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最弱国の魔素無し第四王子戦記(無限の魔素と知略で最強部隊を率いて新王国樹立へ)  作者: たぬころまんじゅう
第五章

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ビルギッタの政治工作

 ロムルスとの謁見の翌日、事態は暗い影を深めた。ダルジェントの北、オッター・ヴォーが賊に襲われ、炎に包まれたとの報せが届いた。三日後、ガイウスの心にさらなる重石がのしかかる。


 新聞社がダルジェントから逃げ出したという美しい少女を特集し、越してきたばかりの一家が賊に惨殺された記事が広まった。フォーリアの城に届いた新聞を、ガイウスは手に取る。窓の外では雨が石畳を叩き、蝋燭の光が揺れる。以下は少女ローゼのインタビュー抜粋だ。


「買い物から帰ると、母がキッチンで倒れていました・・・・・・」


 ローゼの声は涙に震え、しばらく言葉にならない。


「母の手には、七歳と一歳の妹がぐったりと。駆け寄りたかったのに、足がすくんで動けませんでした。声をかけても、もう・・・・・・」


 記者が静かに問う。


「他のご家族は?」


「呆然としていると、剣を持った兵士が恐ろしい顔で近づいてきて、私を連れ去ろうとしました。父が私を守って戦ってくれたけど、斬られてしまって・・・・・・」


 ローゼは肩を震わせ、涙を拭う。


「どうやって逃げたのですか?」


「近所のおばさんが手を引いて、家に隠してくれようとしたんです。でも、おばさんも殺されて・・・・・・その後、笛のような音がして、兵士はいなくなりました」


「伝えたいことは?」


「私たちはただ平和に暮らしたかっただけなのに・・・・・・」


 ローゼはうずくまり、嗚咽を漏らす。


「賊はルンデルが関わっていると聞きました。陛下に復讐してほしい。私たちの痛みを、彼らにも味わわせたい」


 記事は、ローゼの涙とルンデルへの報復心を強調していた。ガイウスは新聞を握りしめ、立ち上がるが、力なく椅子に崩れる。雨音が心に響く。賊を捕らえて真相を暴くことすら、もはや意味を失うかもしれない。


 国民の怒りに火がついた今、誰にも止められない。甘かった。たかが野盗と侮ったことが、こんな事態を招いたのだ。


 ガイウスは政務官を呼び、インファンテ州のロムルス伯爵と、ソリーニ州のジザ・シルバティ辺境伯に現地の様子を探るよう命じる。結果は予想通りだった。ダルジェントとオッター・ヴォーが焼き払われ、記事の影響で国民の怒りは沸点に迫っていた。




 フォーリア城の北に、ペルミエールという街がある。ヘルセ最大の交易都市で、ゴドアとルンデルを結ぶ中継地だ。市場の喧騒が響き、商人の声が石畳の通りを満たす。大陸中の商業ギルドが集まり、三大ギルドの名もその中に。レオノール大商会の堂々たる建物の一室で、ビルギッタが支部長室の扉を叩く。重い木の扉が軋み、書類が散らばるデスクの向こうに、老年の女性が座る。


「失礼します」


 フローセル支部長は、ビルギッタを見るや、皺の刻まれた顔に微笑を浮かべる。


「あら、ビルギッタさん。あなたの活躍は聞いてますよ。今度の計画を立案したのもあなたでしょう?」


 ビルギッタは、フローセルが既に知っていることに内心驚くが、表情を崩さず答える。


「ええ、フローセル支部長」


「それにしても大変だったでしょう。ローレンツからこんな遠方まで」


「いえ、それよりお聞きしたいことが。ダルジェントの記事の件です。なぜ私が来る前に計画が進んだのですか?」


 フローセルは口元に手を当て、くすりと笑う。


「すみません、あなたはローレンツで忙しいかと思って。遠方まで来るのに時間がかかるでしょうから」


 この老いぼれ、私の手柄を奪う気か! ビルギッタの目が一瞬燃えるが、冷静に続ける。


「お手数をおかけしました。ですが、私が来た以上、今後は私が全て責任を持って進めます」


「そうね。あ、そうそう。下の部屋に、件の記事のヒロインが来てるわよ」


 ビルギッタは怒りを抑え、一礼して部屋を出る。下の階の部屋には、ソファと小さなテーブル。ソファに座る若い少女が、ビルギッタを見て立ち上がり、丁寧にお辞儀する。


「お久しぶりです、ビルギッタさま」


 ビルギッタは微笑む。


「楽にして座ってて。何か淹れるわ。コーヒー? 紅茶?」


「紅茶でお願いします」


 ビルギッタは紅茶のカップをテーブルに置き、向かいのソファに腰を下ろす。


「ローゼ、あなたの記事を見たわ」


「ダルジェントは行ったこともなくて、自分で調べて少し脚色したんですけど……どうでしたか?」


 ローゼは不安そうに目を上げる。


「ストーリーも演技も、完璧よ。さすが私が選んだだけはある」


「あ、ありがとうございます!」ローゼは両手を握り、心底嬉しそうに笑う。


「一生懸命やったけど、うまくいったか自信がなくて」


「素晴らしい出来だった。ただ・・・・・・」


 ビルギッタの声が低くなる。ローゼの顔が曇る。


「いえ、あなたのことじゃないの」


 あの女、新聞社を一社しか使わなかった。波及効果が薄い。ビルギッタは内心で舌を打つ。功を焦ったのはどっちだ?


「もういくつかインタビューを受けてもらうけど、いいかしら?」


「え!? あれで終わりって言われたんですけど・・・・・・」


 ビルギッタは心で毒づく。詰めが甘いのはフローセルだ。


「ごめんなさい、予定が変わったの。追加の報酬は出すわ」


「それなら、頑張ります」


 その後、ビルギッタは複数の新聞社を手配し、追加の記事を広めた。ローゼは悲劇の美少女を演じ続け、ダルジェントの悲劇はヘルセ全土に響き渡った。市場で怒りの叫びが上がり、酒場で報復の議論が熱を帯びる。ビルギッタは、ヘルセの国民感情を煽ることに、見事に成功した。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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