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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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建築技術の副産物

「問題は質だ。どのみち戦うなら、短時間で一気に勝負をつけるしかない。長引けば数で押し切られる。それに、僕らが持っているのはそれだけじゃない。地の利もある。そして、技術だ」


「技術? ガラスの製造技術ですか?」


「そうだね。鏡で光を反射させて信号として使うことで、戦場の細かな情報を瞬時に共有できる。それに、もう一つ大きなアドバンテージがある。シャンテ・ドレイユで培った土木建築技術だ」


「わかった! 砦を作ろうっていうんじゃろ?」


  エルザとアルスの問答を聞いていたミラが、興奮気味に割り込んだ。


「砦は強力な防御陣地になるが、大軍相手だと囲まれて攻撃手段が限られる。シャンテ・ドレイユで培ったモジュール工法を使って、もっと攻撃的な防御陣地を作るつもりだよ」


「なんじゃ、それは?」


「あとでベルトルトが来たら詳しく説明するよ」


「なんじゃ、もったいぶるのう・・・・・・」


  ミラが不満そうに腕を組むと、エルザがふと思いついたように口を開いた。


「アルスさま、鏡って通信手段以外にも使えそうですね・・・・・・」


  エルザは呟き、思いついたアイデアを述べ始めた。彼女の提案を聞き終えたアルスとミラは、大きく頷いた。


「うん、それは使えるよ! 早速アントンたちに相談してみよう」


「使える物は何でも使う・・・か。フフフ、面白くなってきたの!」


  数十万の軍を動かすには時間がかかる。密偵が掴んだ情報をリアルタイムで得られたことで、アルスたちには準備のための貴重な時間があった。生き残りと国の存亡をかけた戦いが、すぐそこまで迫っていた。



 しばらくして、ノックの音が室内に響いた。勢いよくドアが開くと、アントンとベルトルトが姿を現す。


「アルスさま、お呼びですかい?」


 アントンの作業服には木屑がこびりつき、ついさっきまで工房で汗を流していたことが窺える。一方、隣のベルトルトは対照的に丁寧にお辞儀をし、落ち着いた態度を見せる。


「忙しいところ、すまない。緊急事態なんだ」


 アルスの言葉に、アントンが目を丸くする。


「緊急事態? 戦争でもあるっていうんですか?」


「その、まさかじゃ」


 ミラがすかさず切り返すと、アントンは「えぇ!?」と驚きの声を上げた。アルスは苦笑いを浮かべ、話を進める。


「これは、機密事項だから口外しないで欲しい」


  アントンとベルトルトは真剣な表情で何度も頷く。アルスは現状――帝国、誓いの騎士団、ハイデの三つの脅威が迫る危機――を簡潔に説明し、頭に描いていた戦略を披露した。


「——というわけで、ふたりには以前話してあった、例の物を作って欲しいんだ」


「そりゃ、作れっていうなら作りますが。ガラスのほうはどうしますか?」


「ガラスの生産は当面中止するしかない。とてもじゃないけど、そんな余裕はないよ」


  アントンの問いに、アルスは重く首を振った。国家存亡の危機だ。時間との勝負が始まった今、他国の侵略に備えることが最優先だった。


「まぁ、そりゃそうか。いくつぐらい必要ですかね?」


「出来れば2000、最低でも1000は欲しい」


「2000!? そんなにですか?」


「相手は少なく見積もっても70万を超えると思う。平原に出る前に出来るだけ削るつもりだけど、平原に出られた場合の想定もしておかなきゃならない」


「ちょっと待て! ふたりとも、いったい何の話をしておるんじゃ?」


 ミラの苛立った声が、アルスとアントンの会話を遮った。宰相として、アルスが自分に相談せず話を進めることに、ミラは苛立ちを隠せなかった。


「ごめんごめん。さっきの防御陣地の話をしてるんだ」


 アルスは頭を掻き、平謝りする。横でエルザがその光景を面白がり、くすくす笑っている。ミラの視線が鋭さを増す中、ベルトルトが静かに図面を広げた。 そこには、六角形の簡素な構造物が描かれていた。入り口は一つ、人一人がようやく通れる狭さで、内部はL字型の通路で直進できない設計。壁には狭間が設けられ、外を監視できるようになっている。


「これは、なんじゃ?」


 ミラが怪訝な顔で図面を覗き込む。


「これが、アルスさまが提案された防御陣地です」


 ベルトルトが落ち着いて答えるが、ミラは納得いかない様子で図面を睨む。


「こんなんで陣地として機能するのか? 攻め込まれたら逃げ場すらないぞ?」


 確かに、従来の砦と比べれば高さもなく、収容人数は20人程度。単体では脆弱に見えた。


「堡塁っていうんだよ。これを単基で使用したら、ミラの言う通りすぐに落とされるだろうね。だから、数を用意するんだ」


 アルスが穏やかに説明する。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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