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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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最悪の決断

 モンシャウ城より東には三つの城塞都市が存在する。北から順にネール、ロイツェン、ベルクだ。ゴットハルトが言ってるのは、主戦場となってるネールよりずっと南の場所である。


「やっぱりそう思うか?」


「思いますね」


「仮に、ロイツェン、ベルクが攻撃されたとしたらどうする?」


 アンリがその質問を聞いて、答えるまでにしばらくの沈黙があった。


「その場合は残念ですが、転進して王都レムシャイトまで下がるしかないと思います。ただ、それも現状では相当難しいです」


「敵は間違いなく北部に集結していた。そこまでは掴んでる。万が一の時はと思ってモンシャウにはヘルムートを置いてきたが・・・・・・」


「ヘルムート将軍の援護があっても、ティターノ相手では撤退する場合、相当の被害が出ます。最悪撤退する前に南との連絡線を潰された場合は、王都と連絡手段すらなくなります」


「だな・・・・・・。覚悟はしとかなきゃならんということか。わかった、ありがとうよ」


 ゴットハルトは雨が降りしきるなか、アンリとの会談が終わるとすぐに自陣へと戻って行った。



 5月6日、夜明け前。東の空が薄いピンクに染まる中、ゴットハルトの恐れが現実となる。ロイツェン東の国境を偵察していた斥候が、泥まみれで駆け戻った。


「ヘルセの大軍、3万が南へ進軍!城塞都市ベルクを目指しています!」

ゴットハルトの目が見開く。


「3万だと!?」


「はい、斥候の確かな報告です!」


「クソっ!こんな状況で撤退して擦り減った後に、さらに3万の軍勢を相手にするなんぞ狂気の沙汰だ」


 昨日アンリも言っていたが、これはそれ以上の最悪の事態だ。敵がロイツェンを狙ってるなら、戦線を下げることも出来たかもしれん。だが、もしベルクを獲られたら南に繋がる東の連絡線は確実に潰される。


 残りは一本、モンシャウ城の南にある街ケルクを通る道しかない。そこが潰されたらルンデルは連絡手段を失い国としての機能を失う。それだけは避けなきゃならん。ゴットハルトは天を見上げた。昨日の雨は上がって、夜明け前の東の空が薄いピンク色に染まり戦場を照らす。人生で最悪の決断をしなきゃならんとは・・・・・・。


「撤退するぞ、俺とエヴァールトで殿を務める。アンリには、独自で好きなように動けと伝えておけ」


 部下が角笛を吹き、ルンデル軍が動き始める。ゴットハルトは矛を握り、薄光の空の下、決意を固める。戦場は新たな試練を迎えていた。




 ゴットハルトの撤退命令は、ルンデル軍に衝撃を走らせた。泥濘の戦場に角笛が響き、兵士たちの間に動揺が広がる。特にエヴァールトは、矛を地面に突き立てて吠えた。


「くそっ!なんでだ!?せっかく押してたのに!」


 だが、伝令兵からヘルセの3万進軍の詳細を聞くと、顔色が変わる。唇を噛み、矛を握り直して沈黙した。



 アンリは指令室で伝令を受け、覚悟していたように静かに頷く。


「撤退の準備を急ぎましょう」


 丁寧な口調で部隊長に指示を出し、地図を広げてルートを確認。動揺する兵士たちの中で、彼女の冷静さが防衛拠点の精神的支柱となってる。




 最も難色を示したのはジャックだった。1万の兵で、ティターノ軍団長マーセラスの2万と対峙する彼は、持ち前の武力と用兵術で辛うじて凌いでいた。伝令兵の言葉に、ジャックは泥濘の地面を睨み、天を仰ぐ。


「・・・は?無理だろ、そんなの!相手はマーセラスだぞ。大人しく撤退させてくれる奴じゃねえ」


「陛下は、撤退に期限は設けず、隙を見て下がれと」


「何だそりゃ!こっちが遅れりゃ、ティターノの全軍が押し寄せてくるって話だろ!二倍の兵力相手に、普通に戦うだけで精一杯だ!」


 ジャックは大袈裟に溜め息をつき、剣を鞘に叩きつける。


「わかりたくねえが・・・わかった。行け」


 伝令兵を追い返し、渋々準備を始める。




 陽が昇る頃、ルンデル軍は泥濘を踏みしめ、撤退を開始した。荷車が軋み、馬蹄が泥を跳ね上げる。だが、ヘルセ軍はこれを見逃さない。ゴットハルトが中央後方を固め、エヴァールトが最後尾の盾壁を率いる。ヘルセの猛攻が、矢と槍の雨となって降り注ぐ。エヴァールトは槍を構え、吼えた。


「来い!俺を抜けるもんなら抜いてみろ!」




 一方、この局面に燃える男がいた。ティターノの若き将軍、ピエトロだ。緒戦でエヴァールトに翻弄され、反撃の機会を奪われた屈辱が、彼の闘志を燃やす。追撃軍の先頭に立ち、ピエトロは馬上で槍を掲げた。


「聞け、ヘルセの兵よ!ティターノが負けたままでいいのか?否!俺たちはヘルセ最強の矛であり盾だ!眼前の敵は逃げ始めた。今こそ、諸君の誇りを、武を、今こそ示せ!さあ、昨日の借りは10倍にして返してやろうじゃないか!」


「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」


 ピエトロの鼓舞に全兵士が割れんばかりの咆哮で応える。彼は馬に乗ったまま、槍の穂先を最前列にいる兵士が持っている槍の穂先に次々と当てて走った。カンカンと穂先同士が当たる度に士気が沸騰する。そして、軍の中央に戻ると槍を天に突き上げて叫んだ。


「突撃ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


 ヘルセ軍が一斉に突進した。泥濘を蹴散らし、角笛が戦場を震わせる。ピエトロの騎馬隊が先頭を切り、ルンデル軍の後尾へ殺到。エヴァールトの盾壁と激突し、金属と金属が火花を散らす。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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