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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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ふたりの将軍

 ソフィアは、ファニキアに帰国すると、王都ミラン・キャスティアーヌに戻っていたアルスに、ロアールでの出来事を報告した。


「おつかれさま、ありがとう」


「いえ、本当は交易路まで確保出来れば良かったのですけれど」


 ソフィアは苦笑いでアルスの労いに応えた。


「本命はヘルセだから、問題はないんでしょ?」


 そのアルスの指摘に、ソフィアはいたずらっぽく笑う。


「そこまでお見通しだったのですね。さすが、アルスさまですわ」


「それより気になるのは、ロアールが試作品(失敗作)に、興味を示したことだね」


「すみません、私の判断が甘かったかもしれません。まさか、ガラスの製造方法の共有まで要求されるとは、思ってもいませんでしたわ」


「初の試作品が現在のガラスの三倍の価値・・・か。僕も認識が甘かったよ。となると、今の完成品ならいったいどれだけの市場価値になるのか・・・・・・」


「今のガラスの平均価格は150万ディナーリ、完成品は想像も出来ません・・・」


 アルスは、腕を組んで少し考えていたが、ふと思い出したように立ち上がってファニキアの地図が貼られている壁まで歩いていく。そして、地図を見ながら話を続けた。


「今、試作のガラスを含めて、大半はエルン州で生産してるんだ。ロアールでの襲撃の件もあるし、おかしな連中が動く前に計画を前倒しにしてシャルミールに移すよ」


「警備の強化も必要だと思いますわ」


「ベルに頼んでるけど、万が一のことを考えてギュンターにも応援を頼んだほうが良さそうだね」


「それから、アルスさま。もうひとつお願いがありますわ・・・・・・」



 アルスに報告を終えたソフィアが次に向かったのは、捕虜となってるヘルセのティターノ軍団長——マーセラスとピエトロだった。マーセラスとピエトロは軟禁されてるとはいえ、比較的自由な生活を許されている。これには、もちろんアルスやミラの思惑が含まれていた。そのふたりの前にソフィアが訪れる。ソフィアはふたりの前に立つと、丁寧にお辞儀をした。


「私はファニキアの外交を担当しているソフィア・フォン・バウアと申します。お初にお目にかかりますわ」


 外交担当という重職には、およそ見えない少女の姿。面食らったふたりだったが、ピエトロがまず口を開いた。


「捕虜の身でありながら、この好待遇には感謝する。だが、俺たちに期待しても何も出来ないぞ。身代金でも取ろうと言うなら本国と交渉してくれ」


「いえ、ファニキアはあなた方の身柄に対して、身代金を要求するつもりはありません」


 そのソフィアの返答を聞いたマーセラスが今度は尋ねる。


「では、何を要求するというのかね?」


「交易路ですわ」


「交易路?」


「はい、交易路ですわ。ファニキアはゴドアと交易を望んでおります。そこで、ヘルセに安全な交易路を求めたいのです。もちろん、通行税もお支払いしますわ」


「適正な範囲で」とソフィアは付け足す。


「まさか、それだけなのか?」


「それだけですわ」


 マーセラスは、思わずピエトロと顔を見合わせた。彼らは、彼ら自身が交渉の材料として使われることは想定している。だが、こんな簡単な要求になるとは想像もしていなかった。


「わからんな・・・・・・。もし、本当にそうだったとして。それを我々に報せて、いったい何の得になるというんだ?今の我々は、何も出来ない立場なんだぞ」


「ルンデルと戦になった経緯を教えて欲しいのです」


「それを知ってどうする?」


「恐らく、ガイウス陛下との交渉は難航するかと思われますわ。ですから、知っておきたいのです」


「難航する?何故だ?ゴドアとの間の交易路を得たいのだろ?もし、本当にそれだけなら、卵を割るより簡単な話だと思うが」


 ソフィアは、マーセラスの言葉に深刻な表情で首を振った。


「残念ながら、そう簡単にはいかないと思っています。交渉に当たり、ファニキアもルンデルを通じて情報を集めています。戦のきっかけとなったのは、賊を装ったルンデルが国境周辺の街を襲ったと伺ってますわ。やがてそれが記事となり、国民感情を煽った」


 マーセラスとピエトロは黙って頷く。ソフィアは彼らの反応を探りながら、さらに話を続けた。


「そして、決定的となったのはロムルス伯爵暗殺事件ですわ。これがきっかけとなり、ヘルセ国民の間で、ルンデルに対する報復を望む声が一気に高まった・・・。ですが、これについては証拠が一切提示されてません。付け加えて言うなら、ルンデル兵と思われる賊の証拠というのも、サーコートだけです」


「だからと言って、ルンデルではないと言いたいのか?」


 ピエトロがソフィアの言葉に異を唱えるのを見て、ソフィアは穏やかに返答する。


「いいえ、そうではありませんわ。ただ、私は真実を知りたいだけなのです。ヘルセの人々が犠牲になったのは事実です。ですが、ルンデルの人々が犠牲になったのも確かですわ。ルンデルもヘルセも、長雨による不作で国民は苦しんでいたはずです。そのような状況下で、ゴットハルト陛下は、そんな挑発行為をする必要があったのでしょうか?果たしてガイウス陛下は、本当に望んで戦を起こされたのでしょうか?」


 ソフィアが投げたその疑問に、ふたりは黙ってしまった。彼らもまた軍に所属する将であって、戦に至る政治的な経緯に詳しいわけではない。何かを考えていたマーセラスだったが、やがて口を開いた。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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