新たな取り組み
ギュンターが唸った。
「なるほど、さすが軍師の読みだな。戦術は見事だったが、戦略の大局を見誤った、というところか。帝国のヴラディスラフ皇帝は、静観を装いつつ機会を待っていたと考えると、頭がキレるな」
アシュが苦笑しながら言った。
「ガーネット教の誓いの騎士団も、決して弱くはないはずだ。ルイスが強かったというのもあるが、やはり、レジスタンスの働きも大きいんだろうな。だが、この和平でマルムートはバ・ローズ州を確保した。両国とも痛み分けで、しばらくは大人しくしててくれればいいんだが・・・・・・」
アシュの言葉に全員が頷くのであった。
パーティーの中心では、アルス、ミラ、ニナ、マリア、ベルトルト、アントンらが集まり、シャンテ・ドレイユの進捗について話し合っていた。ベルトルトがまず口を開く。
「運河の掘削は、予定より早く8割が完了しました。魔素水とベルトコンベアのおかげで、土砂運搬の効率は当初の予想を上回っています。広場の舗装も6割が終了し、貴族用宿泊施設はすでに外壁が立ち上がり、ファニキアガラスの窓の設置も始まっています」
それを聞いてアントンが顎をさすりながら、いつもの豪快な口調で補足する。
「工房も稼働中で、モジュール工法用の部品生産が順調だ。滑車式クレーンの運用も安定し、建築速度は当初の三倍に達している。だが、問題もあるんだよな」
「問題?」
アルスが眉を上げると、アントンが苦笑しながら続けた。
「他商会の区画です。土地の貸し出しは順調で、ゴドアやルンデルの商会がすでに建物の着工を始めてる。だが、複数の商会から工房建設の要請が殺到していて、資材と労働力の割り当てが追いついてない。特に、ファニキアガラスの生産を優先しているために、工房の拡張が遅れているんですよ」
ミラが腕を組み、鋭い視線で尋ねる。
「資金面はどうなっているんじゃ?このペースでの建設は、相当な出費のはずじゃがの」
ニナが即座に応じる。
「資金は、ゴドアの王室からの出資と、ファニキアガラスの売上で賄っています。ゴドアのハサード王が献上品に感動し、追加出資を申し出てくれたのが大きいですね。ガラスの売上も、貴族や教会向けの高級品を中心に好調です。特に鏡と香水瓶が、ゴドアで爆発的に売れています」
ニナの話を聞いていたマリアが付け加えた。
「ルンデルとローレンツでも、ファニキアガラスの評判が広まっています。鏡は特に貴族の夫人たちの間で『美の必需品』として流行中です。ステンドグラスも、イシス教の教会から大量の注文が入っていますし」
アルスは頷きながら言った。
「それは心強い。だけど、工房の拡張が遅れると、ガラス生産のペースが落ちる。ブランドの希少性を保つため少量生産を続けているとはいえ、需要がこれだけ増えるなら、供給体制を見直す必要がありそうだね」
ベルトルトが頭を掻きながら言った。
「工房の拡張を急ぎたいですが、資材不足に加え、熟練した職人が足りないんです。商会用の工房建設も進めたいですが、優先順位をどうつけるか・・・」
アルスは一瞬考え込み、穏やかに提案した。
「なら、モジュール工法を商会用の工房にも応用しよう。規格化された部品を共有すれば、資材の無駄を減らし、建設速度を上げられる。職人不足については、短期的な訓練プログラムを組むのはどうかな?熟練度は低くても、モジュール工法なら単純作業を分担できる。ガラス生産の職人は別枠で確保しつつ、他の工房建設は新人を投入する」
アントンが目を輝かせた。
「なるほど!部品の共有なら、鍛冶師の負担も減る。訓練プログラムも良いアイデアです」
ミラも満足げに頷く。
「なら、その方針で進めよう。商会からの工房要請は、土地貸し出しの収益をさらに増やすチャンスでもあるしね。シャンテ・ドレイユを、交易の中心地として盤石なものにするんだ」
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