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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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グリフォーネ軍団の進撃

 ルキウスは次の手を打つ。ユーチェス・グラツィアーノ、エツィオ・カスタス、ゾッソ・ヴァルグの三将に、モンシャウ進軍を命じた。グリフォーネ軍の精鋭5万が、モンシャウの東から迫る。ロベルトが先行し、ユーチェスとエツィオは馬を並べて進軍。古参のユーチェスは髭を捻り、ルンデルの東に広がる平原を思案顔で眺めていた。その様子に気づいたエツィオに、彼は声をかける。


「おまえ、今度の戦、どう思う?」


 エツィオは軽く笑って答える。


「ルンデル最強の勇将も、そろそろ過去の栄光になるんじゃないですか?」


 エツィオの返答にユーチェスは頭を振った。


「そうじゃない。ゴットハルトは武勇も知略も兼ね備えた男だ。国を建て直したばかりで、こんな無謀な戦を自ら仕掛けるか?」


 そう言われてエツィオはユーチェスの言わんとする意味に気付き、言葉に詰まった。


「まぁ、言われてみれば確かに・・・・・・でも、証拠は出てるじゃないですか」


「オッターヴォーやダルジェントの襲撃をした連中のアジトから出てきたっていう例のサーコートか・・・・・・。だが、それだけだ。襲撃をした連中は誰ひとりとして捕まってない」


「それは・・・・・・」


 エツィオは困惑した。戦の最中にまさかこんな問いかけをされるとは思ってもいなかったからだ。


「あの襲撃は、本当にルンデルが仕掛けたものだったのか?」


 エツィオは、その質問には答えることが出来なかった。いずれの返答をしたところで、戦は始まっているのである。ユーチェスはエツィオの心中を察したようで、突然笑った。


「ははっ、悪かったな、変な質問をして。俺らは軍人だ。行けと言われれば、どんなところでも行って戦う。だが、今回はあまりスッキリしないところがあったんでな。こんな話、ゾッソにしても聞く耳は持たんだろうしな」


 ゾッソ——ゾッソ・ヴァルグは、グリフォーネ最強の武人だ。武技ではルキウスすら超えるが、戦場を俯瞰し、戦術を練る能力は乏しい。彼にとって戦は単純な喜びであり、複雑な裏を考えるタイプではない。ユーチェスがエツィオを選んだのは、相談相手として積極的に選んだというより、消去法の結果だろう。


「いや、すみませんユーチェス将軍。俺もそういったことは考えたこともなかったので。勉強になりました」


 エツィオは、若くしてこの地位に就いたことを誇りに思っていた。正直言えば、今のところエツィオにとって重要なことは、戦場で手柄を立てることである。この戦の裏にある事情を追求するのは王家や政治の仕事だと割り切っていた。そうした面で言えば、ゾッソに割と近いのかもしれない。


 エツィオが思案に耽っている間にユーチェスは副官を呼んで指示を出す。


「アビウス、おまえ弓は得意だよな?」


「はい」


「なら、先に行ってゾッソの様子を見て来てもらいたい。もしチャンスあればゴットハルトを討って来い」


「は、はい・・・・・・」


「冗談だ。だが、状況によっては独断で動いて構わない」


「わかりました、それでは偵察に行ってきます」


 ユーチェスは副官を送り出すと、ふーっと息を吐いた。この平原の先に広がるであろうまだ見えぬ森は、かつてヘルセ軍を何度も苦しめてきた森である。ヘルセにとって戦況は有利に傾いてきているとはいえ、相手が3大将軍筆頭のゴットハルトだ。油断は出来なかった。




 ユーチェスとエツィオが戦の裏を語りながら進む一方、ゾッソ・ヴァルグはひたすらモンシャウへ突き進んだ。ルンデル内陸部は雨が多く、鬱蒼とした森林地帯が広がる。ゾッソ率いる1万5000の兵は、林の中を進んだ。やがて木々が変わり、ツタやシダが絡み合う深い森へ。そこに雨が降り始めた。


 静かな雨は次第に激しさを増し、葉から滝のように水が流れ落ちる。視界は閉ざされ、気温は急激に下がった。兵士たちの体力は奪われ、ゾッソもこの雨での行軍は厳しいと判断。やむなく雨が止むまで休止を命じた。


 兵士たちは強行軍の中止に安堵し、小隊ごとに木の下で休息を取る。せり出した木の根が座る場所を提供したが、雨の中では火を起こせず、皆が革袋から干し肉を取り出し食べ始めた。ゾッソも木の根に腰を下ろし、干し肉を口にしようとしたその瞬間——地面が微かに震える音を感じた。


 彼は即座に耳を地面に当てる。雨音に混じる、聞き慣れた音——大勢の人間が走る音、戦場の音だ。ゾッソは跳ね起き、咆哮した。


「てめぇらぁぁ、敵襲だ!」


 不幸にも、そのゾッソの叫びは雨音で掻き消されてしまい、後方の軍には伝わらなかった。後方の軍からは複数の悲鳴と断末魔の叫び声が、雨の音を搔い潜って小さく聞こえて来る。


 ゾッソ兵たちにとって災難だったのは、敵が目の前から現れただけではなかったということだろう。ゴットハルトは、バートラムの戦術を模倣した。バートラムの戦術とは、森林地帯におびき出し敵軍が通るコースに弓兵を配置。予め茂みや樹上に潜ませ、奇襲攻撃と同時に矢を射るのである。


 敵が前方から来るだけでなく、上空も含めて四方八方から矢が飛んで来るのだから、ゾッソ兵たちは大混乱に陥った。森林地帯は軍が通れるような道はある程度の幅が必要なため、コースをある程度絞ることが出来る。勝手知ったるルンデルの森だからこそ出来る戦術だった。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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