ラヴェルーニュのたたかい3
「なぁ。すまないが、もういちどポッツォ将軍のところに行って、斥候からの報告があったらすぐに報せて欲しいと伝えてくれないか?」
ジョゼは伝令兵に再度伝えたが、その返事がもらえることはなかった。それもそのはずであり、ポッツォ将軍が送った斥候は全てアシュ・アズィールと彼の部下によって消されていた。彼らがいくら待っても、斥候からの報告など届きようがなかったのだ。こうしてジョゼの心配とは裏腹に、軽装歩兵同士の小競り合いが始まることで斥候の件はうやむやになってしまう。
軽装歩兵同士の小競り合いが終わると、先にレーヘ軍が動いた。ポッツォ将軍が号令を掛けるとマクシミリアン軍の歩兵部隊が前進を始める。圧倒的な数の力で圧し潰すというシンプルな作戦だった。
マクシミリアン軍のその動きを見てアルス・ミラ連合軍がすぐに動く。角笛が鳴り響くと、連合軍の左翼を担うジャン将軍が3000の騎馬隊で突撃したのだ。これに対してマクシミリアン軍の対応は遅れる。
北側は川が流れていて、騎馬にとって移動できる面積が狭い。まさかこんな地形で騎馬戦になるとは思ってもいない、そのため対応が遅れたのだ。もちろん、ジャンはそれを想定したうえで敵の左翼騎馬隊に突っ込んだ。お互いに激突するも動けるスペースがない。機動力のない騎馬兵など翼をもがれた鳥と同じである。ところが、ジャンが指揮する騎兵は違った。ジャンは薙刀を高く掲げて叫ぶ。
「よぅしっ!全員馬を降りて三人一組で敵を叩くんだっ!今なら敵は動けん」
ジャンの指揮するシャルミール騎馬兵団は、馬の膝を折らせて自在に座らせることが出来る特殊な訓練を積んだ騎兵である。騎馬兵たちは慣れた手つきで手綱に付けた杭を地面に打ち込むと、動けなくなって立ち往生している相手の騎馬隊を槍で次々と倒していった。
事態は同時に展開していく。ポッツォ将軍率いる歩兵部隊3万6000がアルス・ミラ連合軍の歩兵部隊と激突した。
「圧し潰せ!」
アルスが敷いた特殊な陣形は、歩兵部隊の中央だけが三日月型に膨らんでいる。当然、最も出っ張った中央部隊が先に衝突した。ポッツォ将軍の激で、マクシミリアン軍の歩兵部隊は数を頼りにぶつかっていく。金属と金属がぶつかり、兵士たちの怒号や雄叫びが戦場を包み込む。最初の激突からしばらくすると、連合軍の前線は数の圧力により次第に崩れ始める。
「よし、徐々に後退する!」
その様子を見てアルスは中央部隊の後方から後退の合図を出した。
「ヴェルナー、前線の左翼側が押され過ぎてる。少し支えて欲しい」
「わかりました!」
急に崩れ始めている箇所を部隊長に支えてもらいつつ、少しずつ中央部分が凹んでいく。一方その頃、マクシミリアン軍右翼騎馬隊は壊滅の危機にあった。
「ハハッ、敵さんは俺たちの馬と川に挟まれて完全に身動き取れてないな」
「ジャン将軍、この状況をあの王子は読んでたってことですよね?」
「そうなるな!もっとも!こんな芸当出来るのは!俺たちぐらいだがね!」
ジャンは喋りながらも、敵兵を次々と斬り倒していく。
「おまえら、三人一組で確実にやれよっ!焦るこたぁねぇ、もうここは勝ったも同然だ」
丘陵地帯で戦況を見守るミラは、腕を組みながら刻一刻と移り変わるその様を睨んでいた。左翼の騎馬隊の様子を見ながらミラが呟く。
「そろそろじゃな」
その呟きを隣で聞いていたエルザが頷いた。
「ここまで、アルスさまの思った通りの状況になってますね」
「なに、こんなの序の口、これからが本番じゃ。右翼騎馬隊に合図を出せ!」
ミラが右腕を高く掲げながら叫ぶと、角笛と太鼓の音が響き渡った。それを聞いたリザ将軍が号令を掛ける。
「騎馬隊、突撃する!」
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