ミラ軍団
ゴットハルトが戦っている北部では、ジャック、エヴァールト、フランツの三人がティターノ軍団を相手に何とか突破口を開こうと奮戦していた。だが、ティターノ軍団率いるマーセラスの冷静な指揮により、援軍として来たフリッツ軍は初撃で半壊してしまう。
守りに徹するティターノ軍団を崩せずに時間だけが過ぎていった。転機が訪れたのは、フリッツ軍が半壊して数日経った日の夜である。フランツの陣営にひっそりと早馬が飛び込んで来た。兵の案内を受けて姿を現した伝令兵にフランツは目を丸くした。天幕に入って来たのは、少女と青年だった。
「はっ!?」
「は?じゃないですよ!ここまで来るのに苦労したんですから!」
少女はフランツの反応に反射的に異議を唱える。
「エルザの嬢ちゃんは苦労してねぇだろ。馬で嬢ちゃんを運んで来たのは俺だぜ?」
エルザは隣にいる青年——ジャンにすかさず手痛い反撃を食らっていた。
「そ、そんなこと・・・私だって——」
「だいたい、嬢ちゃんが直接来たいなんて言う割に、馬に乗るとすぐ落馬するからよ。俺の方が苦労してんだよ」
「う・・・・・・す、すみません」
そのやり取りを呆れた様子で見ているフランツが口を挟んだ。
「おい、おまえらが来ているってことは——」
フランツが先を言う前にジャンが告げる。
「ああ、アルスさまが遂に動いたぜ!ファニキアは本格的にヘルセの侵攻を止める」
「ははっ、あいつとうとう帝国を抑え込んだのか」
「フランツさん。私たちはミラさまと一緒に、北部から敵の目を搔い潜って森の奥で潜んでいます」
「なるほど。それでどれくらいの兵数で来たんだ?」
「4万だ」
ジャンが机の上に置いてある地図の森林地帯を指で差す。北部の森林地帯は霧が発生しやすい。その地形の特性を利用してジャックが補給庫を狙ったが失敗したばかりだった。ミラたちは、さらに北の森のなかで進軍を止めて息を殺しているらしい。
「なるほど、それなら一気に——」
フランツの言葉にエルザは首を振った。
「ミラさまも、一気に数で潰すつもりだったのですが私が止めたんです。私もこの戦に参戦するに当たって情報を集めていました。特にソフィアちゃんは、よく調べていて——ここには、ティターノ軍団を指揮するマーセラス将軍がいますよね?」
「ああ、かなり厄介な相手だ」
「ソフィアちゃんからも聞いたんですが、マーセラス将軍はヘルセ王家の血を引いていることはご存知でしたか?」
フランツはそれを聞いて一瞬動きを止めた。そんなことは全く知らなかった情報だ。
「いや、そうなのか?」
「はい。遠い血縁関係に当たるようです。ですので、彼を捕らえることが出来ればこの戦を止める交渉材料になると思います」
「なるほど・・・・・・。つっても、相当難易度が高いと思うけどなぁ」
「はい。だから、それも含めて、私が直接フランツさんに戦況を聞きに来たってわけです」
「まぁ、そういうことなら——」
フランツはエルザに詳しく現在に至るまでの経緯と状況を話して聞かせた。エルザは頷き、地図を見ながらフランツの話を頭に入れていく。経緯の詳細と周辺の地形、敵軍の数や配置、そして補給庫の奇襲の失敗から、フリッツ軍の敗退に至るまで事細かく質問を重ねながらメモを取る。
深夜になるまで時間は過ぎていった。そうして、ようやく聞き終わると同時にエルザはその場で作戦を練り始める。そして、夜が明ける前に彼らはミラの下に戻って行った。
そして、当日の朝。フランツは少し睡眠を取った後にジャック、エヴァールト、フリッツを集めると昨晩の出来事を話した。彼らは驚きと喜びを持ってフランツの報告を受ける。フランツは、話した内容は絶対に秘匿するよう彼らに念押し、フリッツ将軍だけは残ってもらった。
「フランツ殿、私だけ残したのは何故ですか?」
「それを今から話す」
フリッツは腕組みしながら頷いた。
「フリッツ将軍は、この間の戦でマーセラスにずたぼろにやられたよな」
それを言われた途端、フリッツは険しい表情をする。
「う、ま、まぁ、確かに。面目ない負け方をしたと思ってる」
「いいんだ。ローレンツはルンデルと、この間まで戦争やってたんだ。兵の士気が上がらないのは当然っちゃ当然だ」
「兵の大部分はルンデルが侵略されれば、次はローレンツだとわかってるはずだ。だが、頭で分かっていても心がついて行かんのだ」
「そこでだ、そいつを利用するんだ」
「どういうことかな?」
フランツはエルザと共有した作戦をフリッツに説明した。
「——と、いうわけだ。頼むよ」
フリッツは終始難しい顔をして考え込んでいたが、最後には大きく息を吐いて項垂れる。
「仕方ない・・・・・・。情けない話だが、勝てるならやるとしよう」
「ははっ、引き受けてくれて助かる」
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