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予期せぬ来訪者

 アルスたちが新型水車のお披露目をしてから更に二か月が経つ。あれから、水車の数も順調に増えた。そして、新しい村の建設予定地にも着実に居住地が増えてきている。そんなある日、フランツとガルダが大慌てでアルスがいる執務室に駆け込んできた。


「た、大変だ!すぐに来てくれ!」


「殿下!海で人を見つけたんです。ですが見たこともない、なんと言っていいですかな・・・・・・」


 ガルダも相当慌てている様子だ。アルスには2人が何を言ってるのかがさっぱりわからなかったが、ふたりの慌てっぷりに海で何か大変なことがあったろうことだけは理解した。とにかく落ち着いて話すように促していると、マリアがふたりの話から内容を推測して通訳してくれた。


「もしかして、浜辺で誰か倒れてるのを見つけたということでしょうか?」


「え!!?誰かが倒れてるってこと?」


 アルスが聞き直すとガルダが口を開くのを、フランツが制止して説明し始めた。フランツとしては、ガルダが説明するとややこしくなると考えたのかもしれない。


「ああ、俺たちはいつものように村と周辺を巡回していたんだが、浜辺まで行ったガルダがたまたま見つけてな。倒れているといえば、まあ、そういうことなんだが」


 フランツの歯切れもあまりよくない。


「んん!?どういうこと?」


 アルスの顔が理解出来ずに変な顔になっている。


「いや・・・・・・肌や髪の色も全然違うし、頭に角が生えてる。俺たちとは違う大陸の人種だと思う。アルスとにかく今すぐ来てくれ!今のところ敵か味方かも俺にはわからん。実際に見てもらってからアルスに判断してもらいたい」


「なるほど、よし準備して行こう」


 そう言うと、アルス以下その場にいた四人はすぐにフランツたちが言っていた浜辺に急ぐ。フランツたちが言っていた浜辺は南の村の南西にあった。浜辺に到着すると潮の香りが一層強くなる。海からの風は相変わらず強かったが、昨日の嵐とは打って変わって暖かい日差しが感じられる。


 四人は浜辺に着くとガルダの案内で現場まで走って行った。現場に着くと倒れている人々が確かにそこにいた。初老の男性一人に若い男がひとりに少年ひとり、若い女性が三人という組み合わせである。すぐに彼らの状態を確認したところ、かなり衰弱しているだが、全員息はあるようだった。


「幸い外傷はないみたい。昨日の嵐で船が難破したのかもしれない。ここに置いていくわけにはいかないし、城に運んで手当しよう」


「でも、いいのか、アルス?」フランツが確認するようにアルスに尋ねた。


「うん、確かにこの大陸では見かけない人たちだけど、それ以外は僕たちと何にも変わらない。それに何より、倒れている人たちをこのまま放っておけないよ」


「とにかく荷馬車まで運ぶとしますかな」


 ガルダがそう言って、立ち上がった。そして、荷馬車にクッションとなる毛布を敷いて浜で倒れていた六人を運んで行くことにした。


「このことは領民にはどう説明しますかな?」


 城に戻る道中、ガルダが質問をした。領民は酷い生活を強いられていた。この状態からアルスが立て直しつつあることを考えれば、領民からの信頼は得られてきているのかもしれない。


 だが、まだ敵とも味方ともわからない者たちを紹介するのは時期尚早なようにも思えた。


「当面、伏せておこう。今はまだ混乱するだけだと思う」アルスがそう言うとマリアも頷いた。


「それにしても、いったいどこから来たのでしょう?」マリアが疑問をぶつける。


「少なくともエルム大陸の連中じゃないことは確かだな。となると、別の大陸なのかもしれんが。今は考えてもわからんな」


 フランツも考え込んでいたが、首を振った。


 四人はエルム城に着くと、六人をそれぞれ客室のベッドに運んだ。六人とも衰弱してはいるものの、容態は安定しているようだった。その夜、様子を見ていたマリアがアルスを呼びに来た。アルスが部屋に入ると既に六人とも目覚めていた。


「こんばんは!皆さん身体のほうは大丈夫ですか?」


 アルスはゆっくりと話しかける。六人とも見合わせていたが、初老の男性が口を開いた。


「あなたがアルス殿ですね、私、こちらにおられる姫君ディーナ・エーデ・オーベルタールさまと弟君でおられるダナ・スターク・オーベルタール殿下の執事パトス・リースタックと申します。我々を助けて頂いて本当にありがとうございます。おかげさまで、我々全員無事でございます」


 そう言って深くお辞儀をした。マリアが目覚めた全員にエリクサーを飲ませてくれたおかげで六人とも顔色がかなり良くなっていた。アルスは頷くと話を続けた。


「もしよかったら話を聞かせてもらってもいいかな?」


 パトスが口を開こうとすると、姫と紹介された女性が話し始めた。


「それなら私から」


 そう言って、立ち上がるとアルスに深々とお辞儀をした。その所作はアルスの知る礼儀作法とは違うものだったが、明らかに高貴な出自だとわかるものだった。


 角さえなければどこかの可憐な貴族のお嬢様と言っても違和感が無いほど顔立ちが整っている。きっと男性貴族からの求婚が殺到するだろう。


「私はディーナ・エーデ・オーベルタール、南の島にある国オーベルタールの姫・・・・・・でした」


 ディーナはそう言うと声のトーンが暗くなった。


「姫」


 執事のパトスが助け舟を出そうとするが、ディーナは続けた。ディーナの話によれば、彼女の祖国オーベルタールでは王族同士の争いが元で内紛になったということだった。その権力争いに巻き込まれ彼女と彼女の弟は散々利用された挙句、殺される寸前だったという。


 彼女は命の危険を感じ、弟を連れ出し船に乗って逃げ出した。しかし、逃げ出すと言っても当てもなく彷徨っているだけ。やがて食料も水も底を尽きてしまった。そこまで彼女が話すとアルスが口を開いた。


「そこで嵐に遭ってここに辿り着いた、ということだね?」


「ええ、その通りです」


 ディーナはチラリと執事であるパトスを見る。パトスは彼女を見てゆっくりと頷く。そして、一緒に救出された仲間を見て、やがて意を決したように話を切り出した。


「あの、ご迷惑を掛けることになるかもしれませんし、こんなことを言える立場ではないのは分かっているのですが、恥を忍んでお願いがあります。私たちをどうかアルスさまの下に置いてください。私たちは死ぬ覚悟で国を捨てました。もう戻れるところもありません。無理を承知でお願いできないでしょうか?」


 後ろでディーナの言葉を聞いていたもうひとりの女性が前へと進み出る。


「アルスさま、私は姫と殿下の護衛をしているジュリ・フェンダリルと申します私からもお願いいたします」


 彼女もディーナ姫に続いて頭を下げた。


「同じく護衛をしているベル・モーガンです。私からもお願いいたします」


「メイドのリサ・フローリンです。どうか、お願いいたします」


「お願いします!」


 ディーナ姫の弟のダナ・オーベルタールだろう。まだ十歳かそこらかと思われるであろう彼もまた、他の者たちに続けて頭を下げる。アルスとしては、権力争いの犠牲になった彼らを放っておけなかった。ただ、仲間はどう思うだろう?


 アルスは少し困ったように、ちらっとマリアのほうを見ると、彼女は笑顔で頷いた。いつの間にかフランツとガルダも隣にいる。彼らもアルスと目が合うと頷いた。そこで、アルスの気持ちも固まった。


「わかった。頭を上げて欲しい。僕が責任をもって君たちを保護するよ」


「ありがとうございます、アルスさま。この身、アルスさまにお預けして誠心誠意、お仕えさせて頂きます」


 ディーナはそう言うと、深々とお辞儀をした。他の者も後に続く。こうして新しい仲間が増えることになったアルスだったが、その日の夜は遅かったので改めて次の日に彼らと食事をしながら話をすることになった。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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