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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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終結

 ローグの邪眼は興奮で赤く光っていた。アルスは、膨大なオーラを集束すると衝撃波を三度連続で放つ。それにローグは寸分たがわず三度の衝撃波で相殺した。地面が抉れ、凄まじい轟音が響き渡るなか、アルスの声が響く。


「紫電・一閃」


(速いっ!)


 土煙が濛々と上がるなか、アルスの超高速の一閃がローグを襲う。ローグの邪眼が一瞬、赤く強い光を発した。刹那、ローグは剣先にありったけのオーラを込めてアルスの切っ先に捻じり込む。アルスの剣は、両者が作り出したオーラの渦で空間が歪み、僅かに剣の軌道が逸れた。切っ先はローグの左腕をかすめる。極々僅かな摩擦の余波で、鎧が裂けて血が滴った。


「・・・こいつは驚いた。人の身でありながら、俺に傷をつけるか。いったい、どうやってここまでの力を手に入れたのだ?」


 ローグは小さく舌打ちし、冷たい笑みを浮かべた。


(瞬時に対応してきた・・・・・・!?恐るべき力量だ)


 アルスは刀を横に構えながら、姿勢を低くする。その様子を見てローグは口を開いた。


「戦いの最中に、話はしないタイプか?」


尚も会話を続けようとするローグに、アルスも遂に答えることにした。


「人ではないなら、なぜ、ヘルセに味方する?」


「ヘルセなど俺の知ったことではない。だが、そうだな・・・。敢えて言うなら、復讐と道楽を兼ねている」


「道楽・・・・・・?そうか、もういい」


「おいおい、まだ俺の質問に——」


 アルスの姿勢が再び低くなる。ゆらりとその姿が陽炎のように、輪郭のぼやける。ローグの身体は筋肉から毛先に至るまで身体中の細胞が警告を発していた。アルスの姿は、既にローグと目と鼻の先に存在する。見えているのではない。感じるのだ。アルスの姿は先程の位置でぼんやりと輪郭はぼやけたまま残っている。だが、既に存在はないとローグは確信していた。


(来るっ!!)


 ローグは全身の細胞が本能のまま、命じるままに身体を動かした。ドンッ!!と、恐らくアルスが踏み込んだ足音が今頃になって聞こえてくる。瞬間、ローグの大量の血液が身体中を巡った。全神経を身体中に張り巡らすことで、感覚を研ぎ澄ませる。微かな音、光、温度の変化、微妙な空気の流れに至るまで・・・。そして、ローグの剣は僅かな揺らぎを感知。雷撃のような速さで、踏み込みと同時に剣を振り上げる。



 ズッドォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!



 アルスのオーラとローグのオーラが再び爆発した。


(先ほどの技より、さらに速くなった・・・)


 ローグの二度目の驚きは、両者による凄まじい斬撃の応酬が展開されたことにより、掻き消されていく。考える暇がなかった。感想を抱く余裕さえない。薙ぎ、降ろし、突き、斬り上げ、斬り返し——あらゆる技が秒単位にいくつもいくつも詰め込まれていくのだ。撃ち合うたびに火花が散る。ローグは戦いながら悦びを見出していた。


(かつて、ここまで俺の命に手を掛けた人間はいなかった・・・)


「だが、俺を討つにはまだ早い・・・退却を確実にするためにも、ここで終わりにしよう」


 突然、ローグは剣を収め、背を向けた。アルスは追撃しようとしたが、ローグの周囲に現れたヴォルグ率いる精鋭部隊が退却を援護する形で立ち塞がる。こうなると、アルスでもこれ以上の戦闘は難しかった。


「次に会う時は、必ず討つ・・・」


 アルスは剣を下ろし、敵将の背中を見送った。ローグは振り返らず、冷たく笑う。


「その言葉、忘れんぞ。ファニキアの若き王よ」


 ローグ軍はルンデルに留まることをせず、ラウナ・シュッツを経由し、もと来た道を戻っていった。


 アルスは自陣に戻り、パトスやエルンストたちと合流した。


「アルスさま、ご無事で何よりです」


 パトスが心配そうにアルスに声を掛ける。


「敵の大将は討ち取ることが出来なかったよ・・・・・・」


「それよりアルスさま、また使われたのですね?」


 パトスが『天神雷鳴』のことを言ってることは、アルスにもすぐにわかった。アルスは、苦笑しながら頷く。


「はっきり言って、ベルンハルト兄さんより遥かに強かった。確実に仕留めるつもりだったんだけどね・・・・・・」


「気持ちはわかりますが、無理は禁物です」


「鍛錬も続けてるし、以前よりも強くなったと思ったんだけど・・・」


「ほっほっほ。焦らず鍛錬することです。あの技を使って、そんなに涼しい顔をしておられること自体、驚異的な成長です。オーラの微細なコントロールも、以前より格段に出来ている証拠ですよ」


「それより、エミールのことだけど」


 パトスとエルンストが険しい表情でアルスを見た。


「エミールが、どうかしたんですか?」


 エルンストの問いにアルスが答えるより早く、いつの間にか戻っていたガルダが答えた。


「それについては、私から説明します」


 ガルダが詳しく説明し終わると、三人の表情が暗くなる。ガルダが沈痛な表情で、アルスに謝罪した。


「アルスさま、申し訳ございません。私が不用意に声を掛けなければ、エミール殿は対処出来たに違いありません。私のミスです」


「それは違うぞ。たとえおまえが声を掛けなかったとしても、エミールが避けれた保証はない」


 エルンストは、真っ先にガルダの謝罪を否定した。


「酷なことを言いますが、ガルダ殿は関係ありません。それはエミール殿の判断ミスでしょう。今回の敵は今までと異質なものを感じます。私が戦った敵将——ヴォルグも、普通の人間の反応とは、何か違うものを感じました」


「たしかに・・・・・・。僕が戦った相手——ローグは、邪眼の一族と名乗っていた。眼は蛇のような眼だった。もちろん、パトスも鬼人族だけど。見た目云々というより、根本的に人間とは相容れない相手のような気がしたな」


「装備も兵の質も、まるで釣りあわないくらいに違いました。彼らは、ヘルセ軍とは何か全く違う組織かと思います」


 パトスとアルスの反応をじっと聞いていたガルダは、小さく溜め息をついて呟く。


「彼らは、いったい何のために戦ってるんでしょうな」




 ルンデル北部の森は、柔らかな陽光に照らされ、濃い緑の葉がそよ風に揺れていた。しかし、戦場の空気は、鉄と血の匂いで重く濁っている。ティターノ軍団の壊滅を告げる急報が、ルキウス将軍の陣営に届いた時、彼は報告書を握り潰し、斥候を睨んだ。


「そんな馬鹿な話があるか」と低く唸る声には、ルキウスらしい不屈の意志と、かすかな動揺が滲んでいる。もう一度確認すべく斥候を放つと、入れ違いにゴットハルトと対峙する前線からユーチェスの使いが、森の木々を掻き分けて駆け込んできた。


 

 同じ報せ——ティターノ軍団の全滅。ルキウスは、木漏れ日が揺れる幕屋の中で、信じるほかなかった。ユーチェスの報告によれば、ファニキアの援軍が、まるで森の精霊のように戦場に現れたという。その事実は、ルキウスの胸に、敗北の冷たい刃を突き刺した。


「マーセラスを破ったというのか・・・・・・?」


 ルキウスは半ば放心状態で、そう独り言ちた。


 一方、中央では、尚も攻撃に転じようとするゾッソを、ユーチェスが力強く抑え込んだ。


「待て、ゾッソ! ルキウス将軍の指令を仰ぐんだ!」


「くそがぁぁ!奴と俺の勝負がまだついてねぇんだよぉぉ!」


  マーセラスが敗れたことで、戦況は一変している。森の奥深くで響く戦鼓の音が、虚しくこだまするだけだった。ユーチェスには、これ以上の戦いが、ルンデルの緑を血で染めるだけの無意味な行為にしか思えなかったのだ。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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