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ソフィアのたたかい

「なんで俺らのほうがルンデルの連中より先に決めたのに後回しなんだ」


 フランツは部屋をグルグル歩き回り、床のモザイクタイルを踏み鳴らす。ソフィアは苦笑し、扇子で軽く顔を仰いだ。


「たぶん、私たちが新参者だからだと思いますわ」


「新国は向こうも同じだろ?」


「それはそうですが、ゴットハルト王には理由もあったようですし」


「理由、理由ってなんだ?」


 フランツの問いに、ソフィアはゴットハルトがルンデルの王位を奪った経緯を説明する。3大ギルドの傀儡政権を打破し、ランツベルクの利権を奪還した彼の行動は、ゴドアにも知られていた。フランツは全てを聞き、押し黙った。


「つまり、3大ギルドの支配を断ち切るために、あのおっさんは王位を奪ったって言うのか?」


「私が調べた上での結論ですわ。前国王の治世は、はっきり言って最悪でしたもの」


 フランツの頭に、ゴットハルトの豪快な笑顔が浮かんだ。


(確かに、あの男が無意味に王位を奪うとは思えない。国を救った英雄と言ってもいいのかもしれん)


「ゴドアも付き合う国を選ぶってわけか……」


 ソフィアは頷く。ゴドアにとって近隣のルンデルは情報が入りやすいが、レーヘのファニキアは遠く、アルスが力で王位を奪った人物と見られている可能性があった。


「なぁ、もしゴドアの王様が俺たちと国交を結ばないとしたらどうなるんだ?」


「そのときは、ファニキアは滅びますわ」


「ははっ、滅ぶって? いくらなんでもそんなことあるか!?」


「断言できますわ」


 いつも笑顔のソフィアが、珍しく神妙な表情でフランツを見た。その瞳に宿る真剣さが、部屋の空気をピリつかせる。フランツのおどけた思考が一瞬で凍り付いた。


「それ、本気で言ってるのか?」


「フランツさまは戦闘は天才ですけど、世界情勢に疎すぎますわ。ゴドアは帝国に次ぐ大国ですが、帝国はさらに強大ですわ」


「そりゃ、帝国が強いことぐらい俺だってわかってるよ」


「いえ、わかってませんわ。帝国がその気になれば、100万単位で軍を起こせます。帝国軍と誓いの聖騎士団、この二系統の軍はそれぞれ数か国の軍に匹敵するのですわ」


 フランツは反論しようとしたが、口をつぐんだ。レーヘの軍ですら10万だった。怪我で戦に参加せず、アルスに留守を任された自分が何を言えるというのか。


「それだけではありませんわ。もっと厄介なのは、帝国軍と聖騎士団が別々の命令系統、別々の意志で動いていること。これが帝国の動向を読みにくくしているのですわ」


「ひとつの国のなかにふたりの王・・・か」


「そう思ってもらって構いませんわ。皇帝と教皇、彼らは太陽とソィンツェ・ルーナと呼ばれ、それぞれの領域で絶対的な権力を持ってますわ」


「なるほどな。じゃあ、この会談はアルスや俺らにとって死活問題ってわけだな・・・・・・」


「ゴドアの王は、私たちの考えや物の見方を知りたがっているのだと思いますわ。大丈夫です。それが王にとって有益であれば、必ず国交は結べますわ」



 そこまで話したとき、ドアがノックされ、召使いから準備が整ったと告げられた。ふたりは召使いの後を追い、謁見の間へ向かった。謁見の間は、巨大なドーム天井に星空のモザイクが輝き、金と青の織物が壁を飾る。床には幾何学模様のタイルが敷き詰められ、衛兵が槍を構えて両側に並ぶ。


 中央には、金で豪華に装飾された玉座があり、髭を生やした壮年の王、ハサード・アブライーヒム・ゴドア四世が座す。その傍らには、青いローブの高位政務官が立つ。ハサードの鋭い視線が、会釈するフランツとソフィアを貫いた。


「ハサード陛下、お目にかかれて光栄ですわ。私はファニキアのアルトゥース王の使者、ソフィア・フォン・バウアと申します」


「フランツ・クレマン・リンベルトだ、です」


 フランツのぎこちない敬語にドキドキしながら、ソフィアは続けた。


「ファニキアは新国ですが、3大ギルドの謀略を撥ね退け、ガーネット教の支配を退けて樹立致しました。アルトゥース王はローレンツでも度々3大ギルドと対立して参りました。その志は陛下と同じ崇高なるものだと思っておりますわ」


 ハサードは身じろぎもせず、椅子の肘掛けに肘をつき、ソフィアの話を聞く。その圧力にソフィアが話を続けていいか迷っていると、王は「続けろ」と短く命じた。ソフィアは懸命にファニキアの建国経緯や理念を語るが、王は頬杖をつき、相槌も頷きもしない。ハサードの真意が読めないまま、ソフィアは熱弁を振るう。


「隣国、ルンデルとの戦いの折には——」


「わかった、もうよい」


 ハサードが片手を挙げ、謁見は終了した。控えの部屋に戻ると、フランツの怒りが爆発する。


「くそっ! なんだってんだあいつは。散々ソフィアに話させておいて、勝手に止めて追い出すとか、舐めてんのか!?」


 ソフィアは俯き、床のタイルを見つめるばかり。フランツが文句を吐き出すと、彼女が部屋の隅の椅子で肩を震わせているのが目に入った。一番辛いのは俺よりアイツだよな。アルスがこの会談を託したのは、ソフィアならできると思ったからだ。シャルミールの魔女ミラを説得したのだってアイツだ。フランツはソフィアの隣に座り、ぎこちなく頭を撫でた。


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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