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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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少女の想いとアルスの策

 アルスは静かに馬を止め、ガズを見据えた。


「ガズ、ありがとう。でも、クラウスに逆らうことになるけど大丈夫なの?」


 アルスが静かに問うと、ガズは顔を上げ、決意のこもった目で答えた。


「私はシュトライトの民を守るためにここにいます。ですが、クラウスさまはシュトライトのことしか見えておられません。・・・実は、クラウスさまと陛下がお話しされていた内容が、城内の噂として私の耳に入りました。給仕の少女が他の使用人に話した内容が、兵士たちを通じて伝わってきたのです。陛下がルンデル全体を救うとおっしゃったと聞き、私はその志を信じます。どうか、この愚かな城主の代わりに、私が詫びさせていただきます」


 ガズの言葉に、アルスは静かに頷いた。給仕の少女——おそらくカタリーナが、クラウスとの会話をガズに伝えたのだろう。シュトライトの内部では、情報が錯綜しつつも、アルスの到来がすでに話題となり、兵士たちの間でも噂が広がっていたのかもしれない。


「ガズ、クラウスには僕が直接話す。感謝するよ」


 アルスは馬を進め、カタリーナとエミールを連れて城門を後にした。


 ガズは深々とアルスに頭を下げる。それに倣って、他の城兵たちも慌ててアルスに頭を下げた。こうして、アルスはシュトライトの城主からようやく解放されたのだった。




 城門を出たアルス一行は、シュトライト川の東側森林地帯へと向かう。カタリーナはアルスと共に馬に乗っていた。馬が揺れる中、カタリーナは手に持つアルスからもらった保護対象の書類を握り締め、目を閉じる。


 (陛下・・・本当にルンデルを救ってくれるんだよね? 姉さん、ケルクで無事でいてくれるよね・・・)


 カタリーナは唇を噛み、静かに過去を振り返った。クラウスとアルスの会話を聞いてしまった後、いてもたってもいられず、厨房で働く仲間の使用人にその話を漏らしてしまったのだ。


「陛下がルンデル全体を救うって言ってたんだって! シュトライトに籠もるつもりはないって・・・・・・」


 その言葉が、瞬く間に城内に広がった。兵士たちにも伝わり、やがて守備隊長ガズの耳にまで届いた。カタリーナは知らなかったが、彼女の小さな行動が、シュトライトの運命を大きく動かす一歩となっていた。


(私が話したことで、ガズ様が陛下を通してくれた・・・。でも、これでよかったんだよね? もし姉さんが・・・もしケルクがもう・・・)


 カタリーナの胸に不安が広がる。だが、彼女は小さく首を振った。


(陛下なら、きっと・・・。私、信じてみる。姉さんを助けるために、私にできることを・・・)


 カタリーナは不安と希望が入り混じった気持ちを抱えながら、レムルス川の流れを見つめた。彼女の小さな手は、書類を握る力が少しだけ強くなった。


 アルスがふと馬を止めて、南の森をじっと見つめる。


「カタリーナ、あの南の森はどこまで続いてるのかな?」


「ここから東に向かって10バース以上は続いてます」


 カタリーナが指摘するように、シュトライトの南東、少し離れたところに森が広がっており、東までずっと続いている。アルスたちがいる場所から北側は平野が広がり、さらに北は丘陵地帯になっていた。南側に行くほど傾斜が強くなる地形で、川沿いの浅瀬が戦略的なポイントとなり得る。


 一行はさらに、東に向かって進むと、森のなかに入った。しばらく進むと、カタリーナが川を指差す。


「あの辺からなら渡れます」


 カタリーナが指摘する場所は、レムルス川の流れが細くなり、深かった部分が浅瀬になっていた。馬でも容易に渡れる深さだ。


「なるほどね、確かにここからなら渡れる」


 アルスが考え込んでいると、カタリーナが小さな声で話しかけた。


「小さい頃、大勢の友達と集まってここに堰を作ったことがあるんです。それで、水の流れを止めてしまって、大人たちに物凄く叱られた記憶があります」


「そんなことが・・・・・・。結構簡単に出来るんだね?」


「はい、この先の流れは凄く細くなっているんです。だから、子供の力でも簡単に出来ちゃいました」


「なるほど、良いことを聞いたよ」


 アルスは騎兵100人をそこに残して指示を出し、北側にある丘陵を見てから、西側の森のなかで自軍と合流した。合流した後は、カタリーナに出来るだけ詳しい地図を描いてもらう。カタリーナの描いた地図は、特徴を正確に捉えていた。森林地帯や川の位置、丘陵の位置、アルスが一緒に見て回った通りに再現されている。


「カタリーナは、ほんとに凄いね!」


 アルスが感嘆の声を上げると、カタリーナは頬を赤らめて小さく笑った。


 その後は、その地図を見ながらパトスやジュリ、エルンスト、ガルダたちと地理を共有しつつ、敵のこれからの動きと対処について話し合う。


「敵の次の狙いはここになるはず。僕らがここに居ることがわかれば、直接行動に起こす可能性もある。降伏勧告は通じないと考えるのが普通だからね」


 アルスの言葉に、パトスが頷きながら地図を指差した。


「南の森と川が鍵になりそうですね。敵が渡河ポイントを使って奇襲をかけてくる可能性は?」


「その可能性はあるね。カタリーナの話だと、浅瀬はいくつかあるんだ。ポイントがわかってれば逆に利用することも出来るからね」


 アルスは森のなかに伏せてある自軍の半分を、森と平野の境界線に布陣した。敵に対して敢えて姿を見せる。こうすることで、敵の戦略的行動を縛るというのがアルスの狙いだった。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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