南海諸島へ!
「ソフィア殿、あなたは年若いにも関わらず慧眼の持主かと思う。だが、我々の義務は国を守ることであり、それに付随する権利しか持たない。つまり、戦場以外で起こった事に関しては、我々の関知することではない。もし、真実がルンデルの仕業で無かったとしても、判断するのは陛下だ。我々ではない」
「そう、ですか・・・・・・」
「まあ・・・とは、言えだ。捕虜である我々の待遇には感謝している。我々で協力出来るようなことがあったら、協力しよう」
思わぬマーセラスの柔軟な姿勢に、ソフィアの曇った顔が晴れた。
「マーセラス将軍、感謝しますわ」
「私も出来る範囲で、協力はしよう」
ピエトロもマーセラスに続く。ソフィアがピエトロにも感謝を述べる。
「ピエトロ将軍も、ありがとうございます」
「私としては、その交渉で戦が終結するなら良いと思ったまでだ。ヘルセにとっては、これ以上ないほどの良い条件だからな。しかし、ファニキアとしては、それでいいのか?」
「はい、ルンデルはヘルセから賠償金の要求をすると思います。こちらからも賠償金を請求すれば、ヘルセの国力は一気に落ちるでしょう。そうすれば、違う勢力の影響が増して来る可能性もありますわ」
「なるほど、ヘルセの混乱は望んではいないということか」
ソフィアは、ふたりと面会を終えると、今度はヘルセへと旅立っていった。ロアールで断られた交易路の確保を、ヘルセでしなくてはならない。
南海諸島の国
ロアールから戻ったソフィアと話をしたニナは、ラ・エスカローナ州の南にあるミュール港から南東の海域を目指した。目的地はペシミール諸島王国だ。道中の護衛役はサシャが担当する。
ソフィアからは、ロアールでの交易路の確保と、市場の確保に失敗したと謝罪しながら伝えられた。ニナとしては、ソフィアの交渉の成否に関わらず、経済担当政務官としてガラスの生産体制を一刻も早く整える必要がある。ミラに、ペシミール諸島に赴くことを伝えだのだった。
「ねぇ、ニナちゃん」
「はい~」
「ミラさまは、なんであんなに心配してたんだろうね?」
「ミラさまが?心配してましたっけ?」
「大丈夫かの~?って言ってたよ」
それを聞いて思わずニナが吹き出して笑う。
「サシャさん、ミラさまのモノマネうまいですね!」
「あー、それリザさんにも言われたなぁ」
船上でこんなやり取りをしていたふたりだったが、しばらくするとニナが眠気を感じ始めた。
「サシャさん、私寝るから何かあったら起こしてください」
「オッケー!このサシャさまに、任せなさい!」
そう言ったサシャも話し相手がいなくなり、暇になると眠くなる。そして5分後にはサシャもいびきをかきながら、港に到着するまですっかり夢のなかであった。
ペシミール諸島王国。夏の日差しと海に囲まれた、大小さまざまの島々から構成される王国である。元々は島のひとつひとつを治める領主がおり、それが争ったりくっついたりしながら、次第にひとつとなって王国となった経緯がある。
そのため、異なる三つの文化が混ざり合い、大陸とは独特の文化を育んでいる。ニナたちは、その島々のなかでも最大の交易都市があるバリワンガに降り立った。港の桟橋に連なる帆船の群れが、色とりどりの布をはためかせ、海鳥の鋭い鳴き声が風に乗り、塩と甘いクローブの香りを運んでくる。岸辺の家々は、シダの葉を編んだ屋根が風にそよぐ。
木造の柱には花や鳥の彫刻が施され、赤や青の布が窓辺を飾っていた。ヴィラーニャの石造りとは異なり、軽やかで生き生きとした建物だ。道端では、子供たちがサンゴの欠片で遊び、女たちがシダを使ったアタと呼ばれるかごを編む。
ふたりは港から坂を登り、街の中心へ進んで行く。道の両側に、木と石の建物が連なり、交易商の屋敷は、彫刻の柱とシダの屋根で豪華さを競う。市場の喧騒が近づくにつれ、風にクローブと魚の干物の匂いが混じる。突如、視界が開ける——ラヤ・パサール、バリワンガの大市場だ。
ラヤ・パサールは、色と音の渦だ。シダの屋根の下、木の屋台が隙間なく並び、赤や黄のバティックが風にはためく。サンゴの首飾り、クローブの袋、アタのかごが山積みになり、商人たちが甲高い声で客を呼んでいる。
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