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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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ガラスをつくろう1

「さて、それでは現在の進捗と成果、課題を洗い出していこう」


 アルスが穏やかだが力強い声で切り出す。


「まずは現状の確認じゃ」


 ミラが一同を見渡し、話を引き取った。


「世間の平板ガラスは不純物にまみれ、緑がかって透明度も低い。気泡が混じり、強度も心許ない。補強のために厚くすれば、輸送に耐えぬ重さになる。ガラス鏡に至っては、水銀メッキゆえに反射率はせいぜい40~50%程度じゃ。歪みや変色は避けられず、毒性の水銀は職人の命を蝕んでおる。これを改良すれば、ペシミールはおろか大陸全土に商機が生まれる。だが——」


 ミラが言葉を切った瞬間、視線が隣のニナに注がれる。ニナは、心地良さそうな寝息を立て、椅子の上で船を漕いでいた。ミラの目が一瞬鋭く光り、腕をまくり上げると、ニナの耳を力一杯引っ張り上げた。


「会議が始まってわずか1分で寝る奴がおるかぁ!」


「イタタタタ! み、耳が取れます! ミラさま、止めてください~!」


 ニナの悲鳴が会議室に響き、しばし騒然となった。ミラの説教が一通り終わり、ニナは「座ると寝るから」という理由で立ったまま会議に出席させられる羽目に。


「もう、ただ静かに寝てただけなのに・・・・・・」


 ニナが恨みがましく呟く。


「何か言ったか?」


 ミラの冷ややかな一瞥に、ニナは慌てて笑顔を取り繕う。


「い、いえ! 立って会議するの、健康に良さそうですね?」


「ふんっ」


 ミラの短い返答に、アルスは苦笑を浮かべ、議題を進めた。


「では、改めて。進捗状況を鍛冶師代表のアントン、お願いできるかな?」


 アントンが立ち上がり、丁寧に一礼すると、木製のボードに図を掲げ、説明を始めた。


「アルスさまのご助言を基に、この1年、試行錯誤を重ねて参りました。まず、珪砂に混じる鉄や不純物がガラスを緑がらせる問題。これは、木枠と麻布のふるいで砂を濾過し、天然磁鉄鉱で鉄粒子を吸着、水洗いで不純物を除去することで解決しました。石灰については、木炭炉で繰り返し焼成し、均一な加熱で不純物を減らしました。ソーダ灰に関しては——」


「その点は、私から説明しますね」


 ディーナが手を挙げ、穏やかな笑みを浮かべる。鬼人族の彼女は、元々あった植物の知識を、ゴールデンレシュノルティアの栽培で培った経験を加えて、ガラス製造のソーダ灰に活かしていた。


「どうぞ、ディーナさん」


 アントンが頷き、席に着く。


「ソーダ灰の原料には、灰が安定して採れるケルプを選びました。海藻を乾燥させ、800~900℃で焼成して灰にしますが、そのままでは炭素や土が混入します。そこで、灰を水に溶かし、灰汁液を作りました。溶解効率を高めるため、水を40~50℃に温め、不溶性の炭素や土を沈殿させる時間を調整。さらに、粗目の麻布で大粒を濾過し、細かい布で微粒子を除去する多段階濾過を導入しました。これで、ソーダ灰の純度が格段に向上しました」


 ディーナの説明に、アントンが何度も頷き、感嘆の拍手を送る。その熱意は、彼女の努力への敬意を物語っていた。


「気泡の問題はどうじゃ?」


 ミラが尋ねると、アントンが咳払いをして答える準備をするが、ガムリングが先に立ち上がった。


「それは、わしから説明しますわ」


 ガムリングは、日常生活用品に特化した鍛冶師だ。アルスは彼の姿に懐かしさを覚えた。エルン州の領主時代、ガムリングと共にベアリング付き水車を開発した記憶がよみがえる。アントンは少し残念そうな顔をするが、役割分担を尊重し、静かに席に戻った。ニナは目を擦りながら欠伸し、半分眠そうな視線でその様子を見ている。ガムリングは、ボードに簡素な窯の図を貼り、説明を始めた。


「問題は、窯の温度が低く、気泡や不均一な溶融が起きることでした。アルスさまの知恵を借り、水車に革製のふいごを備えた送風機を設けたんですわ。酸素供給が安定し、燃焼効率が上がりました。苦労したのは、ふいごの耐久性と水車の調整でしたが——」


 ガムリングがちらりとアントンを見ると、彼が身振り手振りで熱い苦労話を促している。だが、ガムリングはそっけなく続ける。


「まあ、色々あって、なんとか取り付けました」


 アントンが肩を落とす。ガムリングは構わず続けた。


「それでも温度が足りず困ってましたが、エルザさんが工夫を重ねてくれましたわ」


「はいっ! じゃあ、次は私の番——」


 ズタンッと派手な音が響き、エルザが椅子から立ち上がろうとして転んだ。「えへへ」と照れ笑いを浮かべ、ボードの前に立つ。ニナは半分意識が飛んでいるのか、体がゆらゆら揺れ始め、ミラが顔を覆ってため息交じりに呟いた。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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