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アルス VS 鬼人パトス

「空気がビリビリしますね。マリアさんはアルスさまとパトスさん、どちらが強いと思いますか?」


 エミールが様子を見ながらマリアに尋ねた。

 

「もちろん、アルスさま・・・・・・と、言いたいところですが、正直パトスさんの強さは私にはわからなかったです。強さの底が見えないんですよね」


 そのマリアの返事を聞いてガルダも感想を漏らす。


「そうですな。はっきり言って我々にはわかりませんな。誰もパトス殿の強さを引き出せることはおろか、武器さえ取りませんでしたからな。ただ、少なくともパトス殿は殿下に対しては武器を取った。ということは事実ですな」


「始まりますね」エミールが緊張した声でふたりに呼びかけた。


 見るとあれだけ放出されていたオーラが静まっている。静寂が訪れたと思った刹那、アルスの姿が幻影のようにフッと消えた。キーン、キーンと音だけが城壁に反射して響き渡る。霞のように二人の姿がボヤ~っと見えたかと思うと、また消える。風が吹き荒れるような戦いから一転、地上から気配が消える。


 ジュリが兵舎の屋根の上を見上げていた。先ほどエミールが矢を射た場所だ。三人がそれに気づき、そちらの方角を見ると二人の影はその屋根の上で交錯していた。ガルダ、マリア、エミールの三人は声を出すことが出来なかった。


「これがアルスさま本来の実力・・・・・・以前、私が見た時より遥かに強くなってるんじゃないかな」 


 マリアがそう呟くと、他のふたりは黙って頷いた。五十合、あるいは六十合は続いただろうか、やがてどちらからともなく戦闘は終了し、ふたりとも元の位置に戻っていた。


「いやはや、アルスさま、これほどとは思ってもいませんでした」


「全力を出したつもりだったんだけど、全てパトスさんには防がれちゃったよ」


「どうかご謙遜なさらずに。ただ、アルスさまはまだ上があるのでは?」


「ん?いやいや、本当にいっぱいいっぱい。パトスさんは全く本気じゃなかったよね?」


 実際、アルスの攻撃は紙一重で全てパトスに避けられるか、剣筋の軌道を逸らされている。さらに、捉えたと思った時には攻撃はすり抜けるというおまけつきだ。恐らくパトスの言っていた霧状の魔素による幻影なのだろう。


 この短い一戦でアルスは嫌と言う程、パトスの実力と魔素の使い方の重要性を学んだ。たまにパトス側からの反撃はあったが、全てアルスの反応速度を試されているかのような感覚を覚えたが、実際そうなのだろう。


「ははは、しかし、そうですか。アルスさまにはまだきっかけが必要なのかもしれません」


「きっかけ?」


「ええ、アルスさまの魔素は他の方と比べて異質です。通常、どんなに膨大な魔素を持っている者でも、激しく使用すれば魔素は削られます。しかし、あなたの場合にはそれがない。内側から常に沸き上がっている感じがします、通常考えられない事ですが。一方であなたはその魔素の力をまだ十分に引き出せてない、違いますか?」


 アルスはそれを聞いて苦笑いをした。パトスの言う事は全て的中していた。


「さすがだね。バレちゃったか」

 

 そう言って、アルスは他言はしないで欲しいと前置きをしておいた上で、自分がクリスタルによって力を手に入れたことをパトスに話して聞かせた。


 パトスは興味深そうに頷きながら、時折り考え込むように顎に手を当てる。恐らく鬼人族であっても知らない技術なのだろう。


「なるほど。アルスさまのオーラにそんな秘密があったのですな。いずれにせよ、アルスさまの魔素は限界が無いということになります。その部分は最大の利点であり、同時に扱いをとても難しくする要素にもなっているのかもしれません。限界点があるようでない。で、あれば、少しずつ身体強化の限界を試していくしかありません」


「僕もそう思ってる。だけど、先ほどパトスさんと剣を交えたとき、自分でも気づかなかったのだけれど普段より少し身体強化の限界を超えていたらしい。コントロールにヒヤヒヤしたけども」


「そうであるなら、やはりアルスさまの『きっかけ』は実戦に限ります。術式が全て終わりましたら、お相手致しましょう」


「ありがとう。こちらこそよろしくお願いするよ」


 アルスは先ほどの実戦訓練である種の確信を得ていた。パトスが相手であるなら、無意識に抑え込んでいた自分の限界を超えられる。


 少しずつ、限界を超えた状態を維持しながら身体強化の制御のレベルをさらに上げていく。そうすれば理論的にはもっともっと強くなれるはずだ。


「まずは身体強化の限界を突破して頂きます。それが出来たら魔素の形質変化を体得して頂きます」


 こうして、アルスはパトスとの実戦形式で、他の三人は身体強化を維持することでそれぞれの訓練が決まった。


 同時に、入れ替わりでフランツ、ギュンター、ヴェルナー、エルンストの4人が魔素の容量拡大の術式カイカランガを始めた。


 それからまた一週間の間、叫び声が城内を響き渡るのだった。一週間の後、カイカランガをやり遂げた四人の魔素量は前回の三人と同じようにとてつもない進化を遂げる。特にフランツは魔素の容量が頭一つ抜けているとのことだった。何より素晴らしいのは、四人とも身体強化をしてもしっかりとコントロールが出来ているという点だ。普通であれば、魔素量が一気に増加でもすれば制御するのは非常に難しい。これはかつてアルスが経験したことだった。それだけ彼らが優秀と一言で言ってしまえば済む話だが、彼らがどれだけ日々鍛錬を続けているか知っているアルスには、感慨深いことである。この結果は、まさに彼らの努力の結晶なのだ。


 この調子ならば、そう時間がかからずに魔素の応用訓練に入れるかもしれない。


  

※※※※※※



 そんな折、レオノール大商会のヘルマーと名乗る男が訪れて来る。ヘルマーと名乗る男は従者を引き連れ、応接室のソファに深く座り、足を組んで座って待っていた。男はアルスが部屋に入って来るのに気が付くと、組んでいた足を急いで下ろし、満面の笑顔で立ち上がった。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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