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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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犯人を捜せ2

「いや、お前さんが話してくれて良かった。儂も薄々感じていたことだ。商船ばかりが、まるで狙いすましたように襲われる。なのに、軍は毎度やられっぱなしだ。誰も考えたくはないが・・・・・・内通者がいる。そして、その内通者はこの商会のなかにいる可能性が高い」


「どうして、そう思われるんですか?」


 ニナが静かに尋ねた。彼女の声は穏やかだったが、鋭い観察眼が光っていた。


 マハディは椅子にもたれ、遠くを見るように答える。


「ペシミールでは、交易船の管理はこれまでマジェラン商会が担ってきた。だが、ラフマトが裏切って海賊に寝返った後、交易船の管理はラトゥンカ商会に移った。だからこそ、商船の動きを知る者がここにいる可能性が高い」


「なるほど・・・・・・だから、マジェラン商会で商人たちがディディさんに船の予定を相談していたんですね」


 ニナは頷き、点と点が繋がるのを感じた。


マハディはニナをちらりと見て、ゆっくり頷く。


「その通りだ」


 彼はしばらく黙り込み、考え込むように視線を床に落とした。やがて、重い口を開く。


「内通者の目星はついてるのか?」


 ニナとサシャは顔を見合わせ、互いに小さく頷いた。ニナが一歩前に出る。


「ディディさんです」


 マハディの目が鋭く光った。


「やはりな・・・」


 彼の声には、驚きよりも確信が滲んでいた。


「どうしてそれを?」


 ニナは思わず目を見開いた。


「理由は単純だ」


 マハディは椅子から立ち上がり、窓辺に近づいた。外では海がキラキラと輝き、カモメの鳴き声が遠く響いている。


「ディディがこの商会に入ったのは、交易船の管理がラトゥンカ商会に移った直後だ。それに、他の商人が次々と海賊に襲われている中、奴だけが無傷で交易を続けている。すべての商船の動きを知る立場にいれば、海賊にとってこれほど楽な商売はない。今回の軍の敗け方も異常だ。岩礁の裏に待ち伏せるなんて、事前に情報を知っていなければできん芸当だ」


「海賊と繋がっているとすれば・・・・・・彼が『海賊に襲われない』という妙な自信にも納得がいきますね」


 ニナは考え込むように、続けて言った。


「実は、ディディさんは私たちに石灰の交易を持ちかけてきたんです。海賊に襲われない航路と時間帯を知っていると・・・・・・」


 マハディは驚いたようにニナを見上げた。


「そうか・・・・・・だが、今のところは状況証拠だけだ。行動を起こすには、確たる証拠が必要だ」


「私たちも、注意深く動いてみます」


 ニナは決意を込めて答えた。


「すまんが、そうしてくれんか」


 マハディは小さく頷き、再び煙草に火をつけた。紫煙がゆらりと立ち上り、商会に漂う重い空気をさらに濃くした。



 その夜、ニナとサシャはラヤ・パサールの外れにある酒場「サンゴの杯」に足を踏み入れた。店内は活気に満ち、酒杯がぶつかる音やフォークが皿を叩く音が賑やかに響き合う。


 笑い声と喧騒が木の壁に反響し、ランタンの暖かな光が客たちの顔を照らしていた。ふたりは地元で手に入れた目立たない服に身を包み、フードを深く被って入り口近くの席に陣取る。そこから、ディディの姿を見張るつもりだった。


「マハディさんの話だと、ディディさんはよくここで飲んでるって話だけど・・・・・・」


 ニナは声を潜め、入り口に目を凝らした。


「あ! 昼間のお姉ちゃんたちだ!」


 突然、後ろから少年の元気な声が響いた。振り向くと、昼間の屋台で声をかけてきた少年、アディだった。


「え、アディ? なんでこんなところに?」


 サシャが驚いて尋ねた。


「ここは僕の母さんがやってる店なんだ。夜は手伝いに来てるよ!」


 アディは胸を張って答えた。少し煤けたエプロンが、彼の小さな体に少し大きめに揺れていた。


 サシャがさらに話しかけようとした瞬間、ニナが指を唇に当て「静かに」と囁きながら入り口を指さした。サシャが視線を向けると、入り口からディディが現れた。軽やかな足取りで店に入り、奥の席に向かう彼の姿に、ふたりは慌てて姿勢を低くし、フードを深く被る。


 ニナはアディに目をやり、声を潜めて尋ねた。


「ねえ、アディ。今入ってきた男の人、知ってる?」


「うん、知ってるよ! ディディさん、常連だよ」とアディは無邪気に答えた。


「いつもひとりで飲んでるの?」ニナはさらに突っ込んで聞く。


「ううん、だいたいふたりだね。もうひとりは男の人で、腰に短剣を差してるよ」


「短剣・・・・・・」ニナは眉を寄せ、考え込んだ。


 アディはふたりの真剣な表情に気づいたのか、声を落として尋ねた。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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