フランツ・クレマン・リンベルト3
ピエトロは体内で魔素を高速で循環させ、魔素を練り上げることで身体中に浸透させていく。彼が独自の感覚で体得した技術だ。これにより、オーラとして現出したときに、まばゆい光を発するようになったのだ。
ピエトロは強化された身体能力で、矛を思い切り振り下ろす。今まで戦ってきた敵のほとんどは、彼の初撃で一刀両断されてきた。その理由はふたつある。ひとつは、彼の特殊な魔素の練り上げによるオーラが光を発することで目くらましになること。ふたつめは、単純に彼の剣速が凄まじく速いことである。
このふたつが重なると、敵には対処が出来ない。これによってピエトロは剣闘大会で圧倒的な強さを示したのである。だが、目の前のこの男は違った。フランツは、ピエトロの矛の振り下ろしを剣で受け流したのだ。
ギィィィィィィィィィィンという金属音が周囲に響くと同時にズンッと、フランツの馬の蹄が地面にめり込む。速度も威力も十分に乗った一撃をこの男は防いだ。馬に乗ったまま、まともに受ければ馬の脚にもダメージがあるはずだが・・・・・・。
ひょっとしたらそれも見越して受け流したのか?ピエトロは驚きながらも瞬時に切り替え、別の角度から斬り込むが、再びフランツは正確無比に受け流した。フランツは相手の動きを目で追うだけでなく、かつてガルダが体得したようにオーラの流れを読んでいる。こうすることで、ピエトロのトリッキーな攻撃にも動じずに対処出来たのだった。
「チィッ、これならどうだっ!」
ピエトロの身体からオーラが漏れ出ると、攻撃速度がさらに速くなった。矛の攻撃範囲は森のなかでは本来不利だ。振り回せば木に当たるからだが、ピエトロはお構いなしにあらゆる角度から斬り込んでいく。
ところが、ピエトロの矛の先端に込められたオーラにより何本もの木がいとも簡単に斬れていった。斬られた木が四方八方に倒れるだけで、両軍の兵士に被害が出る程である。
ピエトロが発するオーラ量が増大していくと、周囲が真っ白になるほどの光に包まれる。そのなかから凄まじい剣戟を交わす音に混ざって、白い光に抗うかのように両者の間からは赤い火花が無限に生み出された。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ピエトロの叫びとは対照的に、フランツは静かに攻撃を流す。あらゆる角度からの斬撃が、フランツを崩せない。
「おまえじゃ、俺には勝てねぇよ」
不意に呟いたフランツの一言がピエトロの不安と怒りを爆発させた。急速に体内で練り上げた魔素を矛先に乗せ、そのまま上体を捻ってオーラを限界まで圧縮していく。
「白き閃光」
矛先に集められた膨大なオーラを、一点に凝縮することで凄まじい斬撃のオーラを弾き出す。フランツは一瞬にして剣にオーラを集束させた。
「ブラストエッジ!」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!
両者の凝縮されたオーラによる衝突と衝撃で、凄まじい衝撃音と爆風が周囲数十トゥルクに響き渡る。木々が大きく揺さぶられ木の葉が舞い散り、ふたりの周りに落ちていた枯れ枝や枯れ葉は、全て吹き飛ばされ土と木の根が剥き出してなっていた。
「今度はこっちからいくぞ」
フランツの雰囲気がガラッと変わるのをピエトロは感じた。ハッタリ?いや・・・・・・。コイツは俺の全力の技を相殺した。さっきの爆発するような技も今まで見たことがない。
やはり、何かある。ピエトロは一分の隙も見せまいと矛を構え直した。フランツの剣先にオーラが集束し始めたかと思うと、そこから息もつかせぬほどのラッシュを叩きこむ。
「ハッ!さっきと同じじゃないか!」
「どうかな?」
フランツは剣を振り下ろす際に衝撃波を飛ばす。当然、ピエトロはそれに対応するために衝撃波を当てて相殺する。次に、フランツは斬り返して剣を横に薙ぐが、今度は物理的な攻撃のみで衝撃波は飛ばさなかった。
かと思えば、剣と矛が当たる直前に衝撃波を弾き出す。こうなると、ピエトロは相殺が間に合わず身体的な力で抑え込まなくてはならない。僅かなズレが次の対応をほんの一瞬だけ遅らせる。時間にしてコンマ秒単位の隙は、フランツにとって十分だった。飛ばした衝撃波の対応にピエトロが遅れたために、左の脇腹に食らったのだ。
メキメキという衝撃にピエトロは、あばらに鋭い痛みを感じ、折れたのを感じた。
「おまえは、オーラの流れを目で見て追ってるんだ。自分の技に頼り過ぎなんだよ」
フランツの剣先にオーラが集束するのを感じ、ピエトロが死を覚悟した瞬間だった。無数の矢がフランツに向かって飛び、叫び声が上がる。
「将軍!早くこちらに!」
「シセロか!」
フランツが矢を捌いている隙にピエトロはテオドール将軍に助けられ、その場を逃れた。
「ピエトロ将軍、ご無事でしたか?」
「ああ、なんとかな。助かった」
痛むあばらにしかめっ面をしながらピエトロは応える。
「それにしても、おまえがどうしてここに?」
「カロ将軍の命で、ここに急いで来たのです」
「そうか・・・・・・。将軍には礼を言わないとな」
「それにしても・・・・・・」
シセロは、チラッとピエトロの脇腹に目をやる。直前にオーラで緩和したとはいえ、彼の脇腹はフランツの衝撃波をもろに食らっており、鎧が痛々しいほどに破損していた。
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