緊急会議
「空を蹴った!?おまえ、いったい何者だ?」
ジュリが驚き、思わず叫ぶ。マルは一瞬沈黙し、意を決して口を開いた。
「あなたこそ、なぜ戦うんですか?」
「私は戦士だ。それ以外に戦う理由がいるか?おまえこそ、なぜ闇ギルドなんかにいるんだ?」
「・・・・・・成り行きです」
マルの答えに思わず吹き出したジュリは、笑いながら続けた。
「それだけの力量、闇ギルドで使い潰すのは惜しい。同郷のよしみだ、考えを改める気はないか?」
マルの心臓が跳ねる。
「・・・気付いて、たんですか?」
「戦い方だ、見てればわかる。どうだ?」
マルは頭を振ってジュリの誘いを断った。それを見て、ジュリは小さく息を吐いて頷く。マルはそれとなく周囲の気配を探った。ギルドメンバーと目の前にいる女戦士の兵士が戦っている様子はない。周囲に響いていた剣戟を交わす音も、いつの間にか消えていた。いずれにせよ、十分な時間は稼いだように思える。
「そうか。なら、決着をつけるしかない」
ジュリが構えると、マルは再び加速して突っ込む。ジュリとマルの剣撃は、その後数十合に渡って続いた。一進一退の攻防が繰り広げられるなか、街中で爆発音が響いた。
ジュリの注意が僅かに逸れる瞬間、マルは目の前の用水路に向けて熱を込めた衝撃波を放つ。放たれた衝撃波は、用水路を流れる水を一瞬で蒸発。ジュリが視線を戻すと、大量の水蒸気で視界が塞がれていた。マルの気配は既になく、ジュリは舌打ちしながら剣を鞘に納めるしかなかった。
「・・・・やられたな」
ジュリが独り言ちると、後ろに下がっていた副官が戻って来た。
「ジュリさま、どうされますか?」
「追っても仕方ない、残った者たちを捕らえて持ってる情報を吐かせるとしよう」
それから数日後、ミラン・キャスティアーヌの王宮の一室で、緊急会議が開かれた。ファニキアガラス製の窓から差し込む柔らかな陽光が、磨き上げられた石の床に淡い光の模様を描く。長いテーブルには、アルスとミラの他、ジュリ、パトス、ニナ、そしてヴェルナーの姿があった。
「みんな、急に集まってもらってすまない。ジュリが掴んだ情報を共有しておきたいんだ」
アルスがジュリに目線を送ると、彼女は頷いて話し始めた。
「私が先日、闇ギルドのアジトを急襲した際に手に入れた情報だが、奴らの狙いがわかった。ファニキアガラスだ」
ジュリの言葉に一同の顔色に緊張の色が走った。
「ガラス・・・?」
ニナが思案顔でおうむ返しに呟くようにして、言葉を反芻する。その様子を見てミラが尋ねた。
「ニナ、何じゃ?」
「・・・いえ。たいしたことじゃないんですが、ガラスであれば全て経済特区であるシャンテ・ドレイユを経由して発注が入ります。ですが、それ以外の商品も毎日膨大な種類が運び出されます。つまり、ガラスだけをピンポイントで襲撃するというのは、かなり難しいんじゃないかなって思ったんです」
アルスが頷く。
「確かに。商品だけじゃない、各国の商会がシャンテ・ドレイユに集まってるからね。どの商会がいつガラスを発注して運び出すかなんて、外部からじゃわからないはずだ」
「そんなもん、答えは出ておるじゃろ」
ミラの反応にアルスとニナが頷き、パトスが呟いた。
「三大ギルド、ですね」
「奴らのことじゃ、各国の商会にスパイを紛れ込ませるなんぞ造作もないじゃろ。まったく、邪魔ばかりしおって!」
ミラは右手でグーを作って、左手にパチンと当てて怒りを顕わにする。
「すると、その三大ギルドが闇ギルドに情報を流してたってわけか?」
「それしか考えられんじゃろう」
ジュリの質問にミラが答える。すると、それまで黙っていたヴェルナーがポツリと疑問を呈した。
「三大ギルドがガラスの情報を流し、闇ギルドが襲撃する。カラクリはそれで良いとして、それでも腑に落ちない点が残る」
「なんじゃ?」
ミラが鋭い口調でヴェルナーに先を促した。
「警備をしていて、ガラスが狙われるというのは襲撃された報告からわかっていた。だから、こちらもガラスを運ぶ輸送隊は特にチェックするようにしていた。それでも、毎回襲撃があったわけじゃない」
「それは、情報に洩れがあった——あるいは、単純に敵の人員不足では?」
「そこまでは、わからないが・・・・・・」
「ニナ、襲撃された商隊のリスト持ってる?」
ミラとヴェルナーのやり取りを聞いていたアルスが、思いついたようにニナに声を掛ける。
「はい、ちょっとお待ちください」
ニナは手元の分厚い資料を手繰って、その中から数枚の資料を取り出した。ニナが、資料を読み込んでいると、肩越しに指が伸びて資料の上で止まる。いつの間にか、アルスとミラが後ろで資料を覗き込んでいた。ニナは、アルスが指で差した箇所に目を通す。
「これは、盲点だったな・・・・・・」
そこには襲撃されたガラスの運び先が記されていた——全てガーネット教会。
「どうやら単なる経済的動機、というわけでもなさそうじゃな」
ミラの呟きに、重苦しい空気が会議室を覆った。
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