賊の正体
ダルジェントの領主であるロベルト・ボルゲーゼ子爵が見張りを強化する指示を出しても効果が無い始末。業を煮やしたロベルト子爵が賊の捜索を命じ、それと思われる集落を襲撃するももぬけの殻であった。その後も被害は拡大し続け、焦る子爵の元に新たな情報が入る。衛兵隊長であるリッカードが見たのは、イライラしているロベルトの姿であった。
「ロベルト子爵、よろしいでしょうか?」
「また被害が出たのか?」
ロベルトは部屋のなかを行ったり来たりしてイライラを隠す事もしていない状態である。リッカードはこれ以上、彼に何か言われる前に結論を言う事にした。
「いえ、賊の住処と思われる場所を特定致しました」
リッカードがその言葉を告げた途端、ロベルトの足が止まった。
「それは確かか?」
「はい、私の部下が確認しています。見張りもつけておりますので今回は確実かと」
「よし、なら私も行くぞ」
「子爵ご自身がですか?」
リッカードの驚いた顔をロベルトは睨み返す。
「ここでじっとしてろと言うのか!?この手で決着をつけねば気が済まん!」
ロベルトが部屋を出て行くのを見て、慌ててリッカードは追った。そして、今度は子爵自身が兵を率いて賊の住処に攻め入る。そして、彼が現場に到着して見た光景は見張りをしていた部下の無残な死体だった。
「いったい何がどうなってる!?」
ロベルトの苛立ちにリッカードは答えられないでいた。その代わりに部下と共にすぐに賊の住処と思われた建物内を捜索する。今は思考していても仕方がない。行動で示すしかないと思ったのだ。
「隊長!」
「どうした?」
「机の下の箱のなかにこんなものが・・・・・・」
部下が差し出したのは鎧の上に着用するサーコートである。サーコートの胸の部分には記章があり、そこには旗印が刻まれていた。一着ではなく、他にも箱から数着が出てくる。
「これは・・・・・・!」
リッカードはすぐにロベルトのところに戻り、サーコートの記章を見せる。
「なんでルンデルのサーコートがこんなところにあるんだ!?」
「申し訳ございません、そこまでは・・・・・・」
「賊だと思っていた今までの襲撃は、ルンデルによるものだったということなのか?」
「この記章を見る限りは、そうなるかと」
一方、賊は衛兵が出払って手薄になっていた間隙を縫って、針で突くようなタイミングでダルジェントの街を急襲して火を放った。ここでも不可解な出来事が起こる。いくら衛兵が少なくなっていたとはいえ、街の城門は閉まっていた。
それが、賊が攻め入るタイミングで城門が開かれたのだ。街の衛兵は成す術もなく次々と賊の餌食になり、続いて住民が犠牲になった。
「よし、おまえら!金目のもんは奪ったな?そろそろ時間だ」
賊の頭目が声を掛ける。
「へへっ、こんなうまい話はなかなかないっすね」
「ふんっ、監視役がいなきゃもっと自由にやれんだがな」
頭目は横目に、馬に乗った兵士を見る。その兵士だけは明らかに周囲の賊とは雰囲気が違った。寡黙で自分から喋るようなことはせず、仲間内の話にも参加したことはない。依頼者からそんな彼を同行させることを条件にされたのだった。彼が話すのは、いつどうやって行動をするかという情報を話す時ぐらいだ。
実際、彼のもたらした情報で襲撃は上手くいってる。命も助けられた。腕は立つし文句を言うこともないが、誰とも慣れ合うことはしない。そんな部分が頭目にとっては不気味な部分であった。彼はチッと舌打ちをしながら続ける。
「情報通りだが、まだ報酬はもらってねぇ。ここでヘマやらかすなよ?」
「了解っす」
「よし、指示通り火を放て!奴らが戻って来る前に逃げるぞ!」
賊は一斉に火を放ちながら、逃げ惑う街の住民を斬り殺して馬で逃走する。ロベルトたちが戻って来たのは、街が火に包まれた後だった。ロベルトは拳を握り、怒りで声を上げるが、街に放たれた火を鎮火するだけで精一杯である。追跡隊を組織するも十分な人手を割くことが出来なかった。
そして、この報告は州を統治するロムルス・ディッカーリオ伯爵の元へと届く。報告書に目を通していたロムルスは、執事から客人が来ていることを告げられた。その客人とは、北のソリーニ州を統治するジザ・シルバティ辺境伯である。
ロムルスとジザは旧知の仲であり、ロムルスの信頼できる友人であった。ロムルスがまだ家督を継ぐ少年時代から家族同士の交流があり、彼とは同じ学び舎で長い時を過ごしたのだ。ロムルスは連絡を受けて玄関の扉を開けると、ちょうど馬車の扉からジザが降りてくるところだった。ジザはロムルスの存在に気が付くと屈託のない笑顔で手を振る。
「よおっ!元気か?」
「ジザ!おまえ、こんな時に屋敷を離れて大丈夫なのか?」
ジザの統治するソリーニ州には、現在も襲撃にさらされているオッター・ヴォーの街がある。ジザは一瞬複雑な表情をするが、すぐに笑い飛ばした。
「ハハハ!はっきり言って大丈夫じゃないな」
「ならどうして俺のところなんか・・・・・・」
「だからこそだよ。取り敢えずなかに入って話そう」
いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。
☆、ブックマークして頂けたら喜びます。
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。




