斉射、挟撃、突破、崩壊!
「第二射、撃てぇぇぇ!」
急に指揮官を失った陣の兵士たちは、何事が起こったのか理解すら出来ずに再び豪雨のような矢の嵐に対応が遅れバタバタと倒れていく。そこへ、第三射、第四射と続けざまに振り続けた矢により、カロ軍とピエトロ軍の連絡線は完全に途絶えた。
それを見たサシャが、どデカい鏑矢を打ち上げる。つんざくような音が鳴り響くとフランツやエヴァールトも続けざまに鏑矢を打ち上げた。戦場に鏑矢の音が響き渡った次の瞬間である。
カロ軍やピエトロ軍の背後から馬蹄と剣戟に続いて、悲鳴が沸き起こった。東の川を渡っていたジャン軍が、再度浅瀬から渡河しつつ騎馬隊6000で急襲したのだ。
マーセラスは念のため斥候兵を川べりにも配置していたが、サシャの精鋭弓部隊によって全て倒されていた。カロ軍とピエトロ軍は前からの防衛は固めていたが、背後は完全にがら空きである。そこに無傷の騎兵が突っ込んだのだ。
「さあ、一気にここで壊滅させるぞ!」
ジャン将軍はオーラによる斬撃波で、ヘルセ兵をまとめて真っ二つにする。そこに騎馬兵が突っ込んで行く。その混乱を見てフランツ、エヴァールト、ドルフが動いた。
「おめぇら、今までの鬱憤をここで晴らすぞ!突撃だぁぁぁ!!」
フランツが先頭に立って混乱している前衛兵士たちを、衝撃波でまとめて吹き飛ばす。特筆すべきはフランツの人間離れした武技だろう。一旦、近接戦闘に持ち込んだ彼の突破力は凄まじかった。前衛部隊に穴を開けると、そのまま斬り込みヘルセ兵の死体のを山を築いていく。
混乱の内に斬って斬って斬りまくり、そのままピエトロがいる陣の中央まで到達してしまった。降って湧いたような混乱をなんとか立て直そうと指揮していたピエトロだったが、フランツの姿を見ると猛然と斬りかかった。
「また会ったな!」
「貴様をここで倒せばっ——」
「俺を倒したところで、もう状況は覆らないところまで来てんだよ」
「ぬかせっ!」
爆発的にピエトロの身体からオーラが迸ると、矛に込めた衝撃波を全力でフランツに叩きつけるために、振り下ろす。
「遅いっ!」
フランツは、ピエトロが矛を振り下ろし切る前にオーラを叩きつけ相殺すると、左手の拳を叩きつける。折れていた肋骨にもろに食らったピエトロは、吹き飛ばされた拍子に意識を失った。ピエトロが怪我をしていたとはいえ、フランツは、たった一合で決着をつけてしまう。
隣の陣ではピエトロ軍と連絡が取れなくなったカロ軍は何が起こってるのか情報も伝わらないまま、エヴァールトとカロの一騎打ちになっていた。双方ダメージを負う壮絶な一騎打ちの末に、エヴァールトがカロの首を刎ねるとエヴァールト軍から大歓声が沸き起こる。連携が取れないまま、前後からの挟撃で一気に崩されたティターノ軍団は、あれだけの鉄壁を誇ったにも関わらず、統制も取れないままに壊滅した。
一方、マーセラスは北の補給庫の防衛をするため、軍を補給庫手前に軍を駐留させ、情報収集に当たっていた。連絡が途絶えて情報が取れなくなった斥候兵が多数いるため、慎重を期す。下手に予備補給庫に近づけば、位置を気取られる可能性があったからだ。
しかし、その配慮はムダに終わった。各方面に出した斥候兵はミラ軍団の手により、ことごとく討ち取られていた。マーセラスの脳裏にカロの言葉が蘇って来る。
「敵が補給庫を執拗に狙う理由・・・・・・か」
もちろん、敵が補給庫を狙うこと自体に違和感はない。糧食を狙うのは戦術的に正しい選択であり、成功すれば士気と継戦能力を著しく低下させることが出来るからだ。だが、問題は攻撃の仕方だ。当初は奇襲で狙うやり方だった。それがガラッと変わった。カロは「意地になって」という表現をしていたが・・・・・・。
マーセラスは天幕のなかでひとりで考え込んでいたが、その思考作業は副官の緊迫した声で中断させられた。
「マーセラス将軍!」
「なんだ、慌てて?」
「煙が上がってます。恐らく予備補給庫かと!」
マーセラスは慌てて立ち上がり、天幕の外で飛び出す。見ると、森の奥からモクモクと白い煙が立ち上っていた。やられた!いったい誰が?どうやって位置を特定した?
「将軍、すぐに救援を!」
急かす副官の要求をマーセラスは、歯ぎしりしながら突っぱねた。
「もう・・・間に合わん。救援は無しだ」
「将軍・・・・・・!?」
「その代わり、ここはなんとしてでも死守する」
マーセラスはしばらく煙を見ながら、止まりそうになった思考を前に進める。そして、結論が出た時、全てを悟った。マーセラス率いる7000の兵は、東にリザ軍1万、正面にヴェルナー軍1万、西にリチャードとガストン連合軍1万に包囲されていた。その光景を見てマーセラスは呟いた。
「この俺が、まんまと釣り出されたというのか・・・・・・」
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