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レーヘの王2

 ドミニクに促され、取って返そうとした時である。隘路の曲がり角からミラが姿を現した。


「おやおや、くそブタ国王が、よもやしっぽを丸めて逃げる準備でもしておるのか?」


 ラザールからミラがいる距離までは、僅か200トゥルクほどである。ラザールはまたも怒りに囚われ、全力で馬を疾走させた。


「おのれ小汚い魔女がっ!」


 数十トゥルク馬を走らせたところで、ラザールの傍を走っていたドミニクが落馬する。正確に言えば、サシャの放った矢がドミニクの身体を貫いた衝撃で刺さった矢と一緒に後方に飛ばされたのだ。


「ド、ドミニク!ドミニクゥゥゥゥゥゥ!!」


 後方に飛ばされたドミニクに、ラザールは馬を捨てて走り寄る。ラザールが近寄ると、ドミニクの視線はすでに定まっておらず、口から血の泡を吹いていた。


「ち、ちち、うえ・・・・・・」


 騎馬隊がラザール国王とドミニク王子の周囲を囲むように並ぶ。やがてドミニクが絶命するのを見届けると、ラザールは叫んだ。


「おのれ、おのれぇぇぇ!!!息子の横に魔女の首を添えてやるっ!」


 そう叫んだ時、周囲を固めていた騎馬兵の首が一斉に飛んだ。身体だけになった騎兵が次々に血を吹き出しながら落馬していく。ラザールは「ヒッ」と小さく叫ぶと尻もちをつき、息子の遺体から後ずさった。いつの間にか陽は沈み、残照に照らされた湖のオレンジがまるで血のように見える。


 倒れた騎兵の正面からヒュンヒュンと風切り音が聞こえたかと思うと、ドミニクの周りの騎兵たちも次々と血を噴き上げて倒れた。チャリ、チャリという音とともに褐色の肌の男が現れる。男の手には、チャクラムと呼ばれる丸い金属の輪っかが握られていた。


「アシュ、捕らえるんじゃ」


 ミラの声が聞こえた瞬間、ラザールは彼女の声がするほうを見る。その直後、「チャリ」という音が耳元で聞こえた。ビクッとしてラザールが見上げると、先ほどの褐色の男がいつの間にかラザールの後ろに立っている。国王の周囲を守っていた騎兵たちは、もういなかった。この一瞬で何があった?騎兵たちの代わりにそこにいたのは、その男の部下たちであった。


「立て」


 無数のチャクラムを身に付けた男が指示する。ラザールの喉元にはナイフが突きつけられていた。ラザールはよろめきながら大人しく立ち上がる。先ほどとは、まるで別人のように大人しかった。手を後ろ手に縛られ、アルスとミラの前に引き立てられる。ラザールはミラの姿を見ると憎々しげに罵った。


「魔女めっ!おまえのような魔女は殺しておくべきだった!」


「ブタが、言うことはそれだけか?」


 ミラは冷たい目でラザールを見下ろす。


「黙れっ!余の兵が貴様を必ず地獄に送るだろう」


 その言葉を聞いてミラはニヤリと笑う。横で見ていたアルスは、ミラのその笑顔がまるで氷の魔女のように感じた。


「ならば試してみよう。貴様のその忠実なる兵がどうするかをな」


 ミラは、シャルに命じると湖のほとりに生えている木にラザールを裸にして括り付けた。そして、彼の頭のうえに板を打ち付ける。ミラが合図すると、ラザール軍を襲っていた伏兵はミラとともに再び丘の向こうに姿を消した。


「余を助けよ!早く余を助けるんだっ!」


 ラザールは大声で叫ぶ。やがて、後続の軍がやって来るころには周囲は闇に包まれていた。彼らは、声のするほうに気が付くと、一斉に向かい始める。湖のほとりの木の傍に焚火が燃えており、そこに裸にひん剥かれたラザール王の姿があった。


「へ、陛下!?」


 騎馬隊のひとりが近づいて声を掛ける。


「早く助けよ、このノロマどもがっ!余を待たせるなっ!」


いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。


☆、ブックマークして頂けたら喜びます。


今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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