら馬車から飛び出し、路地の石畳に着地。


「ミラさま、お下がりください」


「儂も有名になったもんじゃな」


 ミラは皮肉を呟きながら素早く身を低くし、近くの壁際に退避する。


 マルが闇から姿を現した。二本の短剣を握り、彼女のオーラが揺らめく。シャルの瞳が冷たく光った。


「・・・暗殺者ですか」


  シャルは近くの露店のテーブルに駆け寄り、皿を手に取る。


「少し拝借しますね」と固まる店主に軽く会釈し、魔素を込める。 皿が超高速で飛ぶ。マルは短剣で弾くが、 重く硬い衝撃に目を見開いた。


(重い!何、この力・・・?)


 マルは距離を詰めながら、斬撃波を連続で放つ。無数の鋭いオーラの刃が、執事目掛けて飛ぶ。シャルは、手近にあった店先のフォークをまとめて取ると、マルの放った斬撃波に向けて次々と投げた。それらが衝突すると、斬撃波は弾かれ軌道が逸らされる。


(フォークに私の斬撃波が弾かれた!?)


 マルは、思わず一旦距離を取る。そこで、初めて執事の身体から漏れ出る黒いオーラに気付いた。彼女の瞳が一瞬、大きくなる。闇ギルドの本部で出会った得体の知れない包帯男と同じ色のオーラだった。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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