魔素の形質と性質
「まず、皆さんにお話ししておきたいことは、我々とこの大陸の人々は恐らく繋がりがあるということです。アルスさまと先ほどお話させて頂いて確信致しました。我々の国に残されている古い歴史書の中に、大陸の発見について書かれている文献がございます。大陸の人々は我々の赤い髪と瞳と角を見て鬼人族と呼び、交流を深め、更に我々の祖先のかなりの数が大陸に移り住んだとも書かれてあります」
「待ってくれ、それなら俺たちと鬼人族ってのはもしかして・・・・・・」
フランツが驚くのも無理はない。過去に血が交わっているのであれば、鬼人族という別種がいるという話は根本的に違ってくる。
「これは推測になってしまうのですが、あなた方が魔素を持っているのは恐らく我々の血を引いているからかもしれません。皆さん方の魔素の保有量というのは身体強化を維持して十分~二十分程度とお聞きしました。我々は身体強化だけなら二時間以上はどんな者でも維持できます」
「なっ!?二時間以上ですか?」
普段どんなことにも動じないヴェルナーが驚きの声を上げた。しかし、これは誰でも驚く。それほどの驚愕すべき事実だ。
「失礼ですが、パトス殿もそれくらいの維持が可能ということでしょうか?」エルンストが質問をぶつける。
「私なら一日でも維持できます。私は元々、特級近衛隊長でした。ここにいる者たちは皆護衛も兼ねているため魔素量は多いのです。何かあったときのために殿下や姫をお守りするのがお役目ですので」
「なんと・・・・・・それほどとは」エルンストが口を開けたまま放心状態になっている。せっかくのイケメンぶりが台無しだ。
「話を戻しますが、移り住んだ我々の祖先はこの大陸の人々と交わっていく中で血が薄くなっていったのだと思います。それに伴って外見的要素も無くなると同時に、本来、我々鬼人族が持っていた魔素の力も弱まっていったのかもしれません」
そこまで話すとパトスはコーヒーカップを揺らしていた手を止め、一口飲んだ。
「その、鬼人族の方々がこの大陸に来たというのはいつ頃の話なんでしょうか?」ギュンターも前のめりで食い入るように話を聞いている。
「正確には申し上げられませんが、私の知る限りでは千二百年以上前かと思います。いずれにせよ、現在、我々の国は何らかの理由があってこの大陸に渡ることが禁止されて久しい」
鬼人族が大陸に来たとなると、魔素は人々の間でも一般的になったのだろう。もしくは魔素が使えない人間は淘汰されていったのかもしれない。血が薄れていく中で魔素の力が年々弱まっていくことを実感していたとしたら・・・・・・もしかしたら、ファニキア王国は魔素を科学的に増幅させるようなことを行っていたのかもしれない。その結果があのクリスタルだとしたら、辻褄が合うような気がする。アルスは、話を聞きながらそう考えていた。
「話を進めましょう」そう言って、パトスはコーヒーカップをテーブルに置いた。
「まず、魔素にはそれぞれ、「硬質」「軟質」「粘質」「霧状」の四つの形質、それに加え三つの性質があるのをご存知でしょうか?」
そう問われても誰も答えなかった。全員知らない。そもそも魔素は身体強化に使うものだというのがこの世界の常識だからだ。パトスは構わず魔素についての細かい説明を続ける。
パトスの説明によれば、魔素を硬質化させるとオーラ自体も硬質化し、魔素の密度に空間を持たせれば、オーラは柔らかく弾力性を持ち、軟質化する。さらに密度はそのままに軟質化を進めればオーラは粘着質に、さらに密度を薄くすることで霧状化することが可能だとのこと。
稀に魔素の保有量が多い人間が、武器にオーラを集中させて衝撃波を飛ばせるのは、硬質化させてオーラを飛ばしているということだった。恐らくそういう人間は、自分で魔素の形質変化に自然と気付いたのだろうという話であった。
「昔一度だけ見たことがあるんだ、ベルンハルト兄さんが衝撃波、かな?を飛ばすのを。凄まじい威力だったよ」
アルスがまだ幼少の頃の話だ、その頃からベルンハルトは魔素の硬質化に気付いていたということになる。
「でも、それだけだと先ほどの炎を起こすというのは、難しくないでしょうか?」マリアが尋ねるとパトスは「それはもっともな疑問です」と言って、説明を続けた。
炎を起こすというのは魔素の形質と性質を混ぜ合わせた結果だそうだ。炎を起こすなら霧状の魔素に硬質化した魔素をぶつけることによって初めて炎を起こすことが出来る。これを応用することで様々な戦闘スタイルを作り上げることが出来るとのことだった。
さらに魔素の性質が扱えるようになればもっと様々な現象を引き起こすことが出来るのだそうだ。ただし、魔素の性質まで扱うには、形質が扱えることが前提であるため、形質を扱えるようになった時に、改めて説明するという話だった。
説明をし終えると、パトスは掌で炎を作り出して見せた。その場にいた部隊長全員から感嘆の声が上がる。
「ちょっと待ってくれ。確かにすごい話なんだが、それって魔素量がとてつもなくあればっていう条件が付くんじゃないのか?」
恐らくその場にいたみんなが気にしていたであろう疑問をフランツが突いた。
「確かにそうなります」
「それじゃあ、俺達には・・・・・・」
「いえ、ひとつ方法があります。先ほどアルスさまから聞きましたが、我々の中にも武勇に優れた者の魔素を特別に強化させたい者がいる時に、稀に魔素を強制的に増加させる術を行うことがあるのです」
いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。
☆、ブックマークして頂けたら喜びます。
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。