交易交渉
「ガラス・・・・・・?ファニキアでガラスの製造をしてるというのは、聞いたことがありませんでした。ふむ、そうですか・・・。ガラスの製造は非常に難しい分、馬数頭分に匹敵する価格です。それだけの技術を持ってらっしゃるのですね。となると、材料はどうされてるのですか?」
「詳しいことは、私もわかりませんが・・・・・・・」
「そうですか、ペシミールは石灰の宝庫です。もし何かお困りのようでしたら我がラトゥンカ商会にお任せくださるよう、お伝えいただけたら幸いです」
「ラトゥンカ商会・・・・・・。その名前、ペシミール諸島王国の商会ですか?」
「おお!その通りです!さすがに、使者を務めていらっしゃる方だ。ご明察です」
「なるほどですわ。それでは、もし何かありましたらご連絡いたします」
「ぜひ、よろしくお願いいたします」
ディディは深々とお辞儀をすると、その場を離れていった。
「なーんか、調子の良い野郎だったな・・・」
その後ろ姿を見ながらフランツが呟く。
「ミラさまにお会いしたら、一応報せておきましょう」
数日後、ソフィアとフランツは再び公爵の居城にいた。運河を見下ろす豪奢な部屋に通されると、金や宝石を散りばめた衣装に身を包んだ初老の男が椅子に座っていた。
全ての指に指輪が光り、夏の陽光がその輝きを増す。使者であるソフィアを前にして、隣に立っている部下と耳打ちをしながらずっとやり取りをしている。それが終わると、彼はようやくソフィアに向いた。その尊大な態度にフランツがイライラしつつも、ゴドアのことを思い出して感情を抑える。
ここはソフィアの戦場であり、フランツはあくまで護衛という立場に過ぎないことを彼は学んでいた。
「ソフィア殿、だったかな。交易管理をしているゾルターン・ケルメンディと申す」
「ソフィア・フォン・バウアと申しますわ」
ソフィアが会釈するのに合わせて、フランツも黙って会釈する。
「先日は、こちらの手違いがあったようで、申し訳なかった。ロアールはどうかな?」
「大陸中の商人と物資がここに集まってる様を見るのは、とても楽しいですわ。さすがに大陸経済の大動脈と言われるロアールです。見て回るだけでも楽しいですが、各国の人々とお話をするだけでも勉強になります」
ソフィアの意外な口達者ぶりに、ゾルターンも目を細める。
「はっは!それはよかった。それで、貴国のご用件とはなんでしょうか?」
「ガラスですわ。我が国で生産しているガラスをファニキア国営商会の交易商品として、このロアールの交易路を使わせて頂きたいのです」
「ガラス・・・・・・?なるほど、貴国でガラスの生産をしているとは知りませんでした。どのような品か、確認させて頂いても?」
ゾルターンは、先日のディディと同じような反応を見せた。ソフィアはフランツと目を合わせると、フランツは抱えている木箱を持って前に進み出る。ゾルターンの部下が受け取り、その木箱を開けた。彼らはそのガラス板を見るなり、感嘆の声を上げた。
「これは、素晴らしい!これほどの出来栄えのガラス、見たこともない。貴国では、いつからこのような見事なガラスを?」
「製造に成功したのは、最近ですわ」
「ほぅ・・・・・・。これなら現在のガラスの三倍、いやそれ以上の値は軽く付くでしょう。是非、我が国でも取り扱いたい品です」
「もちろん、この品をロアールでも売り出すことは可能ですわ。それで、如何でしょうか?」
「もちろん、ロアールとしては、どのような品でも歓迎です。まして、このような素晴らしい交易品とあれば尚更です」
ゾルターンは、最初の不躾な態度とは違い、気味の悪いほどの満面の笑みでソフィアの質問に答えた。
「それでは、もしここで取引をするならば、どのような条件があるでしょうか?」
ソフィアが質問すると、再びゾルターンの傍に立っているブレーンと思しき書記官が耳打ちする。ゾルターンは何度か頷くと、ソフィアの質問に答えた。
「そうですね。ご存じのように、我が国では、交易路を使用する全ての交易品に対して通行税を掛けています。次に、市場税。これは、市場で商品を販売する際に課されるものです。市場の場所代や、管理費用に充てられる税金と思ってください。それに関税が掛かります。我が国の商会を保護するためのものです、ご理解ください」
「ここで取引をするなら、三つの税が掛かるという理解でよろしいでしょうか?」
「ちなみに、運河は利用なさるおつもりですか?」
「はい、利用できるなら・・・」
「それでしたら、運河・河川税が掛かります。川や運河を使用する船に課される税金です」
そこまで聞いて、ソフィアは小さく息を吐いた。その様子を隣で見ているフランツは、ソフィアを一瞥しただけだ。ソフィアは気を取り直して、交渉を続ける。
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