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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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偽装退却

 霧深いルンデル北部の森林地帯は、静寂に包まれていた。木々の間を縫うように進むミラ軍団の2万5000の主力——リザの騎兵と歩兵、ヴェルナーとアイネの歩兵、ガストンの重装歩兵——は、ミラ公爵と護衛シャルに率いられ、ヘルセの補給庫よりさらに北の奥深くに潜伏していた。


 エルザの提案により、4万の援軍は到着を秘匿。斥候を極力排除し、足跡さえ消して、まるで幽霊のように森に溶け込んだ。


 フランツとフリッツが、作戦を共有したその日の午後。ジャン率いる騎兵1万とサシャの弓兵5000が、ファニキアの援軍として、北西の森から現れた。ミラは、わざわざ彼らを一旦北に移動させ、注目を集めるために、改めて派手派手しく援軍として寄越したのだ。



 ジャンはフランツと目が合うと、ニヤッと笑いウインクした。フランツは、ゲンナリしながら愛想笑いで返す。


「よお、フランツ!さっき振りだな!」


「大声で言うんじゃねぇよ・・・」


「ところで、ローレンツのフリッツ将軍てのはどこにいるんだ?」


「おまえの目の前にいるよ」


「ん?」


 ジャンが視線を移すと、フリッツが無言で微かに頷く。鎧に刻まれたローレンツの紋章が、鈍く光る。


「おおっ!?こりゃ失礼!」


「おまえら以前に会ってるはずだがな。まあ、いいや。フリッツ将軍、今回の作戦は——」


「フランツさん、私から説明します」


 涼やかな声が割り込む。エルザだ。髪を簡素に束ね、軽装の軍服に身を包んだ少女は、戦場に似合わないほどのあどけない顔をしている。


「え!?なんで、おまえまでいるの?」


「なんでって——私がいないと作戦のタイミングとかわからないじゃないですか!」


 フランツの言葉を遮ったのはエルザである。


「おまえ、ミラのとこに居なくて大丈夫なのかよ?」


「ミラさまには、詳細を伝えましたよ?そもそも、こちらでの作戦が多くなりますし、ミラさまなら軍略に通じてるので大丈夫です。むしろフランツさんのほうが心配ですよ」


「んだよ、信用ねぇなぁ」


 ぶつぶつ文句を言うフランツを横目に、エルザはフリッツに詳細を改めて説明した。説明し終わると、エルザはジャックやエヴァールトにも挨拶をしながらそれぞれの作戦を伝える。


 その日は準備を進めながら、エルザは戦場を見に行ったり戦況の再確認に努めたりした。そして、次の日の夜が明けるとファニキア、ローレンツ、ルンデルの同盟軍は動き始める。




 夜が明け、森林地帯の入り口にローレンツの旗がはためいた。だが、その下に立つのはフリッツ軍ではない。ジャンの副官リチャードが率いるファニキアの精鋭4000だ。


 ローレンツの古びた鎧をまとい、旗にはフリッツの紋章。士気が低く見えるよう、隊列はわざと乱れ、兵士は不満を漏らす演技をする。フリッツと本物のローレンツ兵4000は丘陵の後方で補給任務に退き、この偽装を支えた。


「いいか、おまえら。わかってると思うが、フリッツの名は囮だ。奴らにとっちゃフリッツという名は弱将弱兵の代名詞みたいなもんだ」


 そのリチャードの説明が聴こえてくるとフリッツは複雑な表情をした。


「うまくやれよ。俺たちがヘルセの目を欺き、奴らの生命線を暴き出すんだ」


 その後、偽装フリッツ軍は補給庫の外郭へと突進する。弓矢と投石で監視塔を攻撃し、火矢を放つが、動きはバラバラで拙劣を装った。ヘルセの守備隊2000が反撃に出ると、リチャードは即座に叫ぶ。


「退却!退却だー!」


 兵士たちは旗を投げ捨て、鎧を散乱させ、叫びながら森林の奥へ逃げる。


「フリッツの愚策だー! 我々は終わりだー!」


 リチャードの声が木々に響く。


(念押しでもうちっと文句いっておくか?)


「フリッツのばかやろー!くそやろー!」


 リチャードの演技の質はともかくとして、ヘルセの守備隊もそれ以上は追って来なかった。ヘルセ側の斥候兵も、口々にフリッツの文句を言いながら逃げて行くリチャードとその部下たちを見て、思わず吹き出したほどである。彼らもそれ以上の追跡をすることはなかった。


 後に斥候兵からの報告を受けたマーセラスも、思わず冷笑した。フリッツ軍の士気の低下は明らかだったが、4000の軍が勝手に自滅してくれたのは幸先が良い。新たにファニキアから1万5000の援軍が来たことで身構えていたマーセラスであったが、どこかホッとしていた。


 マーセラスの意識は正面の敵に向く。カロ軍1万5000とピエトロ軍1万1000を丘陵手前に展開させ、自身は少し後ろに布陣した。



 だが、森林の奥では、偽装フリッツ軍が息を潜めていた。小部隊に分かれ、斥候の移動ルートを監視。リチャードの精鋭は、ヘルセの斥候を次々と奇襲する。弓で射抜き、短剣で仕留め、伝令の馬を奪った。


 捕らえた斥候から、リチャードは執拗な尋問で予備補給庫の位置を聞き出す。彼らから得られた情報から、「森林の北東奥、岩場に隠された場所に倉庫アリ」を聞き出すことに成功した。念には念を入れ、複数の斥候の証言を照合し、偽情報のリスクを排除すると、リチャードはエルザに急使を送り「予備補給庫の位置を掴んだ」と報告した。


リチャード:ミラ配下であり、ジャン将軍の副官。第三部では、ジヴェルーニの砦に攻め入って来た貴族相手に、エディエンヌ川で補給物資を焼いている。


リザ将軍:ミラ配下の女将軍。旧マルムート領でサシャ、アシュと共に潜入工作に就いていた。

ヴェルナー:双剣の使い手であり、初期からアルスに尽き従ってる。風のオーラを扱う。

アイネ:元コーネリアス大将軍の部隊長。ヴェルナーの説得で寝返る。

シャル:シャルミールの魔女こと、ミラ・バティストの執事 兼 護衛。ミラ軍団最強の武の持主。リザの証言により、フォークでもナイフでも全てを武器として扱える。


ガストン・ド・ゴール:ミラ軍団の盾。鉄壁の盾インペリアル・ブークリエの異名を誇る。

いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


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今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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