鬼人族の少女との戦い
「化け物め・・・・・・なんて密度のオーラだ・・・・・・」
襲撃者たちのリーダー、レグは呆然とつぶやく。状況を悟った彼は撤退を命じた。ヴェルナーは急速に退く襲撃者たちを確認し、荷車を振り返る。
「アイネ、大丈夫か?」
「助かったよ、ヴェルナー・・・・・・」
アイネは頭を押さえ、弱々しく答えた。ヴェルナーの手を借りて立ち上がり、荷台を見ると、ガラスや鏡は全て粉々に砕けていた。
「やられちゃったね・・・・・・」
彼女は小さく溜め息をついてヴェルナーを振り返ると、彼の全身からオーラが立ち昇っている。アイネも剣の柄に手を掛けようとすると、ヴェルナーが手で制止しながら前に進み出た。
「アイネ、下がってろ」
彼の視線の先には、あの少女が一人佇んでいた。先ほどの気配を消したような雰囲気はなく、膨大なオーラが彼女の小さな身体を際立たせている。
(あたしの時は、本気じゃなかったってこと?)
アイネは拳を握り、唇を噛んだ。
「ヴェルナー、気をつけて。あいつ、空中で妙な動きをする!」
背中越しに警告するアイネ。ヴェルナーと少女は微動だにせず対峙する。松明の炎が夏の生暖かい風に揺れ、アイネの背中に冷や汗が滲む。先に動いたのは少女だった。地を這うような低い姿勢から爆発的な加速でヴェルナーに突進し、無数の衝撃波を放つ。
ヴェルナーは一歩も動かず、最小限の動きで全てを相殺。衝撃波がぶつかり合い、空気がビリビリと震え、地面の振動が兵士たちの緊張を煽る。次の瞬間、両者の双剣が激しく交錯。金属音が響き、無数の火花が闇に散る。少女の動きは加速し、ヴェルナーを取り囲むように死角を突く。双剣を活かした手数とフェイントを織り交ぜ、無限の戦術を繰り出す。だが、ヴェルナーは「清流のヴェルナー」の名にふさわしく、暴雨のような刃を一糸乱れぬ剣裁きで防ぎ切る。
士官学校時代、相手の攻撃を大河のように飲み込む戦い方から名付けられた二つ名だ。拮抗が続く中、少女が動いた。距離を取り、息を整えると、一気にオーラを解放。奔流のようなオーラに兵士たちは息をのむ。低い姿勢から再び加速し、片方の剣に集束したオーラを解き放つ。
「炎龍」
少女のつぶやきとともに、炎をまとった巨大な衝撃波が放たれる。
(オーラの性質変化だと!?)
ヴェルナーの衝撃波と「炎龍」が激突し、爆発。凄まじい爆風が兵士たちを吹き倒し、炎の光と熱風がヴェルナーを包んだ瞬間、少女が再びつぶやく。
「双炎龍」
上空に舞った少女が、両腕を振り抜く。双剣から二つの炎龍が解き放たれる。
「八重の風巻」
今度は、ヴェルナーが性質変化をさせたことに、少女の目が驚きで見開く。ヴェルナーは体内で爆発的なオーラを練り込み、剣先に集束。放たれたオーラは、その性質を風に変え、ふたつの炎龍を飲み込みながら少女に迫る。その風圧で、一瞬、フードがめくれ上がり、少女の顔が一瞬顕わになった。瞬時に、彼女は空を蹴ってヴェルナーの攻撃を躱す。
「・・・・・・どうなってる?」
「え?」
ヴェルナーとアイネが同時に声を上げる。その時、遠くから笛の音が響くと、少女の動きが止まった。
「楽しかった。じゃあね」
少女はそれだけ言い残し、姿を消した。
「ヴェルナー、あの子・・・・・・」
「ああ・・・・・・」
ヴェルナーから報告を聞き終わったアルスは、「うーん・・・」と言ったきりだった。
「あの、アルスさま——」
沈黙に耐え切れず、ヴェルナーが話そうとすると、アルスから逆に質問された。
「それって、どう考えても鬼人族だよね?」
「そうだと思います」
「パトスたちなら何か知ってるかもしれない・・・。でも、どうしてその子は闇ギルドなんかにいたんだろう?」
アルスの疑問は、ヴェルナーに向けられたのか自分に向けられたのか判然としなかった。いずれにしても、ヴェルナーには答えようもなく首を振るしかない。アルスは、ふと思いついたように話題を変えた。
「闇ギルドといえば、捕らえた襲撃者からアジトの場所が判明したんだ。今日にでも急襲するつもりだよ。何かわかるかもしれない」
ヴェルナーは頷いた。何故、闇ギルドがファニキアを敵に回すような活動を始めたのか?それが疑問だった。
「それなら、私も行きましょうか?先日の鬼人族の少女が、もし出てきたら、通常の兵では近づくことすら出来ないと思います」
ヴェルナーの提案を聞いてアルスは微笑んだ。
「その点は大丈夫だよ。ジュリが向かってるから」
いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。
☆、ブックマークして頂けたら喜びます。
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。