お披露目2
「皆さん、ようこそ、シャンテ・ドレイユへ!」
アルスの声は力強く、広場に集う人々の心を掴んだ。
「この経済特区は、ファニキアの技術と、東三日月経済圏の結束の結晶です。運河、商会、宿泊施設、歌劇場、闘技場——これらすべてが、新たな交易と文化の中心地として世界に輝きを放つでしょう!」
ハサード王は、ガラス製の杯を手に感嘆の声を上げた。
「アルス殿、このガラスの輝きは、ゴドアの宮殿でも話題を独占した。シャンテ・ドレイユは、まさに奇跡の都市となろう」
「ありがとうございます。ですが、これもゴドアが中心となって助力して頂けた結果ですよ」
アルスの言葉にハサード王は愉快そうに笑う。
「ここからだ。ここを反撃の拠点として、大陸と経済の支配者だと勘違いしている連中から世界を取り戻すとしよう」
アルスが頷くと、フリードリヒ王は、弟の偉業に目を細めながら語った。
「アルス、お前がここまでやるとはな。ローレンツも、この特区に大きな期待を寄せているぞ」
ゴットハルト王も頷く。
「ルンデルは交易の要衝として、シャンテ・ドレイユを全力で支援する。ヘルセとの戦でだいぶ消耗しちまったからな。この新しい経済圏はありがたい。経済の力は国力に直結するからな」
「仰る通りです」
アルスは静かに答えた。
東三日月経済圏(ファニキア、ゴドア、ローレンツ、ルンデル)には、運河使用料、交易税、売上税、通行税が免除される特権が与えられている。他国に対しては、運河使用料と通行税が発生するが、交易税と売上税は免除される仕組みだ。
この経済特区は、通常では考えられないシステムであり、とんでもない発想である。本来であれば、国が得られる税(利益)を捨てることになるからだ。これだけの投資をして、巨大な経済特区を作り出すような博打は、どの国からも失敗すると見られていた。ファニキアには、ロアールのような交易路が集中するような地形的利点がない。
「そのような場所にわざわざ商会が参加するはずがない」
当初は、どの国も、どの商会も冷めた目で見ていた。しかし、この流れはファニキアガラスの登場により一気に変わっていく。本来なら存在し得ない、規格外レベルの技術を施したガラス、鏡、器、グラス。
こうした商品を追い求めて、様子見をしていた他国の商会が一気にシャンテ・ドレイユの経済特区に参加を希望し始めたのだ。その結果、ファニキアは土地貸し出し料、工房区画の賃料、歌劇場と闘技場の売上、宿泊施設(貴族用・商人用)の収益、そして通行税と運河使用料から安定した収入を得ることに成功する。
式典の裏では、ベルトルトとアントンが、シャンテ・ドレイユの完成に至るまでの苦労を振り返っていた。
「資材と職人不足は、アルスさまのモジュール工法と訓練プログラムで乗り切れましたよ」
ベルトルトが笑顔で語った。
「工房の拡張も、規格化部品の共有で効率が上がり、他商会の建設も順調に進んだお陰で、ギリギリなんとかなった」
ベルトルトが頷くと、アントンがさらに付け加える。
「ゴドアの出資とガラスの売上が資金の支えになったな。鍛冶師たちも、滑車式クレーンのメンテナンスに追われながらだったが、なんとか間に合わせたぜ」
課題だった他商会の工房建設も、モジュール工法の採用により解決。ゴドア、ルンデル、ハイデ公国、マルムート、ロアールの商会が次々と工房を着工し、シャンテ・ドレイユは交易の中心地として急速に発展していた。
自由交易都市シャンテ・ドレイユの華やかなお披露目を祝う式典の中心で、ファニキア国営商会の本部ビルに設けられた壮麗な展示会場は、職人ガムリングが魂を込めて作り上げたガラス作品の輝きで満たされ、訪れるすべての者を夢幻の世界へと誘う。
そこには、星空の欠片を閉じ込めたようなガラス器、月光を湛える繊細な香水瓶、まるで魂そのものを映し出す鏡、そして神の光を地上に招くようなステンドグラスが並び、ファニキアの技術と美の極致が、訪れる者たちの心を強く打ち震わせた。
ハサード王は、星屑のような輝きを放つガラス器を手に取り、その透き通った美しさに目を奪われ「ゴドアの宝物庫に隠された秘宝すら、この輝きには及ばぬ」と深く感嘆し、その言葉は会場に静かな感動の波を広げた。
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