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襲撃計画

「マル、起きろ。時間だ」


 男の声がドア越しに響いた。薄暗い部屋の中を蝋燭の火が揺れている。マルと呼ばれた少女は、少し不機嫌そうに目を開け、しばらくボーっとした。そして、ようやくむっくりと起き上がる。部屋の外を見ると、陽はすっかり向かいの建物に隠れていた。


「もうこんな時間か・・・。なんか寝た気しないな」


 マルは大きな欠伸をひとつすると、ベッドの傍に置いてある短身の剣を二本腰の後ろに差す。そして、その上から上着を羽織った。こうすると、一見しただけでは武器を携帯しているようには見えない。彼女がドアを開けてギシギシする階段を降りて行くと、すでに数人のメンバーが集まっていた。そのなかに、先ほどマルを起こした男と視線が合う。


「マル、もうちょっと早く起きろ」


「ん・・・・・」


 男はマルの返事に、小さく息を吐いて首を振る。


「今回の依頼だが、輸送隊を狙う。それで、マルには―」


 男はそこまで言いかけて、奇妙な視線を感じて気付いた。説明し忘れていたのだ。


「そういや、おまえマルと会うのは初めてだったな?」


 声を掛けられた男は頷く。視線はマルに釘付けになったままだ。正確にはマルの額に、である。


「こいつは、俺の隊の副長をやってるマルだ。見た目は―まぁアレだが、腕は超一流だ。仲良くしてやってくれ」


「す、すみません。レグ隊長、彼女はいったい・・・?」


 新人の反応に、隊長は額を指で搔きながら面倒くさそうに答える。新人が来るたびに、何度この説明をしただろうか。


「まぁ、角生えてる奴なんて見たことないかもしれんが・・・。世の中、色んな奴がいるんだよ」


「・・・・・・で、その輸送隊って?」


 マルはそんなふたりの会話を無視するかのように、話を進める。彼女の様子を見て思わずレグは苦笑した。


「ああ、そうだな。輸送隊っていうより、ガラスを運んでる商隊を狙うってのが正しいか」


「ガラス・・・・・・」


 マルの呟きに続いて他の仲間が声を上げる。


「ファニキアのガラスか!市場価値が凄いって話だが、そうとなりゃ護衛の質も数も半端ない。本当に俺たちだけでいけるんですか?」


「普通はこんな少人数でそんな大仕事はしない。だが、うちにはマルがいる。それに、他の隊も動く手筈になってる。俺たちだけに負担が回ってくるわけじゃない」


「なるほど。だけど、ちょっと引っ掛かるな」


「なにがだ?」


「いや、普通俺らに来る依頼ってもっと個人的なもんじゃないですか。こんな大掛かりな襲撃・・・まるで、これじゃあ軍事作戦みたいだと思って」


 レグは、指で顎をさすりながら部下の指摘を思案した。確かに今回みたいな依頼は非常に稀だ。闇ギルドに来る依頼は大抵が暗殺や報復といった、個人的な依頼が中心となることが多い。今回の依頼はファニキアから周辺各国に運ばれる複数のガラス商隊の一斉襲撃だ。個人的な——というには、いささか度を超え過ぎている。


 しかも、これだけの依頼内容だ。ギルドメンバー総出で当たらなければならない。頼むなら、それに見合うだけの莫大な依頼料がかかったはずだ。


「まぁ、そんなこと考えたところで、しょうがないだろ。俺らは依頼内容をどうやってこなすかってだけの話だ。裏の事情まで考えたって、それで飯が食えるわけじゃない」


 レグは、部下の指摘を適当に流して、具体的な作戦内容に入ることにした。




 それから1週間後、経済特区シャンテ・ドレイユから運び出されたガラスの商隊が一斉に襲われたとの報告がアルスの元にもたらされることになる。報告を聞いたアルスはすぐに対策を指示した。


 ファニキア国内の街道沿いの警備を強化し、商隊には夜間の移動禁止令を発布。さらに、ガルダやヴェルナー、エルンストに命じて商隊が通る街道付近の巡回を行った。その効果はすぐに出ることになる。結果として、7つの襲撃を未然に防ぎ、内3つは壊滅させることに成功した。


 しかし、完全に防ぎきれるものでもなく、警備をすり抜けたものは被害が出てしまう。ヴェルナーは申し訳なさそうに、アルスにそのことを報告した。


「——結果として、気付くのが少し遅れてしまい・・・私の落ち度です」


「それは、仕方がないよ。それにしても、ヴェルナーでも捕らえきれなかったというほうが、僕としては気になる」


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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