降臨祭の裏で・・・2
「降臨祭は、リベイラから東にあるコルティッソの街にある教会で行われることになっている。奴はそのためにリベイラ城を離れて移動する」
「そのおっさんて必ず出席する保証はあんのー?」
「大丈夫だ。ラモンはガーネット教信者であり、領主という立場から必ず出席しなければならない。ましてそこの教会には司祭、助祭に加えて司教も参加するのだ。奴の立場なら絶対に参加しないといけない」
「ふふ。本国を裏切ったりしちゃったもんだから、信用されてないんだろうねぇ。んじゃあ、教会に行く前にやっちゃう?」
サシャは暗殺する話になって、急にやる気になっている様子だ。なぜミラさまはジャン将軍でなくコイツを寄こしたのか。つくづく疑問だ。アシュはそう思いながらも口には出さずに淡々と答える。
「いや、それだと人目につく恐れがある。ミサは夕方から夜にかけて行われるが、ラモンは毎年宿を取らずにそのまま居城に帰っている。狙うなら帰りだ」
二週間後、三人の姿はコルティッソの街からリベイラへ続く街道を外れたところにあった。
陽は沈み、星々がキラキラと夜空を飾るが、冬を抜けたばかりの三月の夜は肌を刺す寒さだ。焚火の残り火がわずかに暖を提供していたが、時刻になると三人は火を消し、闇に溶け込む。草のざわめきと遠くの鳥の鳴き声が、静寂を際立たせる。
やがて、遠くから複数の馬の蹄と、馬車の車輪が軋む音が聞こえ始める。視界に入った騎兵の数は二十ほど。騎兵たちが持っている松明のお陰でよく見える。朝確認した数と同じだ。
リザはアシュと目を合わせると、アシュも頷く。一方サシャは街道から外れた茂みに潜んでいた。馬車が近づいて来ると巨大な矢を取り出し、やはり巨大な弓を構える。彼女が普段使っている弓よりは一回り小さいが、それでも相当の大きさだ。
「あたしの弓持ってくるわけにはいかなかったし、自分で作るにも苦労したんだよ。なんであたしがこの任務頼まれたかよくわかんなかったけど、今わかったわ。あたしじゃなきゃ、馬車の車輪を射抜いて地面に釘付けにするなんてこと出来ないもんねぇ!」
サシャのオーラが高まる。
「さぁ、今までの鬱憤晴らさせてもらっちゃうよぉ♪」
弓を引き絞っていくたびに、弓と弦が不気味な音を立ててしなっていく。張力が限界を超えて弦が切れる寸前になったところで、サシャは渾身の一矢を放った。ドンッ!!という発射音が鳴る。サシャの放った巨大な矢は、正確に車輪を射抜く。
ドッパァァァァァァァァァァァァァァァン!!!
馬車の下で爆発音が起こった途端に、車輪が地面に突き刺さった矢に引っかかり、回転をし始めた。その衝撃で馬車のバランスが崩れ横倒しになる。馬車のなかから悲鳴が上がる前にアシュとリザは動き出していた。
「何事だっ!?」
「周囲を警戒するんだ!」
護衛騎士たちが警戒を呼び掛けるなかで、覆面をしたアシュは、ナイフを握りしめると真っ先に馬車に飛び込んでいく。リザはアシュが走り出したと同時に騎兵に向かってオーラの斬撃を飛ばした。飛ばされたオーラを至近距離から食らった騎兵の首が吹き飛ぶ。騎馬兵が馬車の周りを囲むより前に片っ端から片づけていった。
アシュは的確に騎兵の喉にナイフを飛ばし、騎兵が倒れて空いた隙を縫って倒れた馬車に飛び乗る。後ろから迫る騎兵ふたりがいたが、後ろから飛んで来た一本の巨大な矢によって、ふたりとも串刺しにされたまま吹き飛んでいった。
アシュは悲鳴が聞こえる馬車の扉を開ける。なかには老年の男性と女性が怯えた表情で乗っていた。
「み、見逃してくれ!金ならやる!」
男が叫んだ言葉には一切反応せずアシュは静かに尋ねる。
「ルナンド公から伝言がある」
その言葉を聞いて少し男の表情が変わる。ルナンド公爵は帝国から奪われた領土を回復しようと勇む王と諸侯を説得した人間だ。彼がいなかったら私は反逆者として吊るし首になっていたかもしれない。その彼が使いを寄こしたというのか?しかし、それならなぜ部下を皆殺しにする必要がある?なぜ、この場所なのか?なぜ、今なのか?
「ラモン・ノルヴァータだな?」
男が固まっているので、アシュはもう一度確認する。
「おまえがそうだな?」
「いかにも、私がラモンだ」
その瞬間、ラモンの喉元にはルナンド公爵家の紋章の入ったナイフが突き刺さっていた。
「ルナンド公爵からの伝言だ、受け取れ」
ラモンは、薄れゆく意識のなかでこの男がルナンドの使いではないと悟る。だが、隣で泣き叫んでいる夫人にはもはや何も伝わることはなかった。
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