表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

310/348

王と民衆と英雄と

「ファニキアは、貴国の誇り高き将軍、マーセラスさまとピエトロさまを解放いたします。これ以上、血が流れることを望みません。共に未来を築きましょう!」


 だが、彼女の言葉は、民衆の怒りの波にかき消された。


「戦争屋!」「ヘルセを騙すな!」


 罵声が広場を揺らし、誰かが投げた卵がソフィアの頬を打った。黄身が彼女の顔を汚し、ドレスに滴り落ちる。続いて、小さな石が飛んできた。ひとつが彼女の肩に当たり、ソフィアは小さくよろける。痛みが走るが、彼女は顔を上げ、毅然と立ち続けた。


「嘘つき!」「ファニキアの工作だ!」


 民衆の怒りは、三大ギルドの偽情報によって扇動された憎悪の奔流となってソフィアに押し寄せる。フランツが壇の脇で剣の柄に手をかけ、怒りで顔を真っ赤にしていた。


「ソフィア、こいつら——!」


 彼が剣を抜こうとした瞬間、ソフィアの手が彼の腕を押さえた。


「フランツ、落ち着いて。剣では何も解決しませんわ」


 その時、壇の後ろから、ふたつの人影が現れる。マーセラス将軍とピエトロ将軍の姿だった。ふたりの登場に、広場のざわめきが一瞬静まりかえる。マーセラスは、堂々とした足取りでソフィアの横に立ち、深みのある声で民衆に語りかけた。


「ヘルセの民よ! 私はマーセラス、ティターノ軍団の軍団長だ。ファニキアの捕虜として過ごしたが、彼らは我々を敬意をもって遇してくれた。ソフィア殿の言葉は真実だ。彼女は和平を望んでいる!」


 ピエトロもまた、力強い声で続けた。


「我々は、ファニキアとヘルセの交易路の安全を保障する証人となることを約束する。もしファニキアが裏切ったなら、地の果てまで追い詰めて地獄に叩き落とそう。だが、今回、ファニキアは誠意を見せた。握手をするために誠意を見せた相手に対して、ヘルセはその手を払うことはしない。ヘルセの民よ、私がファニキアの指先一本の動きまで監視する。だから、今回はヘルセも誠意で返すとしよう」


 民衆の間に、戸惑いの波が広がった。信頼する将軍たちの言葉に、怒りの炎が揺らぐ。子供が握っていた石が地面に落ち、罵声が次第に収まっていく。マーセラスとピエトロの存在は、まるで嵐を鎮める灯台の光のようだった。


 ソフィアは、肩の痛みを堪えながら、静かに微笑む。彼女のドレスは汚れ、頬には卵の跡が残っていたが、その姿はなお気高く輝いていた。


「皆様、共に新しい未来を築きましょう。ファニキアは、ヘルセの友となることを誓います」


 広場に、静かな拍手が響き始めた。それは小さく、ためらいがちだったが、やがて大きなうねりとなって広がっていった。三大ギルドの偽情報に惑わされた民衆の心に、和平への希望がわずかに芽生え始めた瞬間である。



 ソフィアの広場での演説の後、ファニキアとヘルセは正式に協定を成立した。その際、ソフィアはガイウス王に対して、もうひとつの重要な件を約束させることに成功する。ここにおいて、ようやくソフィアは肩の荷を下ろすことが出来たのだった。





 ミラン・キャスティアーヌの王宮、その広大な謁見の間は、陽光を浴びて輝く白亜の柱と、色鮮やかなモザイクタイルが織りなす壮麗な空間だ。高い天井には金箔が施された星の装飾がきらめき、窓から差し込む光が床に複雑な影を落とす。その中央に置かれた卓の上には、ガムリングの手による精巧なガラスの器と瓶が並び、まるで光そのものを閉じ込めたかのように輝いていた。アルスとミラは、その圧倒的な美しさに言葉を失い、ただ立ち尽くす。


「凄いね、これは・・・・・・。僕の想像を遥かに超えたよ!」


 アルスは、ガムリングが作り上げた一つのガラス瓶を手に取り、感嘆の声を上げた。瓶の表面には繊細な花の模様が刻まれ、光が当たるたびに虹色の輝きを放っている。現代の知識を駆使し、ガラスの質を高める技術を伝えたのはアルス自身だったが、それをここまで昇華させたのは職人たちの技だった。


 特にガムリングの才能は際立っている。武器とガラス。分野は違えど、その造形美は、まるで銀の聖杯の称号を持つガムリングの兄——ガートウィンの鍛冶技術にも匹敵するほどだった。


(僕が教えたのは、ガラスの透明度や強度を高める方法だけだったのに・・・この芸術的な仕上がりは、ガムリングの天賦の才そのものだろうな)


 アルスは内心でそう呟き、改めて職人の技に敬意を抱いた。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ