表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/332

強化の力

 アルスはパトスの懸念を深く理解した。魔素量が増えても、身体制御と体力なくしては意味がない。無限の魔素があっても、制御不能なら暴走し、体力が尽きれば死に至る。戦場では個人の武力が局所的な勝利を重ねても、戦略的優位を覆すには至らない。だが、部隊長の武力向上は局面を一変させる力を持ち、兵士の信頼と軍の士気を高める鍵だ。


「わかった、それなら僕も行くよ」


「わかりました。それならアルスさまにも見て頂いたほうがよいかもしれませんな」


 パトスの言葉に頷き、アルスはガルダ、マリア、エミール、そしてパトスと共に兵舎横の広場に集まった。陽光が降り注ぐ中、試練の時が始まる。


「皆さん、よく七日七晩耐え抜きましたな。もう気が付いていらっしゃると思いますが、あなた方の魔素量は既に我々とも遜色ないほどに増えております。今後の鍛錬次第では国の英雄や神話になぞらえる人物と並ぶほどの実力を備えることも出来るでしょう。ですが、皆さんはスタートラインに立ったばかりです。如何に魔素量が多くてもそれを制御する身体がなくては意味がありません。まずは皆さんの身体強化の成果を見せて頂きたいと思います」


 パトスの言葉に、ガルダが手を挙げた。


「私からでよろしいですかな?」


「もちろん構いません。それではご自分の武器を手に取って私にかかってきてください」


 ガルダが戦斧を握り、身構えた。だが、パトスは武器を取らず、悠然と立つ。


「パトス殿、武器は取らないのですかな?」


「私は結構です。そのままどうぞ」パトスが手で招いた。「どうなっても知りませんぞ?」


 ガルダが魔素を巡らせると、未曾有のオーラが迸り、大気がビリビリと震えた。


「すごい、これほどのオーラとは・・・・・・」アルスは圧倒された。


「準備が出来ましたらどうぞ」


 パトスの言葉と同時に、ドンッと地響きが鳴り、ガルダの巨体が消えた。戦斧を振り上げたガルダがパトスの眼前へ瞬時に迫る。振り抜いた戦斧は空を切り、パトスはすでにガルダの背後にいた。ガルダは振り向きざまに薙ぎ払い、打ち下ろし、突く――常識外の速さだ。にもかかわらず、パトスは全てを上回る。動きを先読みするかのような身のこなしに、アルスは感嘆した。どれほどの修練を積んだのか?


「そこまでにしましょう、ガルダ殿、素晴らしいです」パトスが拍手すると、ガルダは息を切らした。


「むぅ、自分でも恐ろしいほどに強くなった実感はあったのですが・・・・・・パトス殿にこうも子ども扱いされては自信を無くしてしまいますな」


「いえいえ、ガルダ殿はとてもお強い。初めてにしては増加した魔素量にも関わらず、うまく身体強化を使いこなしております。ただ、直線的な動きが目立ちます。今後の修練で補っていきましょう」


 パトスはガルダの制御力を称賛した。魔素量の爆増を身体強化で制御できたのは、普段の鍛錬の賜物だ。


「そうだな、ガルダ殿。この方は我が国でも一二を争う武人です。いきなり対等に戦うというのはさすがに無理がある、ふふ」


 いつの間にかマリアの隣にいたジュリが笑った。次はマリアだ。彼女のオーラも凄まじく、パトスに突進する。直前で避けられても瞬時に体勢を立て直し、次の攻撃へ繋げる。反応速度の進化は目を見張るものだった。


 エミールの成長はさらに驚異的だった。壁を駆け上がり、弓をつがえてパトスを狙う。壁を蹴って兵舎の屋根へ跳び、頭上から二本の矢を同時射撃。さらに屋根を走りながら三本の矢を連射。重力を無視した曲芸のような動きは、敵に恐怖を与えるだろう。だが、パトスには触れられなかった。


「三人とも素晴らしい適応力です。魔素がこれだけ増えたにも関わらず身体強化をうまくコントロール出来ています。とはいえ、まだまだ引き出せるはずです。これからその魔素量に慣れて頂くためにも常時身体強化の状態を維持してください。そして、毎日限界を引き出す訓練をしていきましょう。そうすれば、更に強くなります。オーラのコントロールはその後です。何事も基礎が大事ですからな」


「三人とも本当に凄いですよ。初日でここまで動けるなんて余程の鍛錬を常日頃からやっていないと出来ない」


 ジュリの言葉に、三人は気恥ずかしそうに笑う。パトスがアルスに近づき、静かに言った。


「さて、アルスさま。私はあなたの力も知りたいのです。あなたのようなオーラは私は見たことがありません。ぜひお手合わせをお願いしたく思います」


 突然の申し出にアルスは一瞬戸惑ったが、王都でのバーバラの圧倒的な気配を思い出した。


「強くならなくちゃいけない」――その決意が胸を熱くする。剣を取り、刀を抜いた。


「見たこともない剣ですな」パトスが髭を撫で、興味深げに眺めた。


「ああ、これは刀という片刃の剣で。王都に居たときに鍛冶屋に頼んで、やっと一週間前に届いたんだよ」


「ほう、刀身が反っているのですか・・・・・・では、私も剣を一本お借りします」


 パトスが兵舎脇から剣を取り、「それでは、いくよ」とアルスが構えた。魔素を巡らせると、ガルダ同様、大気が震え始めた。

いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ