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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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軍略の奇才

 次の日、話に聞いていた「黒衣の使者」は姿を現さなかった。


「結局、姿を現しませんでしたね」


 パトスが切り株の上に腰を下ろして、カップを口元に寄せる。周囲にはコーヒーの香りが広がる。


(パトスは本当に、どこに行ってもコーヒーだなぁ・・・・・・)


 アルスは内心で苦笑しながら相槌を打った。


「うまく敵に伝わってくれれば良いですが」


 ジュリは東の森林地帯を睨みながら、パトスに影響されたのか、彼女もコーヒーを啜る。もちろん、超甘党の彼女のことだ、溢れるほど砂糖たっぷりのコーヒーなのだろう。夕闇が迫る中、だだっ広い平原を前にして堂々と焚火をする姿は、敵に対する挑発そのものだった。


「まぁ、敵が来るまでゆっくり待つとしよう」


 アルスが欠伸をしながら答えると、ガルダがしみじみと呟いた。


「それにしても、久しぶりに戦場に出て身に沁みましたな」


 ジュリがチラッとガルダを見て、クスッと笑った。


「コレットのことか?」


「どうしてわかりますかな!?」


「フフフ、私も同じことを考えていたからな。だが、戦場でそんなことを言ってる場合ではないな?」


 ジュリが少しだけ目を細めると、ガルダはハッとして姿勢を正した。


「糖分が足らない」


「糖分が足りませんな」


 ふたりの会話を聞いて呆れかえるアルス。パトスが愉快そうに笑いながら、焚火の火を眺める。


「敵が動くまで、せめてこのくらいの余裕は持っていたいものですよ」


 パトスの言葉に、アルスは笑って頷いた。




 一方、ローグは使者からシュトライトの状況を聞くと、しばらく考えた後にジザ辺境伯を呼ぶように伝えた。ジザがやって来ると、ローグは戦略の変更を伝える。


「シュトライトにファニキアの援軍が現れたそうだ」


「ファニキア・・・・・・。レーヘに反旗を翻して国を興したという話を聞いてますが。そこがルンデルの援軍に来るとは・・・・・・」


 ジザの言葉に、ローグは冷たく視線を向けた。


 ルンデルは以前ローレンツと戦をしていたが、和解し、新王ゴットハルトの下で急速に接近した。その停戦のきっかけを作ったのが、第四王子アルトゥースだ。そう考えれば、ファニキアが参戦してくるのは当然の成り行きだとローグは考えていた。


 物事には常に表と裏がある。ジザの意見は、表面的な情報だけつぎはぎしたものを鵜呑みにしているに過ぎない。


(何故ヘルセがルンデルと戦うことになり、自分が戦場に立っているのか・・・。目の前で散々見ているにもかかわらず、未だに気付かない男だ)


 ローグは内心でジザを軽蔑していたが、バカだとは思わなかった。ジザは自分の頭で考える教育を受けてこなかったのだろう。元々長男が受けていた教育とは異なる道を歩まされてきた男だ。ただ、それだけに過ぎない。


 ローグは無視するように、地図を指差しながら説明を続けた。


「残念だが、今日までに降伏を受け入れる返事は無かった。次は北のケールニールを落とす予定だったが、シュトライトは王都の食糧貯蔵庫にもなってる。ここを拠点に兵を集められても面倒になる、予定を変更して敵を殲滅し、ここから落とす」


「なるほど、わかりました」


 ジザは素直に頷いたが、その内心は複雑だった。ローグの軍略的な才能には尊敬の念を抱いている。だが、その冷酷で人間味のない態度には嫌悪感しかなかった。


(この男・・・まるで人間ではない。だが、だからこそ勝てるのかもしれんが・・・)


 ジザは唇を噛み、ローグの次の言葉を待った。


「敵の全容はわからないが、報告によればシュトライトの西の森林地帯と平野の境に陣を構えている。敵の数はおよそ1万。城塞都市の守備兵は5000、敵は既に連携をしてるか少なくとも接触はしているだろう」


「どう攻めますか?内と外で連携を図られたら面倒ですね」


「それを判断するにも情報が少なすぎる。既に斥候を放って、情報を集めてるところだが、時間が惜しい。今から西に向けて軍を動かす。情報が集まり次第、明日にも報せる。東に広がる森林地帯に入り、そこを進軍することにする」


 ローグは西に向けて軍を進めた。次の日になると、放っていた斥候から情報が次第に集まり始める。ある程度の地理的な情報が集まると、ローグはジザに作戦を伝えた。


「もう少し進むと、この森林地帯を抜ける。平原の先には敵が陣取ってるわけだが、俺としては、敵を平原に釣り出したい」


「すると、私が敗けた振りをして釣り出せば良いのですか?」


「敗走の演技は、指揮官の非常に高度な統率力が要求される。おまえには無理だ」


 ジザは顔をしかめる。ローグの言葉はいつものように刺々しいが、軍略においては彼に敵わないことを自覚していた。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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