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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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最恐の執事

 ミラはマーセラス軍包囲の報を受けて右手を挙げ、号令を出す。


「遠慮はいらぬ、全軍、突撃!」


 その号令を受けてリザ、ヴェルナー、リチャードとガストンはそれぞれに突撃の号令を出す。三方から同時に突撃されたマーセラス軍は、その数をごりごりと削られていく。


「マーセラスさま!このままでは危険です、南へ後退しましょう!」


 副官が再度マーセラスに進言するが、マーセラスはまたもや首を横に振った。


「ダメだ!敵は、ここまで用意周到に策を練ってるんだ。南へ下がったとしても、敵軍とかち合うだけだ!最悪、味方を巻き添えにしてしまう」


「ですが、このままでは——!」


 マーセラスは副官に返事をせず、目を凝らして戦場を見る。三方から攻め込まれ、ズタズタに陣形が崩されていた。敵ながら見事としか言いようがない。戦場をぐるっと一望してみると、ひと際派手な旗があることに気付いた。マーセラスは自分の直感に頼った。


「恐らく、あそこにファニキアの指揮官がいる」


 マーセラスは指を差した先には、煌びやかな旗がはためいている。


「そうなのですか?」


「俺の勘だ」


「・・・・・・」


「違ったらあの世で笑い者にしてくれ。事態がここまで悪化したのは俺の責任だ。こうなったら敵の指揮官を討ち取る他ない、全軍で突っ込むぞ」


「・・・わかりました」


 マーセラスは大声で叫ぶ。


「聞け、ヘルセの勇士たち! 我々は窮地に立つ! だが、ヘルセの誇りは決して砕けぬ! 敵の将を討ち、名誉をこの手に掴むぞ! 死すとも、ヘルセの魂は永遠だ!俺に続けぇぇ!」


 角笛が鳴り響き、マーセラスは先頭に立って突撃を開始した。マーセラスが指を差したのは、リザ軍1万である。奇しくも、そのなかにミラ軍団の長であるミラ・バティストがいた。


 マーセラス軍は、マーセラスを先頭に猛攻撃を始める。マーセラスは、体内で練り上げた魔素を矛に込めて、ファニキア兵に撃ち込んだ。その衝撃波はリザ軍の前衛をまとめて吹き飛ばしていく。


「敵軍の側面を突け!勢いを削ぐぞ」


 リザの号令によりマーセラス軍の側面に、兵士たちが突撃する。馬と馬とがぶつかり合い、剣と剣、槍と槍がぶつかり合う音がより一層激しさを増す。マーセラスを中心とした一群は細くなっていくたびに速度も落ちていったが、真っすぐ真っすぐとミラがいる本陣へと突き進んで行った。


 それは偏にマーセラスの驚異的な個の武力と、近衛兵の武によるものである。ティターノ軍団の兵は強いが、その核となるマーセラスの近衛隊500はひとりひとりが部隊長並みの力を持っている。それが一丸となった時の突破力は凄まじかった。


 ミラはその様子を見てシャルに呟く。


「どうやら儂に用があるようじゃの・・・・・・」


「こちらへ真っ直ぐに向かってきますね。どういたしますか?」


「あのままでも力尽きるだろうが、せっかくじゃ。引導を渡してやれ」


「捕らえますか?それとも刎ねますか?」


「エルザがうるさいからの。捕らえるとしよう」


「わかりました、それでは少々お待ちください」


 シャルは、まるで執事として紅茶でも持ってくるような雰囲気で丁寧にお辞儀をすると、ミラの下を離れた。ヘルセ軍の先頭——マーセラス将軍に向かって、シャルは馬で駆けて行く。


 ぶわっと黒い異質のオーラがシャルの身体から放たれる。異常なまでのプレッシャーを、マーセラスはその黒いオーラを発する男から感じた。見た目はどう見てもその辺の執事の格好だが、尋常ではない膨大なオーラだ。


 それをいち早く感じ取った近衛隊の数人ほどが、シャルを迎え撃つ。囲い込むように矛を突き出しながら突っ込んだ4人が、血を吹きながら落馬。後に続いた数人も次々と落馬していった。


 その瞬間、シャルは一度も剣を振っていない。他の近衛兵にも捉え切れていないようだったが、マーセラスだけはシャルが投げたナイフが見えた。近衛兵に刺さっているナイフにも、依然として黒いオーラが漂っている。


「小癪な!」


 マーセラスの身体にオーラが立ち昇る。矛にオーラを集束させ、衝撃波を放った。シャルも剣を抜き斬撃波に剣を合わせる。衝突の瞬間、マーセラスは奇妙な感覚を味わった。衝撃波はオーラを集中させ、硬質化させることで飛ぶ衝撃となる。


 シャルが剣に纏わせた瞬間、硬質化したオーラ同士が衝突するかに見えたが、彼は粘質系のオーラで威力を殺し軟質系のオーラを混ぜて器用に受け流した。そして、そのまま剣に集束したオーラを放つ。マーセラスは直感的に身体を仰け反らせて反射的に避けた。避け損なった背後の近衛兵の上半身が吹き飛んで塵となる。


「なん、だと!?」


「さすが、ヘルセの名高い将軍です。と、言いたいところですが、危うく私がミラさまに叱られるところでした」


「奇妙な技を」


「ミラさまの下に来て頂きます」


 マーセラスとシャルはそのまま併走しながら十数合打ち合う。その間にも近衛隊がシャルに襲いかかるが、シャルは投げナイフに魔素を込め、片手で数本同時に放って対処する。そのシャルの表情が、ミラ軍団随一の女将軍の登場に、一瞬、曇った。


「シャル!そんな老いぼれに手こずってるのか!手を貸そうか?」


「やれやれ、少し時間を掛け過ぎましたね。リザ将軍、私ひとりで結構ですので。どうぞお構いなく」


「フフフ、ならせめて周りのゴミ掃除ぐらいはしてやる!」


 シャルは小さく息を吐いた。


 だが、リザ直々にマーセラスの近衛隊の横っ腹に突っ込んだことで、シャルへの妨害は無くなる。リザの介入は、マーセラスとの一騎打ちにシャルの意識を集中させることが出来た。


 それにより、圧倒的なポテンシャルをいかんなく発揮出来たシャルは、あっという間にマーセラスを捕らえてしまったのだ。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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