マル VS ジュリ
「この前とは別・・・・」
マルの答えにレグは舌打ちする。
「ファニキアってのは、化け物揃いか。どうする?正面突破は厳しそうだな」
「あそこ」
マルが指差した先には、壊れて潰れた裏口があった。先ほどの衝撃で潰れたのだろう。レグは、それを見て頷く。
「私が時間を稼ぐから、その隙に逃げて」
「いくらおまえでも、ひとりじゃ無理だろ——」
「逃げて!」
レグは反論しようとしたが、入り口をチラッと見て口を閉じた。姿は見えないが、恐らく歯が立たない。歯が立たないだけならまだしも、下手をすれば足を引っ張る可能性すらある。それなら可能性のある選択肢を選ぶのが妥当な選択肢だ。ただひとつ、こんな少女ひとりに頼らざるを得ないのが情けないが・・・・・・。
「無理はするな」
レグの言葉を背中に受けながら、マルはフードを押さえ、戦場へと踏み出した。地上から屋根に向けて衝撃波を放ったのだろう。ドアと周辺の壁は残っているが、建物は斜めに削り取られ、消し飛んだ屋根から月が顔を覗かせている。
マルは、ドアまで近づくなり鋭い斬撃波を放った。辛うじて立っていたドアと壁は、一瞬で切り裂かれる。直後、壁の向こうから衝撃音が響き渡り、マルの斬撃波は相殺された。舞い上がった土煙が薄れる中、赤髪に赤い瞳の女戦士が姿を現す。マルの目が大きく見開かれた。
「どうやら、少しは骨のあるのがいるみたいだな」
ジュリが不敵に笑う。隣の副官が不安げに尋ねた。
「ジュリさま、さすがにちょっとやり過ぎでは・・・?」
「ちゃんと加減はしてる。それより、後ろに下がってろ。巻き込まれても知らんぞ?」
「え?」
部下の視線の先には、フードを目深に被った少女の姿があった。
「あんな子に——」
副官が言いかけた瞬間、衝撃音とともに少女が目の前に迫る。
ギャリリリリリリリリリィィィ!!!!
つんざくような金属音が夜の闇を切り裂いた。マルの双剣とジュリの剣が交錯し、激しく火花を散らす。副官や近くの兵士が尻もちをつく中、ジュリはニヤリと笑った。
「だから、言ったろう」
マルは回転しながら後方へ着地。重心を低くしてショートソードを逆手に持って斜めに構える。
「独特の構えをするな」
ジュリが興味深そうに呟く。マルは地面スレスレかと思う程に身を屈め、一気に加速。
(速い、そして低い!)
ジュリが迎え撃つ直前、マルの衝撃波が放たれる。ジュリは、即座にマルの放った衝撃波を一刀両断。すかさず生じた爆発を煙幕にして、マルは地面スレスレからジュリの喉元に双剣を叩きこむ。ギィィィンという金属音が響きわたる。
「狙いは面白いが、そういうのは以前も見てる」
ジュリの声が煙越しに響くと同時に、マルの左脇腹に強烈な蹴りが炸裂。衝撃で吹き飛んだマルの身体は瓦礫の壁を二枚突き破って、地面に叩きつけられる。
そして・・・・・・静寂が訪れた。用水路を流れる水の音が、やけにはっきりと聞こえるほどの静けさが、辺りを包み込んだ。ジュリは剣を肩に乗せて、片側だけ口角を上げる。
「いつまで寝たフリだ?」
「炎龍」
ジュリが瓦礫に向かって声を掛けた瞬間、背後からマルの声。と、同時に練り込まれた膨大な炎のオーラが彼女に迫る。ゾクッとしたジュリは、反射的にありったけのオーラを乗せて弾き返した。両者のオーラが至近距離で激突し、爆風が吹き荒れる。直後、マルの視界に飛び込んで来たのは、ジュリが上段で剣を構えて突進してくる姿だった。
「今のは良かった!次はこっちだ」
ジュリの剣の先には膨大に流し込まれたオーラの奔流が渦を巻いている。
(この一瞬で、あれだけのオーラを剣に込めることが出来るの・・・?)
マルは双剣をクロスに構えて、オーラで固めた。
「紅蓮刃」
ジュリの剣からマグマのような熱を帯びた斬撃波が放たれる。放射状に極限まで圧縮された熱エネルギーが空間を焼き、迫る。
(まずいっ!これ、受けたらヤバい)
マルは、咄嗟のオーラで固めただけだった。それでも、並みの衝撃波や斬撃波なら防ぐ自信はある。だが、ジュリの放つ斬撃波は明らかに規格外の密度だった。咄嗟に空中で体勢を変え、空を蹴る。斬撃波は空気を焦がし、マルの外套の端を焼き溶かした。
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