レーヘの王3
ラザールがいつもの調子で罵倒したのがまずかった。一瞬、行動するのを躊躇した兵士の視界にラザールの頭上に打ち付けてある板の文字が入る。看板にはこう書かれてあった。
『この男を助ければ、貴様らは全員ここで死ぬ。しかし、最初に殺した者には褒美をとらす』
それを読んでいる兵士に気が付いた他の兵士たちも、ラザール王の異常な姿と看板の文字に気が付いた。
「おい、これって・・・・・・」
「ああ・・・・・・」
ラザールには頭上の看板に何が書いてあるかなどわからない。兵士たちが、なかなか自分を助けずに小声で話しているのを聞いて激怒した。
「おいっ!ふざけるなよ貴様らっ!余の命令が聞けんのか!聞けないというなら、貴様らの家族も同罪で死罪だ!」
兵士たちは、ラザールの罵声で呟くのを止めた。一瞬の静寂の間を於いて、ひとりの兵士が鞘から剣を抜いて進み出た。
「早くこの縄を解けっ!」
ラザールがそう言った瞬間、その兵士はラザールの腹を剣で貫く。ミラを追う直前、ラザールが脇腹を蹴り飛ばした兵士であった。
「ぐ、がああああ!き、きさまぁぁぁぁ。ち、血迷ったかぁ・・・・・・!」
「血迷ってなどいない、あんたにはほとほと嫌気がさしてんだ。あんたを殺して褒賞がもらえるなら最高の気分だ」
それを見て、周りにいた兵士たちも次々と剣を抜きラザールに突き刺す。ラザールの身体には無数の剣が突き刺さっていった。やがて、見るも無残な肉片となったラザールを前に兵士たちは口々に叫ぶ。
「ミラ侯爵!ラザールは殺した!俺たちは降伏します」
エルム歴737年の初夏、レーヘ王国の王ラザール・フィリップ四世は自軍の兵士たちによって殺害されるという皮肉な最期を迎えた。
次の日、アルスたちはフリードリヒとレラ湖の北で再開する。フリードリヒは、レーヘ軍が退いた後に残っていたクロード伯爵の軍を撃破。放っていた斥候による情報収集をした結果、すでにラザール軍が降伏したとの報告を受ける。驚いたフリードリヒは南に展開していたアルス・ミラ連合軍の存在を知って、合流したのだった。フリードリヒはアルスの姿を見ると、駆け寄って手を握る。
「アルス、おまえがやってくれたのか!?」
フリードリヒの問いにアルスは軽く首を振って後ろを振り返る。後ろにはミラを始め、リヒャルト、フリッツ、マリア、パトス、ベル、ヴェルナーなど錚々たる仲間たちが並んでいた。
「僕ひとりでは何も出来ませんでした。彼らの助けがあってようやくここまで辿り着いたんです」
フリードリヒはアルスの言葉を頷きながら聞いていた。
「そうか、おまえは良い仲間を持ったな。ありがとう。皆も国の危機を救ってくれたこと大義であった。感謝してもしきれない」
アルスはこれまでの経緯をフリードリヒに簡単に説明する。彼は、アルスの話に終始驚きを隠せない様子であったが、ミラに目を止めると深くお辞儀をした。
「ミラ侯爵とお見受けする。この度の貴女の協力深く感謝します」
「この際だからはっきり言っておく、儂はアルスだから協力をしたのじゃ。貴様が儂にラザールをけしかけてきたことは忘れておらんからな。それと、約束は守ってもらうぞ」
ミラが言った約束とは、シャルミールの自主独立である。
「もちろん、わかっている」
ミラはニヤッと笑うと、話を続けた。
「ついでだからもうひとつ要求する。うまくいけばレーヘ国内を平定するつもりだったんじゃろ?じゃが、貴様は結局何もしとらん。アルスと儂に助けられただけじゃ。平定には協力してやるから、アルスにレーヘの王の座を譲れ。それでラザールの件は帳消しにする、どうじゃ?」
これを聞いて一番驚いたのはアルスである。ミラがそのようなことを考えていたとは全く予想していなかった。まさしく寝耳に水である。
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