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王都凱旋2

「殿下、大陸覇権主義という言葉をご存知ですか?」


「いや、聞いたことはないな」


「では、お調べください。そこから色々なことが繋がって見えるやもしれません」


 ジェルモという商人からはそれ以上は聞き出すことが出来なかったが、3大商業ギルドには別の大きな目的があることがわかった。そのために戦争をさせてるのか?結論が出ないまま、アルスはパーティーに出席する合間を縫って、「大陸覇権主義」について城内の図書館で調べることにした。


 三大商業ギルドとは、レオノール大商会、グランバッハ商業協会、ユーベルタール北方商会の三つのことを指す。これら三つのギルドは国を超えて大陸中に支部を持っており、グローバルな経済活動を展開している。商業ギルドは大小合わせて数あれど、これほどの規模で展開しているのはこの三つだけである。

 

 彼らが経済活動によって吸い上げる利益は一国の国家予算を遥かに凌ぐ。そのため、国の財政が立ち行かなくなった場合などは彼らから借金をすることもあり、政治的にも大きな力を持っている組織だ。


「大陸覇権主義」という言葉について書かれている文献を発見することは出来なかったが、いくつかの事件に三大ギルドが関わっていたことを示す事例が載っていた。


 アルスが特に目を引いたのは、数十年前に起きた西方の国ハイデの貴族戦争と呼ばれた事件である。この国の北方貴族の派閥と南方貴族の派閥が反目し合い、遂には大規模な内紛にまで発展したという事件だった。その両陣営の貴族派閥に三大ギルドが資金援助を行い、同時に武器や軍事物資を売り渡していたとのことだった。文献には載っていないが、情報を操作し、内紛を仕向けさせるようにプロパガンダを流したのも恐らく彼らだろう。


 こうやって、資金を提供しながら裏で情報操作やプロパガンダを流して貴族や国を扇動し、戦争をさせて武器を売る。これが彼らの目的なんだろうか?と、アルスは思った。そう考えると辻褄が合うのだが、ジェルモのいう別の目的があるというのであれば、やはりそれだけではないのだろう。


 国は成り立ちも違えば政治機構も経済状況も全く違う。政治的に規制が厳しい国もあれば、緩い国もある。経済活動自体を国が統括管理しているところなどは、民間経済に対して厳しい課税を行っているところもあり、そういったところでは三大ギルドも経済活動がしにくい。


 彼らが大陸中に影響を及ぼすには、そういった政治体制は邪魔なはずだ。ひょっとしたら、彼らにとって国というのは、経済活動を阻む足枷くらいにしか思ってないのかもしれない。そんな考えが頭をもたげて来たとき、部屋のドアを叩く音がした。


「アルトゥース殿下、陛下の準備が整いました。謁見の間へお越しください」


 侍女がそう伝えて来た。


 褒賞授与の儀には、アルス以外にも多くの武官や諸侯が参列する。もちろん、フリードリヒ第一王子やベルンハルト第二王子の姿もそこにはあった。アルスはちらっとベルンハルトの方を見る。ベルンハルトの傍らにはふたりの若い男女が控えていた。見慣れない組み合わせだな、と思いつつも授与の儀は粛々と進んでいきアルスの名前が呼ばれた。


 アルスは陛下の前まで来ると膝をついて頭を垂れる。陛下の隣にいる紋章政務官が目録を読み上げた。紋章政務官とは行政文書に携わる、いわゆる事務方のトップである。


「アルトゥース・フォン・アルノー・ド・ラ・ローレンツ中隊長、(けい)はルンデル軍、南軍二千を退け、ヘヴェテの地を敵の手より守り、敵軍を退けるのみならず敵の将ハインツを討ち取った。さらに加えてエルンの地及びエルン城の制圧を成し遂げた、この働き実に見事であった。これらの功績によりアルトゥース第四王子を第一功とする。これらの功績によって連隊長に任ず。さらに小金貨五百枚、銀貨千枚に加え、エルンの地を領地として治めることを認める。以上、今後一層の働きを期待する」


「はっ」


 アルスはそう言って立ち上がった。いよいよ念願の領地が手に入ったのである。これで魔素の研究やエリクサーの材料となるゴールデン・レシュノルティアの栽培にも手が出せるようになった!


 そう思うと喜びもひとしおである。この後も褒賞授与の儀はつつがなく執り行われた。第二功はフライゼン城を三日間に渡って死守したオットー中将。彼は今回の功績で中将から大将に昇進、第三功はフリードリヒ第一王子並びにベルンハルト第二王子であり、速やかな援軍により敵の総大将ゴットハルトの侵攻を防いだ功績が認められた。


 これに対しベルンハルトは表にこそ出さなかったが憤慨した。その怒りは当然と言えば当然であり、実際にゴットハルト将軍と相対したのはベルンハルトであったのだ。これには、父王の側近たちの入れ知恵で、アルスが第一功と認めざるを得ない以上、王位を継承するフリードリヒ殿下よりもベルンハルト殿下が目立ちすぎては困る。そういういささか強引な配慮が働いた結果であった。


 これにより、ベルンハルトのフリードリヒに対する憎しみが更に増してしまうという皮肉な結果になってしまう。一方、アルスはフリードリヒに声を掛けられお互いにお祝いの言葉を述べ功績を称え合った。フリードリヒは、終始にこやかで今回の功績が如何にローレンツの危機を救い、且つ民衆に希望を与えたかという話をしていた。アルスはフリードリヒのくすぐったくなるような話し振りに、少し困惑しながらも、兄の気持ちがとても嬉しかった。また、アルスは心底嫌だったが、ベルンハルト第二王子にもお祝いの挨拶をした。


「兄上、この度は、」と、言いかけた時、ベルンハルトが遮った。


「失せろ・・・・・・俺は貴様と話すことなど何もない、それとも何か、自分が第一功だったことを俺に自慢でもしに来たか?」


「いえ決してそのようなことは・・・・・・」


「だったら失せろ」


「失礼しました。兄上のご多幸をお祈り申し上げます」それだけ言ってお辞儀をした。


 顔を上げると先ほどベルンハルトの隣にいた若い女性武官と目が合う。ニコッと意味深な笑顔で微笑みかけられたが、アルスはもう一度お辞儀をして踵を返した。


 ベルンハルト兄さんはやっぱり苦手だ。どうしてあんなに嫌われてるんだ?能無しと思われてる僕に第一功を盗られたと思われてるからだろうか。それとも、フリードリヒ兄さんと同じ第三功だったから余計に苛立っていたのかな?そんなことを考えながら王宮の廊下を歩いていると不意に後ろからアルスの耳元で声を掛けられた。


「ねぇ、アルトゥース殿下」


 アルスはその声にぞくっとした。ここは廊下で一本道である。いくら考え事をしていたとはいえ、耳元にまで接近されて声を掛けられるまで気配を全く察知することが出来なかったのである。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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