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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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ヒースルールの計画3

 二州を取り戻した勢いに乗り、帝国領深くへと攻め入ったマルムート軍は、皇帝ヴラディスラフの冷徹な一令のもと、待ち構えていた帝国軍の鉄槌によって粉砕された。帝国軍は侵入者を容赦なく叩きのめし、奪われたグランデ州を瞬く間に取り戻すと、さらには南のバ・ローズ州へと進撃。


 だが、フェレイラ城に立て籠もったマルムート軍の執拗な抵抗と、本国から駆けつけた援軍の猛烈な反撃により、戦線は泥沼の膠着状態に陥った。やがて、凍える冬が訪れると、両軍は互いに疲弊し、ついに和睦という形で一時的な決着を見ることになる。雪に覆われた戦場に静寂が戻り、両軍はそれぞれの旗を下ろし、引き上げることを余儀なくされたのだった。



 帝都の外れ、冷たく湿った石造りの屋敷の奥深く、暖炉の炎が揺らめく薄暗い部屋で、ローグとオレーグは向かい合っていた。邪眼族のふたりは、顔を覆う布でその異形の瞳を隠していたが、互いの声には抑えきれぬ感情が滲んでいた。


「帝国とマルムート・・・。これほど、わかりやすい結末は無かった」


「何を狙ってる?」


「俺の狙いか・・・・・・」


 オレーグはローグの引っ掛かる言い方に顔をしかめる。といっても、お互いに顔を覆ってるため、表情は掴めない。


「生憎、俺はおまえみたいな小細工を考えるのは得意じゃない」


「オレーグ、俺は——俺たちの村は帝国に滅ぼされた。そして、奇しくもお互い商会と繋がってる身分だ。さらに言えば、偶然にもお互い帝国に身を置いている」


「何が言いたい?」


「 復讐なんて、俺にはどうでもいいことだ。だが、三大ギルドの大陸覇権主義——経済合理性だけを追い求め、システムの障害となる国家という枠を滅ぼし、大陸全土に経済奴隷制度を敷こうとするその野望は、俺にとって都合がいい。奴らは俺たちの道具になる」


「つまり、おまえが狙ってるのは・・・・・・」


「永い時を生きて、時代に流されるまま、というのも飽きた。それだけだ。だが、だからこそ、時代の変革を俺は求める。この国の均衡が崩れたのだ。俺とお前が手を組めば、帝国もギルドも、俺たちの掌の上で踊ることになる。考えておいてくれ」


ローグの去っていく後ろ姿を見ながらオレーグは呟いた。


「数十年ぶりか、見違えたもんだな・・・・・・」




 ヴェズドグラードの宮廷は、冬の夜に深い闇を纏っていた。ガーネット教の聖紋が刻まれた大理石の回廊を抜け、第二皇子アレクセイ・ヴラディス・ザルツの私的な会議室に、蝋燭の光が揺らめく。


 部屋の中央に置かれた長卓には、アレクセイの側近団が集っていた。穏やかな顔立ちの王子は、しかし今、眉間に深い皺を刻み、目の前に広げられた報告書を凝視している。そこには、財務官パヴェル・イグナチェフの裏切りを記した手紙と、教皇の誓いの騎士団への不正な資金流出を示す帳簿が並んでいた。


 ユーリ・ヴィクトロヴィチ・ロマノフは、アレクセイの右手に控える。ロマノフ家の借金と野心に縛られた男の心は、勝利の予感と猜疑心の間で揺れていた。ユーリの脳裏には、つい先日のヒースルールとのやり取りが浮かび上がる。


「これは・・・?」


 ユーベルタール北方商会のヒースルールから手渡された証拠は、あまりにも鮮明だった。


「どうやら、アレクセイ殿下の側近に裏切者が潜んでいるようです」


「バカな・・・・・・!?」


「その書類を、よくご覧になってください」


 パヴェルの筆跡で書かれた手紙は、レオニード派への忠誠と教皇への資金提供を告白し、帳簿には不自然な「寄付」の記録が黒々としたインクで刻まれていた。


「確かに、パヴェルの筆跡のように見えるが・・・。しかし、しかし・・・。こんなものをどうやって・・・・・・!?」


 ユーリは一瞬、顔をあげてヒースルールの表情を見た。ぞっとするほどの冷たい微笑を浮かべたまま、痩身の男はユーリの欲望を刺激する一言を放つ。


「手段など、どうでもいいではありませんか。貴方の気にするところではありません。あなたはこの結果だけを利用すればよろしいのです」


 その瞬間、ユーリは唐突に理解した。その手紙が作られた偽物であることに。


「ユーリさま、これであなたはアレクセイ殿下の最重要側近となるでしょう」


その言葉は甘く、しかし毒のようにユーリの心に粘り付いた。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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