拠点防衛戦~アンリの読み
アンリは部隊長に伝えると、自らは村の南側に急いだ。現場に到着すると、既に兵士が戦闘状態に入っている。
「状況は?」
「第一、第二まで防衛ラインが突破されました。現在は最終防衛ラインの攻防になってます」
「もうそんなに?」
「敵は前衛に突破力のある兵士で固めてまして、短時間で突破されました」
「わかった、ここからは私が指揮を取ります。隘路の外側に出来るだけ多く弓兵を配置してください」
「登ってきますか?」
「想定すべきでしょうね」
アンリはそのまま、最終防衛ラインの戦列に自ら加わり剣を振るった。アンリはオーラ持ちではなかったが、魔素を体内で練り上げ効果的に身体能力を瞬間的に上げる術を身に付けている。また、鍛錬した彼女の剣の腕前は一般兵の比ではなかった。
兵士たちの大振りな攻撃を右へ左へとステップを刻みながら懐に入ると、一気に急所を突く。首であれ胸であれ、ガタイの大きい連中はアンリの的でしかなかった。何倍も大きい身体の兵士たちが、小柄な彼女の剣技の前に倒れていく。隘路であることを活用してアンリは、自身の持つ剣技を最大限に活かした。
それまで順調に防衛ラインを突破してきたヘルセ軍の兵士たちは、急に足踏み状態になってしまう。一方で突破力を期待された前衛の兵士たちはアンリの剣の餌食となって次々と死体となって倒れると、大柄な彼らの屍自体がヘルセ軍の妨害となってしまうのだ。
クラウディオはこの状況に歯ぎしりした。シセロが開いてくれた活路だ。ここで終わりにするわけにはいかない。
「ここまで来ておめおめと撤退は出来ない。この積んである土嚢をよじ登るんだ!登って裏から防衛ラインを突け!」
クラウディオの指示でヘルセ兵士たちは土嚢をよじ登り始めた。高さがかなりあったが、少しずつ登っていく。その間にも、前方から叫び声が聞こえてくる。恐らく、前衛の兵士がまたやられたのだろう。
「俺が直接出る」
クラウディオは周りに言うと、兵士の間を縫うようにして隘路を進んだ。先頭に出たとき、ちょうどまたアンリの剣によって兵士が倒れたところであった。
「くそっ、おまえの仕業か!」
毒づく相手の身なりと様子を見てアンリは直感した。
「あなたが隊長ね」
彼らが剣を斬り結び始めてから十数合を数えた頃、クラウディオの後方から複数の叫び声が聞こえて来る。クラウディオは思わず口角を上げたが、相手の表情を見て違和感を感じた。後方では俺の兵たちが土嚢をよじ登って今頃外でコイツ等の仲間を斬り伏せているころだ。それなのに、なぜこの女の表情はなんだ・・・・・・!?まるで・・・・・・。クラウディオの微妙な表情を読み取ったアンリは、剣を交わしながらクラウディオに問いかけた。
「まるで私に余裕があることが不可思議だとでも言いたげな表情ですね?」
「なっ!?貴様・・・・・・」
「あなた方が土嚢をよじ登ろうとすることぐらい、お見通しですよ」
「では、あの悲鳴は——」
「土嚢の外側に兵を配置してます。登る敵兵は全て射落とします。そのうえで、どちらの悲鳴か判断してくださいね」
クラウディオは焦りを覚える。カロの陽動も、アンリには通じなかった。彼女は最初から南を本命と見抜き、罠を仕掛けていたのだ。
「くそっ!おまえさえ・・・・・・!」
戦場の空は鉛色の雲に覆われ、土と血の匂いが漂う。廃村の防衛拠点で、アンリは土嚢と柵の守りを固めていたが、ヘルセ軍の執拗な攻勢に兵士の疲弊が目立つ。カロ将軍は丘の上から戦況を見据え、唇を歪めた。
「よし、そろそろ俺も行くとするかな」
「カロ将軍!?」
カロの呟きを隣で聞いていた兵は耳を疑った。先ほど、アンリが築いた防衛拠点を落とすよう部隊長ふたりに命じたのはカロ自身である。
「なんだ?俺が出ないとは言ってないぞ。あのふたりだけで防衛拠点が落とせるなど端から思ってないからな」
「それでは・・・・・・!」
カロはその言葉に無言で頷いて、矛を掲げて叫んだ。
「3000俺について来い、正面をぶち破る!」
角笛が鳴り響き、ヘルセ軍3000が土煙を上げて突進。鉄の鎧が軋み、鬨の声が廃村を震わせた。
この動きにいち早く気付いたのは、右翼を指揮していたゴットハルトである。ゴットハルトはカロ将軍の動きの意図を読んですぐに部隊長に指示を飛ばした。
「予備隊1000を拠点の南側に食らいついてる敵兵のケツに向かわせろ」
ゴットハルトは敵の左翼軍から騎馬と歩兵の混成部隊が出るのを見ると、自ら出陣した。
「敵の騎馬兵を止める、ついて来い!」
兵士が鬨の声を上げながらゴットハルトに尽き従う。ゴットハルトは巨大な矛を片手で一回転させると、敵の騎馬隊に向かって矛先を突き出す。その合図で一気に兵が動き出した。
「ったく、おちおち飯を食う暇すら与えてくれんな」
ゴットハルトは小さく呟くと、アンリの守る廃村をチラッと見た。
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