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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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離反

「・・・フランシスコの動きを監視しろ」


 その夜、イグナシオは信頼するスパイに命じた。数日後、ハイデの城塞の一角。薄暗い回廊の裏で、クロード・アルバレスのスパイが息を潜めていた。フランシスコと教皇の使者が密談する部屋の外、壁に耳を押し当てる。


「穏健派は異端だ。イグナシオ、クロード、ベルナルド・・・全員を粛清し、領地とマルムートの交易利権をおまえたちに分配する。ハイデは教団の管理下に置く」


 教皇の使者の声は低く、冷酷だった。フランシスコが笑う。


「猊下の意志なら、喜んで従いましょう。鉱山と交易の利権は、誓いの騎士団の資金となりましょう」


  スパイは息を詰め、会話を一言一句記憶した。教皇の狙いは、ハイデを教団の傀儡国家に変え、経済と軍事を支配すること。穏健派は切り捨てられる。



 イグナシオの私邸に、穏健派の貴族――クロード・アルバレスとベルナルド・オニールが集まった。暖炉の火が揺れる中、スパイの報告が重く響く。


「教皇が我々を粛清だと? ふざけるな!」


 クロードが拳をテーブルに叩きつける。穏健派の領地とマルムートの交易――鉱物と食糧の供給網――は、彼らの富と影響力の源だ。それを教皇と過激派に奪われる危機に、怒りが抑えられない。


「フランシスコめ、教皇と手を組み、ハイデを売り渡す気か。自治も、交易も、すべて教団に握られるぞ」


 イグナシオは目を閉じ、深く息をつく。マルムートとの交易は、ハイデの経済を支える命脈だ。教皇の誓いの騎士団が動き、過激派が支配すれば、ハイデは教団の傀儡に堕する。地位も、命も、失われる。


「・・・このままでは、我々の理念も、ハイデの未来も終わる」


 ベルナルドが静かに口を開く。


「教皇の騎士団と過激派の軍勢は強大だ。表立って反乱を起こせば、即座に潰されるだろう。だが・・・背に腹は代えられない。ファニキアのアルトゥース王に協力を求めるべきだ」


  クロードが眉を上げる。


「アルトゥース? あの若造の王か? 風が吹けば消え入るような希望の灯だぞ?」


「レーヘを攻略した手腕は見事だった。ゴドアという後ろ盾もある。それに、このまま黙って見ていても戦が終わったら確実に我々は殺される。アルトゥースの情報網は教皇の動きを捉えているだろう。我々の情報と力を合わせれば、教皇を出し抜ける。それに、このまま何もしなくても我々は消される」


  イグナシオは頷く。内心の葛藤を押し殺し、決意を固める。


「よし。アルトゥース王に密使を送る。教皇の策略を暴き、ハイデの自治を守るためだ」



 ファニキアの王宮は、戦争準備の喧騒に包まれていた。シャンテ・ドレイユの交易網の整備、70万の敵軍に備える資材調達、堡塁2000基の設計――アルスの机は地図と書類で埋め尽くされている。そこに、伝令が血相を変えて駆け込んできた。


「アルス様、大変です! 誓いの騎士団が国境沿いの村を襲撃! 民家が焼き払われ、住民が逃げ惑っているようです!」


  アルスの目が鋭くなる。誓いの騎士団——50万の軍勢。だが、報告によれば一部の騎士が勝手に暴走したらしい。統制を欠く無秩序な動きだ。


「 規模は? 被害は?」


「小規模な部隊、数百人程度です。騎士団の統制が乱れている模様です。住民の避難は進んでいますが、対応をどうすべきか・・・?」


  アルスは地図を睨む。暴走とはいえ、教皇の騎士団の動きはファニキアへの脅威だ。堡塁の資材はまだ集まりきっていない。民の安全と防衛準備を同時に進めるには、指揮系統を総動員する必要がある。


「直ちに援軍を派遣。村の住民を保護し、暴走部隊の動きを追跡する。周辺の動向を監視し、逐次報告を入れて欲しい」

 

  その時、別の伝令が息を切らせて入室する。


「アルスさま、ハイデ公国のイグナシオ公爵から密使が! 緊急の密談を希望しています!」


  アルスは額を押さえ、苦笑する。


「イグナシオ公爵といえば、穏健派の筆頭格ですわ。何かあったのかもしれません」


 居合わせたソフィアが、即座に情報を補足する。ソフィアによれば、ハイデの穏健派――イグナシオ・セルバンテスらの動きは、教皇の策略に対抗する鍵となる。だが、騎士団の暴走で手一杯の今、密談に割く時間はない。事態を見守っていたミラが静かに進み出た。


「アルスよ、ハイデの件は儂が引き受ける。エールシュラン城で奴らと会い、何をさえずるか聞いてみるのも一興じゃ」


 アルスの顔に安堵の色が浮かぶ。ミラの経済手腕と冷静な判断は、ファニキアの柱だ。


「ありがとう、ミラに全権を委ねるよ。穏健派の手土産次第では、教皇を出し抜けるかもしれない。頼んだよ」


 ミラは力強く頷き、会議室を後にする。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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