ラヴェルーニュのたたかい2
「大丈夫。勝つための算段はしてあるから。あとはさっき言ったとおりに各自動いてもらいたい」
「わかった!」
「気張れよ、ジャン。貴様がこの戦いのカギを握ることになるかもしれんぞ?」
ミラがニヤッと笑ってジャンに声を掛ける。
「おう、騎馬兵の装備を変えてくらぁ!」
そう言うと、ジャンは天幕から出て行った。アルスは両翼に騎馬兵を置き、中央に歩兵を配置するオーソドックスな布陣を敷く。その布陣のなかでも中央の歩兵部隊を厚くした。
「中央の部隊は僕が指揮するよ。この戦いは中央の軍の動きが最も重要になる。僕の補助をギュンター、ヴェルナーにお願いしたい。それからガストン将軍」
アルスは、ミラに散々バカ笑いされてむくれているガストンにも指示を出していく。
「重装騎士団は歩兵部隊の両翼の後方で待機してもらう、合図があるまで決して動かないで。それと、中央の後方部隊に騎士団を100人ほど回してくれないかな?ここが今回の要になる」
「わかりました」
ガストンは短く返事をする。
「アルス殿下、儂はどうすれば良いんじゃ?」
「ミラ侯爵は丘陵地帯から全軍を見てもらいたい。特に敵軍が丘陵地帯に登らないようにしてもらえると助かるよ。上から見られたくはないからね」
「了解じゃ!そういうことなら・・・・・・アシュはいるか?」
ミラは周りを見回すと、ひとりの浅黒い肌の男が前に進み出た。
「はっ、ここに」
あれ、この雰囲気って・・・・・・。ジェルモに似てる?アルスがそんな風に感じていると、ミラはアルスの疑問を感じ取ったかのように説明をし始めた。
「アシュ・アズィール。この男は元々ゴドアの暗殺戦闘集団『フィダーイ』の出身じゃ。戦闘力は折り紙付きなうえ部下も手練れじゃ。貴様も参加してもらうぞ」
アシュは黙ってミラに頷く。彼が動くたびに、両腕や腰に掛けられたいくつものチャクラムが光を反射するのが印象的だった。
「じゃあ、そのあたりのことはお願いするよ。ミラ侯爵にはもうひとつやってもらいたいことがあるんだ」
「何でも言ってくれ」
「丘陵地帯からは全体の動きが見えるはず。それを見て右翼の騎馬隊出撃の合図と、ガストン将軍の率いる重装騎士団にタイミングが来たら旗で合図を送って欲しい」
「お安い御用じゃ!」
それを聞いて、アルスはパンと手を叩く。
「さあ、これであとは作戦を実行するだけだ!勝ちにいこう!」
「「「「「おおおおおおおう!!!」」」」」
こうしてアルスが描いた陣形が完成した。左翼にジャン将軍率いる騎兵3000、右翼はリザ将軍率いる騎兵2000で両翼を埋める。中央は戦列を一枚横に並べた歩兵部隊が固め、歩兵部隊の両翼の後ろにはガストン将軍率いる重装騎士団3000が左右に分かれ縦に陣を敷く。
そして、歩兵部隊の中央にも重装騎士団100名が入り、そこにアルス、ヴェルナー、ギュンターの三名で連携して指揮を取った。このとき、アルスは中央の歩兵部隊の層を出来るだけ厚くする陣形を築く。
こうして相対したアルス・ミラ連合軍2万1000対マクシミリアン軍4万は、軽装歩兵同士の小競り合いから始まった。しばらく戦闘を続けると中央からは濛々と土煙が上がり、見通しは悪くなる。
「よしっ!今ならお互いの陣は見えない。今のうちに中央の歩兵部隊だけを押し上げる」
アルスの合図で、中央の歩兵部隊だけがどんどん前に出て行く。やがて、出来上がった陣形は歩兵部隊の中央だけがパンのように膨らんだ奇妙な陣形となった。しかし、この異変にマクシミリアン軍は気付くことが出来ない。平地から見ただけでは、相手の陣形が膨らんでいるかどうかなどわからなかった。
一方、レーヘ軍も同様に両翼に騎兵部隊を配置。右翼・左翼ともに2000ずつの騎兵部隊をポール・タリとジュレ・スータの部隊長ふたりが率いる。残りの3万6000の歩兵部隊は一枚の戦列には到底収まりきれず、第二列、第三列まで陣が深く伸びた。
総指揮はマクシミリアン麾下のポッツォ将軍が取ることになる。ここでポッツォ将軍は、両翼にマルード・リアンクール将軍、ロシュ・モティーエ将軍を配置し、自身は先頭よりやや後方に立った。ジョゼ将軍は完全に後方の配置となる。伝令がポッツォ将軍のところに来たのは陣が完成してしばらくしてからだった。
「ポッツォ将軍!ジョゼ将軍より伝言です」
「ジョゼ・・・・・・何だ?」
「はっ、丘陵地帯に斥候を送って欲しいとのことです」
「そんなことか、すでにやってる。ジョゼにそう伝えておけ」
しばらくして、そう返事をもらったジョゼにはある疑問が浮かんだ。送っているとしたら、何故斥候からの報告が無いんだ?それとも送ったばかりだったのか?高所から見渡せる場所がここら一帯には、あの丘陵地帯にしかない。伏兵には使えない場所だが・・・・・・。何か引っ掛かる。
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