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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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裏と表と駒と

「陛下、ジザ卿の軍は4万。商会が物資を潤沢に提供し、準備は万全です。ラウナ・シュッツを落とせば、ルンデルの戦略的拠点が脅かされ、敵はさらに後退を余儀なくされます。これにより、陛下の軍団は勝利を早められる。失敗のリスクはありますが、成功の果実はあまりに大きい」


 王は黙考する。ヒースルールの言葉は理にかなっているが、公式な許可を出せば、他の貴族や民衆の反発を招きかねない。ヒースルールは王の逡巡を見逃さず、畳みかける。


「陛下、商会は糧食支援を増量し、戦線の安定を保証いたします。ジザ卿の行動は、商会が管理する範囲内にございます。陛下が公式に許可を出す必要はなく、黙認していただければ、責任はジザ卿と商会が負います。陛下には、勝利の栄光のみが残る——いかがでしょうか?」


 王の目はヒースルールを鋭く捉える。商会の経済的影響力と、糧食への依存度の高さを、王は嫌というほど知っている。長い沈黙の後、王は低い声で呟いた。


「・・・ジザが勝手に動いているだけだ。余は関知せん。だが、商会が約束した糧食は、一粒たりとも欠けることのないよう、肝に銘じろ」


 ヒースルールは深々と頭を下げ、内心で勝利の笑みを浮かべた。


「かしこまりました、陛下。商会は約束を果たします。戦勝の暁には、陛下の栄光が大陸に響き渡ることでしょう」


 ヒースルールは静かに謁見の間を後にした。背後で、王は玉座に沈み込み、戦争と商会の思惑に挟まれた自らの立場を、静かに呪った。




 そして現在、レ・チェーゼ城の城主——ジザ・シルバティ辺境伯は4万の兵を率いて南下し、インファンテ州で襲撃に遭ったダルジェントの街の南西からルンデル国内に進軍していた。ユーベルタール北方商会の眼鏡をかけた痩身の男——ヒースルールと共にいた黒衣の男が、ジザの隣に馬を並べている。


「ローグ殿」


 ジザは黒衣の男に向かって呼びかける。呼ばれたほうは無反応だが、ジザは構わず話を続けた。


「私は軍人じゃない。陛下から勅令が降りたわけでもないのに、こうして勝手に兵を招集して進軍している。正直気が気じゃないのだが・・・・・・」


「構わない。話は既に通してある。だから、このまま進め」


 ローグの答えに少し安堵したジザは、別の疑問をぶつけた。


「そ、そうなのか。もうひとつ尋ねたいのだが、ラウナ・シュッツを攻めるのは良いとしてあなたの戦術通りにやれば必ず落とせるのか?」


「後で詳しく説明はするが——その通り攻めれば落ちる」


「そうか・・・・・・。成功してくれることを祈るばかりだ」




 モンシャウ城の北東、霧深い森林と川が交錯する戦場で、ルンデル同盟軍はヘルセのティターノ軍団と対峙していた。ルンデル側はフランツ軍1万、エヴァールト軍1万、ジャック軍7000、計2万7000。対するティターノ軍団は、マーセラスが率いる4万1000——カロ軍1万5000、ピエトロ軍1万を含む——で、両軍とも消耗していたが、ヘルセの数的優位は明らかだった。


 マーセラスは積極的な攻勢に出ず、鉄壁の防御陣を敷いていた。重装歩兵を中央に配し、弓兵部隊をいくつも配置する。その脇をカロ軍の盾兵が固め、ピエトロの騎兵が後方で機動力を温存。川沿いの丘陵を活用し、ルンデルの奇襲を封じる布陣だ。


 アルスが見れば、マーセラスが敷いた防御陣を「モード・アングレ」という鉄壁の防御陣に近しいものだと認識したかもしれない。弓部隊を凸型にいくつも配置し、その周りを重装歩兵で固める。そうすることで、近づく部隊をあらゆる角度から十字斉射出来るのだ。


 フランツやエヴァールトのようなオーラ持ちが、いくら前面にオーラを展開しても、あらゆる角度から飛んで来る矢に対応しきることは難しい。彼の目的は北での足止めとルンデルの南北分断——南のケルクでヘルセの本命を支える戦略を、マーセラスは冷徹に理解していた。


 ルンデル側はフランツとエヴァールトが果敢に挑発を試みた。ジャック軍の斥候が霧を利用して敵の補給線を攪乱し、わざと陣形に隙を見せてカロ軍を誘うが、マーセラスは動かず、ピエトロの騎兵も牽制に徹する。戦場は膠着状態に陥り、ルンデル兵の苛立ちが募った。数的劣勢とマーセラスの隙のない戦術が、希望を削いでいた。


「くそっ、まるで鉄の壁だな」


 フランツが吐き捨てる。


「いくら突いても、カロもピエトロも乗ってこねえ・・・・・・」


「焦るな、フランツ」


 エヴァールトが落ち着いた声で応じる。


「マーセラスは時間稼ぎが目的だ。俺たちが消耗すれば、南でのヘルセの活動が楽になる」


「要は時間稼ぎだろ。だったら、こっちが動くしかねえだろ!」


 フランツが剣を握りしめる。


 ジャックが左翼の斥候から戻り、息を切らしながら報告した。


「敵の補給庫は川の奥、霧で隠してるな。だが、マーセラスの斥候がウチの動きを全部読んでやがる。迂回もバレちまった」


「さすがティターノの頭脳だな」


 エヴァールトが苦虫を噛み潰しような表情をする。


「ジャック、お前でも突破は厳しいか?」


「厳しいなんてもんじゃないな」


 ジャックが自嘲気味にニヤリと笑う。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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