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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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ディディ

「そうですね~」


 女将がアタの皿を運んできた。串焼き魚のサテは、スパイスとココナッツのタレが香ばしく、ナシゴレンは赤と緑の唐辛子が彩る。サシャがテーブルに置かれた串に早速手を出す。


「うんっ!美味いっ!」


「海の幸って感じですね!」


 ふたりでしばらく料理を楽しんでいると、ニナの目がとろんとして来た。


「お腹がいっぱいになったら、眠くなってきました・・・。そろそろ寝ようかな」


「えっ、もう!?」


「だって、今日お昼寝ぜんぜん出来なかったんですよ?」


 ニナが船のなかでずっと寝ていたことが、サシャの頭の中に浮かんでくる。


「ニナちゃんて、いつもお昼寝してるの?」


「お昼寝は大事ですね」


「政務官のお仕事は?」


「それは、もちろんしてますよ。今もしてるじゃないですか~」


「そういえば、そうか。でも、普段のお仕事は?」


「え?えーと・・・・・・会議室にみんなで集まって——」


「みんなでお昼寝するの!?」


 サシャの斜め上の発想に、言い訳を考えていたニナは意表を突かれてしまった。


「え?え?えーと・・・、そ、そうなんですよ!政務官ともなると、お昼寝する時間があるんです」


「政務官かぁ、いいなぁ。あたし弓しか取り柄が無いから羨ましいよ」


「あ、アハハハハ・・・・・・。サ、サシャさん、そろそろ部屋に戻りましょうか」


 こうして、バリワンガの夜は更けていった。




 次の日の午後、ニナとサシャは再びラトゥンカ商会の扉をくぐった。商会の中は、潮風と古い紙の匂いが混ざり合い、どこか懐かしい雰囲気を漂わせている。昨日出会った老人——マハディが、若い男と低い声で何事か話し込んでいた。木のカウンターに置かれたランプが、揺れる光でふたりの顔をぼんやりと照らし、話し合いの深刻さを際立たせている。


「こんにちは」とニナが声をかけると、マハディの視線が男から彼女たちへと移る。


「おお、昨日のお客人か。すまなかったな、力になれなくて」


 マハディは少し疲れた声で言った。


「いえ、紹介してくれたナディムさんから、いろいろとお話を伺うことができました」


 ニナは丁寧に答える。


「そうか・・・・・・」


 マハディの声はどこか遠く、考え込むように途切れる。 そのとき、マハディの隣にいた男が、まるで舞台の幕が上がるようにニナたちに目を向けた。


「すると、こちらが例の?」と男がマハディに確認するように尋ねる。マハディが不機嫌そうに頷くのを無視し、男は白い歯を見せて人懐っこい笑顔を浮かべ、手を差し出した。


「どうも、初めまして! 可愛らしいお嬢さんたち。私はディディ・ハディと申します!」


 彼の声は、市場の呼び込みのように明るく響く。


「まったく、お前の余計な一言で、余計な混乱を招いたんだぞ? こんな状況だというのに・・・・・・」マハディの低い呟きが、ディディの背後から聞こえてくる。だが、ディディはまるで聞こえていないかのように、笑顔を崩さなかった。


「ファニキア王国の政務官を務めているニナ・フォッシュです」


 ニナが名乗ると、ディディは一瞬目を輝かせ、彼女の手を取って軽く口づけしようとした。


「可憐なお嬢さんにお会いできて光栄です!」


 その瞬間、「あたしは護衛のサシャだよ、よろしく!」とサシャが勢いよく割り込み、ディディの手を力強く握りしめた。彼女の握力に、ディディの笑顔が一瞬引きつったが、サシャの屈強な体格と腕の筋肉を見て、すぐに態度を切り替える。


「なんとデカ、なんとも・・・・・・そう!包容力のある素敵なお嬢さんですね!」


 ディディは少し後ずさりながら、誤魔化すように笑った。


「ディディ! お前の口からしっかり説明しろ!」


 マハディの苛立った声が、背後から鋭く飛ぶ。


「すみませんね、老人は気が短くて」とディディは肩をすくめ、ニナたちに微笑みかけた。


「少し場所を変えませんか? ここじゃ落ち着いて話せそうにないので」


「それなら、今からマジェラン商会に向かうつもりでした。歩きながら話すのはどうですか?」とニナが提案すると、ディディは目を細めて頷いた。


「それなら、私もご一緒しましょう!」


 ディディは、港町の石畳の道を歩きながら、話し始めた。海風が彼の軽やかなシャツをはためかせ、遠くでカモメの鳴き声が響く。


「実は、海賊による被害が深刻になったのは最近のことでして・・・・・・。私がロアールでソフィア嬢にお会いしたときは、ペシミールの軍で十分抑えられると踏んでいたんです。ガラスの生産と聞いて、ピーンと来ましてね。ついつい・・・・・・いやぁ、その点は本当に申し訳なかったと思ってます」


「いずれにせよ、私たちはペシミールに石灰の交易を打診していたと思います。ですが、海賊の被害がここまで深刻だとは・・・・・・」


 ニナの声には、かすかな苛立ちが滲んでいた。


「今日、王国軍が海賊の討伐に出ているんですよ。そろそろ結果が出る頃かと」


 ディディは軽い口調で言ったが、どこか上の空だった。


 マジェラン商会に到着したとき、ナディムの周りには数人の商人が集まり、深刻な表情で話し込んでいた。木製の梁がむき出しの部屋は、湿った海の匂いとタバコの煙で重苦しい空気が漂う。商人たちの会話が、ニナたちの耳に飛び込んできた。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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