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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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計画変更

「ひょっとして、ディディさんって悪い人なの?」


 その鋭い質問に、ニナは一瞬言葉に詰まった。だが、サシャが先に口を開いた。

「んー、まだハッキリわかんないんだけど、ひょっとしたらそうかも。だから、証拠を探してるの。ね、アディ、ちょっと手伝ってくれない?」


 アディの目がキラリと輝いた。


「悪者を捕まえるんだね! うん、わかった! 何すればいい?」


 ニナは少年の純粋な熱意に小さく笑い、落ち着いて説明した。


「ありがとう、アディ。それなら、ディディさんと一緒にいる人の特徴を調べてほしい。短剣や服、持ってる物、なんでもいい。それと、もしできたら、彼らがどんな話をしているか教えてくれると助かる」


 ニナはそっと銀貨二枚をアディに渡した。アディはそれを無造作にズボンのポケットに突っ込み「任せて! 調べてくるよ!」と元気よく答えると、ディディのいる奥の席へと消えた。


 ディディの席は店の隅、ニナたちからは死角になる場所である。アディが時折、トレイを持ってそのあたりを行き来する姿が見えたが、ふたりはただ待つしかなかった。適当に注文した飲み物で時間を潰しながら、ニナは落ち着かない様子で杯を手に持つ。


「随分遅いですね・・・・・・」


 ニナがつぶやく。


「うん、ちょっと心配になってきたよ」


 サシャも眉を寄せ、入り口の方をちらりと見た。


 そのとき、ディディが奥から現れ、店を出ていくのが見えた。ふたりは慌てて顔を伏せ、息を潜めた。


「サシャさん、行きました?」ニナが囁く。


「うん、行ったよ」


 サシャが確認すると、ふたりはようやく顔を上げる。そこに、アディが駆け寄ってきた。


「お姉ちゃんたち、調べてきたよ!」


「大丈夫だった? 遅かったから心配したよ。で、どうだった?」


 サシャが身を乗り出した。


「バッチリだよ!」


 アディは得意げに笑い、ディディの相手の様子を話し始めた。


「今日も短剣を持ってる男だった。短剣の柄には、ふたつ重なった星の印が刻まれてた。あと、肩に錨のマークみたいな入れ墨があったよ」


「ふたつの星に、錨の入れ墨・・・・・・」


 ニナは呟き、頭の中で情報を整理した。


 アディはさらに続けた。


「それと、全部は聞き取れなかったけど、妙なこと言ってた。『軍船の件は助かった』って相手の男が言ってて、ディディさんは笑ってた。変だよね?」


「それって・・・・・・!?」


 ニナとサシャは思わず顔を見合わせた。


「今日、王国の軍船がやられたって話、町中の噂だもん。僕でも知ってるよ。でも、ディディさんがそのことを笑ってるなんて、なんか変だよね?」アディは首を傾げた。


 ニナは少年の言葉に頷き、感謝の笑みを浮かべた。


「ありがとう、アディ。本当に助かった」


「ほんと?」


 アディの顔がパッと明るくなった。


「うん、やるじゃん! 将来、立派な密偵になれるよ!」


 サシャが笑いながらアディの頭を軽く撫でた。


「サシャさん、変なこと言わないでください。でも、本当にありがとう、アディ」


 ニナも笑顔で付け加えた。


「また何かあったら、言ってね!」


 アディははにかんだ笑顔を見せ、トレイを持って忙しなく店内に戻っていった。




 数日後、ラトゥンカ商会を中心に、大きな動きが持ち上がった。マハディが主導し、サリワン、バトゥーラ、カユマス、ジェマラン商会と合同で、ヘルセにクローブを輸出する船団を組むという計画だ。商会には再び活気が戻り、商人たちの間では期待と緊張が入り混じった空気が漂っていた。


「三日後、朝6時に北ルートで出航する。ただし、この情報は絶対に口外するな」


 各商会の会長から商人たちに厳命が下された。


 この情報を耳にした当日、ディディが動いた。マハディは密かに彼の動向を監視させ、計画の裏で準備を進めていた。そして、出航前日の夜、マハディは突然、商人たちを集めた。商館の大広間は、ランタンの揺れる光に照らされ、ざわめく商人たちの声で満ちていた。


「みんな、急に集まってもらってすまない。だが、計画に変更がある」


 マハディの声は低く、しかし力強かった。


「出発は朝4時に変更だ。航路も北ルートから南ルートに切り替える」


 その言葉に、商人たちの間にどよめきが広がった。突然の変更に、不満の声が上がる。特にディディが声を荒げた。


「マハディ会長、そりゃあんまりだ! 俺たちだって、明日の出航に合わせて準備してきたんだ。直前で時間を前倒し、航路まで変えるなんて横暴すぎる!」


「ディディの言う通りだ!」他の商人たちも口々に賛同した。


「いきなり計画変更じゃ、準備が間に合わねえぞ!」


 マハディは手を挙げ、静まるよう促した。商人たちが渋々口を閉じると、彼は落ち着いた声で説明を始めた。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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