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魔素の秘密

「なるほど、こちらの大陸もかなり混沌としておるようですな」パトスが髭を撫でながら感想を述べた。


 アルスが食事に誘い、こちらの状況を簡単に説明したのだった。


「どこの国も大変なのですね」


 ディーナが溜め息をつく。そこへ、マリアが食後のコーヒーを運んできた。子供のダナには畑で獲れた果実を絞ったジュースが運ばれる。ディーナとジュリがコーヒーに角砂糖を三つほど入れてる。コーヒーはどうやら向こうの国にもあるようだった。


「アルスさま、こちらの国の方は我らのことをどう見るでしょうか?」


 護衛のジュリがさらに角砂糖を三つほど追加しながら尋ねた。思ったよりも苦かったのだろうか。


「というと?」


「その、我らの見た目はこちらの方々とは少し違うものですから」


 言いながらジュリがさらに角砂糖を追加していく。コーヒーから溢れた角砂糖の角が見えている。もうコーヒーを飲んでいるのか角砂糖を飲んでいるのか判別がつかないほどだ。どこまで甘党なの?アルスは突っ込みたい衝動を我慢して答えた。


「あ、ああ、確かにそれはそうなんだけど、僕らは気にしないよ。だけど、領民は少しびっくりするかもしれないから城外に出るには少し時間を貰えたら嬉しいな、不便をかけてすまないのだけど」


「とんでもない、こちらこそ出過ぎたことを」


 そう言って、ジュリは頭を下げた。アルスは笑って「いいよいいよ」と返した。彼女はとても生真面目な性格なんだろう。護衛として本来なら城外も見て回って警備の確認もしたいところなんだろうけど・・・・・・。


 かといって、部屋の中に閉じ込めておくのも可哀想だろう。そう思っていたらパトスの方から提案をしてきた。


「アルスさま、もしよろしければ我らに城内を案内していただけないでしょうか?」


 パトスはコーヒーの香りを堪能している様子だった。コーヒーカップを持った手をゆらゆら揺らしている。


「ちょうどそのつもりだったんだ。当面は不便をかけるわけだから、せめて城内だけでも知っておいてもらいたい」


「そうでしたか、それはこちらとしてもありがたい。よろしいですかな、姫?」


「ええ、もちろん。私もぜひ見てみたいです」ディーナもワクワクしていそうだ。


「それなら、この後すぐに案内するよ」


 アルスは一行を案内しながら客室から展望台、監視塔、兵舎からアルスが色々育てている畑、食堂と案内していった。畑を紹介している間、ディーナがまじまじと真剣に野菜を見ていたので、アルスが彼女に聞いてみると、ここで生息している野菜とディーナの国では少し形が違うのだとか。


 元々、植物に興味のあったディーナは、この大陸で生育している植物との違いに感動しているようだった。今後、もし興味があるのなら魔素で育てる野菜などについて何か知っていることがないか聞いてみるのもいいかもしれない。


 キッチンを通りがかった時、かまどに火を入れるのに苦労している料理人を見たパトスが近寄って声を掛けた。料理人といっても、見た目は小さな少女にしか見えない。パトス一行の話を既に聞いていたせいか、彼女は彼らの見た目に少し驚きながらもすぐに受け入れた様子だった。


「かまどの火の付きが悪いのですかな?」パトスが尋ねた。


「ええ、どうにも昨日の嵐で薪が湿ってまして火が付きにくいんです」


 アルスが料理人の恰好をした少女に気付くと、笑顔で声を掛けた。


「やあ、コレット!頑張ってるかい?」


「あ、アルスさま!はい、おかげさまで」


 コレットはエミールの妹でアルスがエルン城の領主になってすぐにやってきた。エミールから手紙でアルスの話を何度も聞かされていたそうだ。そのうちにどうしてもアルスの下で働きたくなり、貴族のお屋敷での奉公を飛び出してエルンまで来てしまったのだ。奉公先では料理人見習いとして働いていたということで、料理を手伝ってもらっている。


「少し、よろしいですか?」


 パトスがかまどに近づいて、掌をかまどに向けて腕を伸ばした。すると、薪から煙が上がりあっという間に火が付き炎が揺らめき始めた。その場にいたコレットとアルスが驚きの余り固まる。


「ま、魔法!?」

 

コレットが素っ頓狂な声を出している。


「ん?いえいえ、失礼しました。驚かせるつもりはなかったのですが、これはそんなものではありません」

 

 パトスは笑って否定したが、手をかざしただけで火が付いたらそれはもう魔法か手品しか思いつかない。魔法じゃなかったら一体どんな原理なのか?


「パトスさん、今のはいったい!?」考えても無駄なのでアルスは素直に聞いてみることにした。


「今のは魔素の応用です」


「今のが魔素の応用・・・・・・?それで火が起こせるんですか?」


「はい、ご興味がおありですか?」


「ぜひ知りたいですね」


 アルスが食い気味に答えるとパトスは笑って頷いた。


「わかりました。ここではなんですから、お話出来るような場所に参りませんか?」


「え、ああ、そうですね。それなら執務室に行きましょう!」


 アルスも慌てすぎてここがキッチンの中であることを忘れていた。コレットも聞きたそうにしていたが、火が付いたかまどをそのままにしておくわけにもいかず、後でわかったことを話すと伝えておく。


 一行は場所を移動し執務室に入った。中にはマリアが書類の整理をしてくれている。アルスはマリアにも先ほどのことを伝えて、他の部隊長にも一緒に聞いてもらうように手配してもらった。魔素にあんな使い方があるのなら仲間は知るべきだと思ったからだ。


 全員が集まるまで時間があったので、アルスは概要を先に聞いていたのだが、部隊長が集まった後に再度同じ説明をパトスにお願いした。


 やがて、夕方になると全員の部隊長が集まってくる。さすがに十四人も入ると執務室は少し狭く感じたので、応接室のほうに移動することにした。長い豪華なソファとテーブルが置かれている応接室は十四人が座ってもまだまだ余裕がある。


 アルスはまだ事情を知らないフランツ、ガルダ以外の部隊長に浜辺での事の経緯を細かく話して聞かせた。皆、初めてこの大陸以外の人間を見て反応は様々だったが、最後にディーナの話を聞いて納得していたように思う。というか、みんな話の内容よりディーナ姫の可愛さにほだされてるだけなんじゃないか?とアルスは少し疑っていたがその辺は触れないでおくことにした。他の部隊長への事情説明も終わり、いよいよ魔素の謎についてパトスが口を開く。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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