地獄:ラウナ・シュッツ陥落1
正午、ヘルセ軍の攻撃が始まった。主力部隊の2万が、太鼓の響きと共に正面門へ殺到する。槍兵の列が地響きを立て、弓兵が矢を放ち、城壁の上に火花が散る。左翼と右翼の部隊も、投石機を繰り出しながら側面を牽制。ラウナ・シュッツの守備隊は、突然の猛攻に驚きつつ、城壁の上から応戦する。弩弓の矢が放たれ、熱したタールがヘルセ兵に注がれた。
だが、ジザの攻撃は本気ではない。主力部隊は門に迫るものの、破城槌を本格的に動かさず、弓兵の射撃も散発的だ。左翼と右翼も、城壁に近づくことなく遠距離から牽制を繰り返すのみ。ラウナ・シュッツの守備隊長ガルドリックは、城壁の指揮塔からこの光景を見下ろす。40代のベテランだが、ヘルセの優勢と自軍の孤立に苛立ちを隠せなかった。
「ふん、ジザ・シルバティだと? 軍人でもない貴族の道楽か。烏合の衆が!」
ガルドリックは副官に命じる。
「弩弓と投石機を集中させろ! 敵を門から遠ざけろ!」
ジザの軍は、約1時間にわたり攻撃を続けるが、突如、主力部隊に混乱が生じる。補給用の荷車が「誤って」転倒し、兵士たちが慌てて後退を始める。ジザ自身が馬上で叫ぶ声がわざとらしく響いた。
「補給が足りんぞ! 何やってるんだ! いったん退くぞ!」
主力部隊2万が、まるで統制を失ったかのように後退し始める。左翼と右翼は攻撃を続け、敵の注意を分散させるが、こちらも勢いを弱める。ガルドリックは城壁からこの光景を見て、嘲笑を浮かべた。
「やはりな! 辺境伯の素人軍だ。準備不足で崩れたか。よし、追撃部隊を用意しろ! 門を開き、敵を叩き潰す!」
守備隊の士気が上がり、城門近くで5000の追撃部隊が準備を始める。ローグの予測通り、ジザの「弱さ」を装った偽装退却が、敵の油断を誘ったのだ。ガルドリックは、ヘルセ軍が本格的な再編に時間がかかると判断し、城壁の警戒を一部緩める。
夕暮れが過ぎ、夜の帳がラウナ・シュッツを包む。ジザの主力部隊2万は、ローグの指示通り、正面門から数バース離れた森林と丘陵に潜伏する。兵士たちは息を殺し、焚き火も禁じられた。左翼と右翼の部隊は、夜間も小規模な攻撃を繰り返し、城壁の両翼に敵の目を引きつける。
「交代の時間だ」
「すまんな。後は頼む」
「状況はどうだ?」
「相変わらずだな。奴ら懲りもせず意味もない攻撃を執拗に続けてきやがる」
松明の光がちらつき、城壁の上では守備兵が呆れた調子で会話をしながら、監視を続けていた。
ジザは森林の奥で馬を降り、巻物を手に副官たちに最終確認を行う。ローグの指示は明確だ。深夜、火矢と投石機で混乱を起こし、破城槌で門を突破。補給庫と武器庫を制圧する。 ジザの心臓は高鳴るが、ローグの言葉が脳裏に響く。その通り攻めれば、落ちる。
深夜、月が雲に隠れる瞬間、ジザが手を上げた。
「始めろ!」
主力部隊の弓兵が火矢を一斉に放ち、城門付近の木製の防柵に火が走る。投石機が巨岩を投じ、城壁の縁に命中して破片が飛び散る。突然の火災と轟音に、城内の守備隊はパニックに陥った。ガルドリックは指揮塔に駆け上がって叫んだ。
「何だ!? 夜襲だと!? 門の守りを固めろ! 弩弓を回せ!」
だが、偽装退却で油断していた守備隊の対応は遅れる。昼間の追撃で兵士は疲弊し、城壁の配置も手薄だった。ジザの主力部隊は、火災の混乱に乗じて破城槌を門に押し進める。
巨大な破城槌が、鉄の門扉を叩き、鈍い衝撃音が夜を切り裂く。梯子を持った兵士たちが城壁に殺到し、守備兵と白兵戦を繰り広げる。
ジザは馬上で剣を握り、声を張り上げる。
「門を突破しろ! ここで一気に勝負をつけるぞ!」
ついに、破城槌が門を打ち砕き、木片と鉄片が飛び散る。主力部隊が雪崩れ込むように城内に突入していく。左翼と右翼の部隊も側面から圧力をかけ、守備隊の指揮系統を分断する。ジザはローグの指示通り、補給庫と武器庫を目指す部隊を直ちに派遣した。
城内は火災と叫び声で混乱の極みだ。ガルドリックは指揮塔で必死に指示を飛ばすが、部隊の統制は崩れ、補給庫が炎に包まれた。ジザの軍は、4万の兵力と夜襲の奇襲効果を活かし、守備隊を圧倒。武器庫を制圧したことで、守備隊の抵抗力はさらに弱まる。
夜明け前、戦いは決した。ラウナ・シュッツの城門はヘルセ軍に占領され、ガルドリックは処刑された。ジザの軍は、補給庫と武器庫を確保し、籠城戦の可能性を潰した。
城内の抵抗は散発的に続くが、4万の兵力差と指揮系統の崩壊により、ルンデル軍は壊滅。ジザは城壁の上に立ち、燃える城内を見下ろす。勝利の喜びよりも、ローグの策の正確さに戦慄を覚えた。
本当に落ちた・・・・・・。ローグの言う通りになった。
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